それは住み分けが必要です
城に戻ると三人と二匹は、お菓子を用意しお茶を飲む。大抵はケーキなどの洋菓子だが、今日は煎餅を選んだので飲むのは緑茶だ。ただしアンジェだけは緑茶の渋みが辛いらしいために、冷たい麦茶を用意した。
「五日後に行くときに、何かデザートでも作って持って行かない?」
「良いわね。きっと皆も色々持って来るでしょうし、ぬいぐるみ渡しておしまいじゃ、つまらないもの。こんな約束、久しぶりだし楽しみだわ」
「確かに、何日後までにあれこれ作って欲しい、って頼まれる事は有っても、どこかに遊びに行こう、みたいなのは無いね」
これがスローライフと言うのだろうか。考えたが、あれは田舎で自分の食べる野菜を作って、余り人と関わらずに暮らすイメージだから、何となく違う気がする。
亜美奈の勝手なイメージで、当たっている自信は無いが、特に問題は無い、事にしよう。
「後、ぬいぐるみ六個分の材料を取りに行くの、手伝って貰って良いかな?」
「もちろんです」
「私もOKよ。せっかくだから、先にも進みたいしね」
「でも、今日はもう、終わりです」
亜美奈も桃子もやる気満々。今直ぐにでも行きたいと言うのに、何故だかアンジェが駄目を出す。
あれくらいは、働いた内に入らないのに、なぜだか突然、働き過ぎに煩くなったアンジェである。
「じゃあ、お土産の練習兼ねて、夕食後のケーキでも作ろうか?」
「賛成で~すっ」
作ると言う行為は同じなのに、お菓子ならなにも言わない。天使が甘い物を好きで良く食べるのは知っているが、態度が違いすぎると思う亜美奈だった。
一層目を数回クリアして、それから第二層に向かう。既に貰っているせいか、一層目に入った時に特別な精霊を保護するチャンスは無く。けれどその他については同じだった為、一回目と同じように楽しくクリア出来た。
当然だが、ボス戦も楽に終える事が出来た。
「じゃあ、次の階層に行ってみるです」
「「おーっ!」」
一~二層目と同じように、細い道を通る。この時は妙にドキドキして、けれど少し嬉しい。
細い道に精霊が現れるのも、一層目と同じらしい。今度の精霊は、どんな魔法をくれるだろう。楽しみに手を伸ばして見ると、水色の石が手の平に落ち、新しい魔法をくれた。
「先ずはウォーターボールです」
「二つ目はシャワーね」
シャワーと言うと、どうしても風呂を思い出すが、多分そう言う物では無いだろうと思われる。
そして今回は二つだけだった。初めに三つだったのは、回復系の魔法を持たせてくれる為だったと思う亜美奈だ。
「そう言えば、一層目のボス精霊がくれたのって、何だったんだろう?」
「私は豊穣の芽だったわよ」
「私のは、緑の元です。亜美奈のは何です?」
二人とも違う、魔法の名前。亜美奈の物も、魔法の一種では無いかと想像はするが。名称的に、余り魔法っぽく無い為言い辛い。
「亜美奈?」
「種……」
「はい?」
「種なの」
空気が白んだ。 なんだそれは、そう言いたげな視線が亜美奈を苛む。
「ま、まあ、とにかく使ってみましょうよ」
「はいです」
念の為距離を取り、前方に向けて種を撒く。桃子とアンジェの魔法も名前が違うだけで、杖の先から種が前方に飛んだが、何故だか亜美奈は本当に撒くと言う感じになった。
「何も起こらないわね」
「起こらないです」
念の為、もう一度撒いてみるが、やはり何も起こっていうくれない。何かやり方が有るのだろうか。
「何か、種を撒いた後にする事が有るのかしら?」
桃子が小さく呟いた。
それを聞いて、直ぐに思い付いたのは、シャワーの魔法だった。スマホのゲームでも、種を蒔いたら水を撒く。その時表示されるのは、じょうろ等のシャワー状の水だ。
試しにシャワーの魔法を、種を蒔いた場所に向けて放ってみる。すると、瞬きをする間もなく、地面から緑が芽吹き太く、細く、蔓となって伸びて行った。
「凄いですっ。蔓が魔物を捕まえてるです」
伸びて行った蔓は、飛び交う魔物を捕らえると、締め付ける事で攻撃し、やがて魔物は弾けるように消えて行った。
後に残るのは、幾つものカプセル。初めの階層と同じように、中にはアイテムが入っている。
更に、辺り一面埋め尽くす、色とりどりの花々には、目を奪われずにいられない程だった。
「城の庭に、この花を咲かせたいわね」
「良いね。花壇にする? それとも、一面埋め尽くしちゃう?」
「どっちも良いですっ」
魔法でササッと出来てしまうのは、楽で良いが悩ましくも有る。どちらにしても手間は一緒だし、出来上がりはきっと夢のように美しい事だろう。
「せっかくだから、両方にしましょうよ」
「両方、です?」
なる程、場所によって変えるって事だ。と、すると。
「門の中は、噴水や道を整備して、季節の花を楽しみましょう」
「外側には芝生を敷いて、桜やモミジ、百日紅とかで季節を演出するとかどうかな?」
「桜は中でも良くない?」
桃子の提案ももっともだ。確かに、花を思い浮かべればキレイなだけだし、部屋から見える桜並木にも憧れる。けれど亜美奈は力説してしまう。
「桜の葉っぱって、物凄~っく、毛虫が付くんだよね」
そしてその毛虫は、風が吹くと降って来るのだ。花が終わったら、近付かないでおける場所に有る方が良い。
「それは、住み分けが必要なのです」
物は言いようとは良く言ったものだが、確かに住み分けは必要なので、桃子も、そして亜美奈も頷いた。
つづく




