03 衣装箪笥
『どうか惑わされぬようしてくださいまし。』
メイドは声を揃えて私たちに言った。
どういうことだろうか。そう思い、再度辺りを見回す。
ドレス、布、レース、トルソー、そして花。
どこを見回しても続く飾られた空間。
甘くて上品な花の香り。
一言で言えばこの部屋は異様だった。
怪しいものが多すぎる。全部が罠に見えるのだ。
「どういうことですか?」
白詰草がメイドに聞いた。
メイドのうち一人が口を開く。
「ここでは『花』の皆様方に……。」
メイドが口を噤んだ。そしてどこからか銀時計を取り出す。
もう一方のメイドは金時計を見ている。
「失礼致しました。どうやらもう一人、『花』様がいらっしゃるようです。」
メイドが続ける。
「『春紫苑』さま『白詰草』さま。もう一方のメイドが案内いたしますのでお先に奥へお進みになってください。」
そして銀時計を持ったメイドは足早に部屋から退出していった。
「それではこのまま私めの後についてくださいまし。」
もう一人のメイドが私たちの案内をする。
私たちは少し緩やかな速度で歩みを進めた。
レースの花畑のような空間を進むと、少しひらけた空間に出た。
ここもまた同様に布とレースと花に囲まれた空間だったが、
そんな空間には似つかわない無機物が鎮座していた。
大きくて平たい黒い液晶…モニターだ。
また、空間にには私たちの他に何人かの少女がいた。
緊張感のある張り詰めた空気だが、
立ち姿から見る限り全員が戦闘において素人のようだった。
私はモニターがよく見える入り口付近に立つ。
白詰草も私の隣に並んだ。
緊張して顔の強張っている白詰草をよそに、私はさりげなく周りを観察していると
少しして先程退出した銀時計のメイドが少し早足で戻ってきた。
メイドの後ろには一人の少女が連れられていた。
臙脂色のフード付きマントを羽織った女で、
瓶底のような分厚いレンズのメガネを着けていた。
マントの下には素朴だが、趣味のよいワンピースを着ている。
彼女は部屋の状況を見てそそくさと動く。
図らずとも入り口のそばにいた私の隣で止まった。
マントを羽織った女は隣にいる私と白詰草に会釈する。
その時にフードから一房の髪が溢れた。
輝くような金髪の髪だった。
彼女の服装は平民のそれを模しているが、
最高級の素材を使っていることが見て取れる。
清潔で美しい金髪といい、所作といい、
平民のふりをしているがきっと高貴な身分のものだろう。
平民のふりをしている真意はわからない、というか全然模せていない。
だが警戒しておくに越したことはないだろう。
そんなことを考えつつ、ここにいる人間たちを一通り観察していると
モニターに電源が入り、画面が表示された。
場がざわつく。
『やあ、美しき“花”の皆様、ご機嫌よう。』
画面には一人の男が映っている。
道化師の格好をした男だ。
赤青黄黒白、カラフルな髪に左右で違う色の目をしている。
姿格好からして王国の道化師なのだろうが、恐ろしく奇天烈な格好だ。
自分は危険人物です。と自己開示しているような見た目だ。
自身から警告信号を出しているのだ。
近づかないに越した事はない。
『急にここに集められて緊張してるのかな?だよねー、こんなの前回やってないし!』
随分と緩い話口だ。
『けど緊張してちゃ可愛い顔が台無しだよ!ほら、スマイルスマイル!』
道化師は本題に入らず、ずっとのらりくらりと話している。
早く本題に入れよ、皆がそう思った時、画面越しに変化があった。
『おい、ぺちゃくちゃと喋んな。早く本題に入れ。』
モニターにもう一人映る。
それも同じく道化師であった。こちらは女で同じく左右の色の違う目をしていた。
ただ髪色は白一色のみで、それを緩く結えていた。
『いだだだだっ!!ちょっ、髪引っ張んないで、痛いって、痛った!ハゲる、ハゲるからやめてって!!』
女の道化師は男の髪を鷲掴みにし、ぶんぶんと頭を振った。
『ちゃんとやる、ちゃんとやるから!』
男の髪がようやく離される。
『ハッハー!お待たせしました、それでは君たちがなんで集められたのか気になるだろう?僕が一から教えてあげ』
道化師の説明が長かったので要約すると、
今回の舞闘会は想定より参加者が多く、トーナメント戦が長々と続くと観客も飽きてしまうので
人数を減らすために、後半に来た人間は前哨戦を行うらしい。
『と、いうことだ。気になるバトルの内容は簡単!』
『宝探しだ!!』
『君たちは今、衣装箪笥の中にいる。その中から自分にぴったりのドレスと鍵を探し、部屋から脱出してくれたまえ!』
道化師が大きく息を吸う。
『ゲーム、”公女の衣装箱”ここに開幕だ!!!』
読んでくださり、ありがとうございました。




