言わない方が楽しい事も有るよね
これ以上話し続けると、ここに花壇の見本を作り出しそうなので、亜美奈は先に進むよう促す事にした。やり方は簡単。元気いっぱい、適当な掛け声を張り上げるのだ。
「とにかく。先に進んで、ボス戦行くよーっ」
「「おーっ」です」
「だから、そこは『です』は付けないのよ、アンジェ」
「そうだったです」
ともあれ、その後は順調に進み、四大元素プラス緑の魔物と必殺技を取得する事が出来た。
はっきり言って、拍子抜けだった。
ヒットポイントがゼロになったら、ダンジョンの外に出される。アンジェがそう言っていたから、攻撃して来るのだと思っていた。
武器を持って攻撃するのは、実は余り得意ではないから、少し心配していた亜美奈達だったが、魔法による攻撃だけで倒せてしまった。
「ケガしないでクリア出来るのは良いけど、訓練にはならないよね」
「訓練、です?」
「大陸に行くと危険な事も有るから、攻撃魔法の練習の為に、このダンジョンを作ってくれたんじゃ無かったっけ?」
確か、そんな事を言っていた気がする。色んな事があって、あやふやになっているけど。
「本当です、そう書いて有るです」
ノートを確認し、アンジェは大きく頷いた。
「あと、このダンジョンは成長するそうです」
「成長?」
「私達の強さに合わせて、ダンジョンの魔物も強くなるのかしら?」
「まさか、時間の経過で強くなってく、なんて事は無い、よね?」
桃子の言うように、コチラの強さに合わせてくれるなら、問題無い。けれど、もしも放置している間に魔物が強くなって行くとしたら。
怖い考えに取り憑かれそうで、亜美奈は首を左右に振った。
「クリアする毎に、強くなるって書いてあるです。最後のボスを倒すのが、レベルが上がる目安です」
「なら、手に負えないって思ったら、ボスを倒さないで入口付近から順に、経験値稼ぎすれば良いんだね」
「そうね。聖霊獣以外にも、モチモチ素材のクッションやヌイグルミは沢山欲しいし」
「ウンウン、癒しだよねえ」
元の世界の亜美奈の部屋にも、沢山のヌイグルミとクッションが有った。百円ショップで安く売っていたからだが、モチモチの感触は、誰だってヤミツキになるのだ。
モチモチの綿はボスを倒す必要が有るが、初めの階層だからそう強くは無い。ただちょっと、行き来が面倒なだけだ。
「でもそれなら、三層目も巡回して良いかな?」
「三層目って、何か有ったです?」
「確か土関係だったわよね。インゴットとか、宝石とかがゴロゴロと出てきたような?」
精霊石が宝石の様な見た目で、しかもゴッソリと持っているため、亜美奈は勿論、桃子も宝石には余り興味が無いのだ。
勿論、キレイな物は好きだが命が宿っているせいか、精霊石はより美しく感じる。
とはいえ、加工するなら宝石の方が使いやすいし、売る事も出来るので要らない訳ではない。しかし、今回亜美奈が欲しいのは宝石じゃ無い。
「ミスリルが欲しいんだよね」
「聖剣でも作りたいの?」
それはそれで面白そうだし、今後ダンジョン探索を進めて行くのなら、いずれは必要になるだろう。けれど今は、もっと別の用途の為に必要なのだ。
「武器じゃなくって、ステンレスの代替品。錆に強くて熱伝導も良いし、丈夫で加工もしやすいでしょ? 見た目もステンレスっぽいから、フライパンやバーベキューの焼き網とか作るのに、丁度良いかな、って思って」
「ミスリルのフライパン? ネタキャラとかに居そうだけど、確かに、これまでテフロン加工されたフライパンばかり使ってたから、焦げ付かないのは嬉しいかもしれないわ」
「スキルで料理すれば、焦げ付いたりしないです」
それは分かってる。
スキルなら時間も掛からないし、失敗もない。レストランの料理の様に、いつも安心の出来映えなのだ。
けれど大勢で食べる時は、たまには焦げ付いてても良いし、ワイワイ肉を焼く楽しみも味わいたい物なのだ。
「バーベキューは、出来上がった物を楽しむというよりも、作る過程を楽しむものなのよ」
「それにミスリルフライパンなら、料理スキルを持って無い人も失敗無く料理出来る様になるのが良いよね」
勿論、味付けまでは保証出来ないのだが。
「後、ダンジョンのご褒美宝箱の中身に、ミスリルの短剣や護符とか入れとくと、本物のダンジョンっぽくて格好良くない?」
「格好良いけど、初心者ダンジョンにミスリルは行き過ぎじゃないかしら?」
「毒防止や、体力強化が付与された、小さいペンダントなら、きっと有りです」
それは良いかも知れない。けれど、毒防止のペンダントを付けて気が大きくなって、フグとか食べる人が出て来そうで、ちょっとだけ心配だ。
「じゃあ、自信がつくまで、三層目までをグルグルするです」
「そうね。ならさっそく……」
「ご飯を食べるです」
言われて初めて気付く。アンジェに促されて城に戻って見れば、窓から見える景色はとっぷりと日が暮れた夜の物だった。
ダンジョン内は洞窟とは思えぬ明るさだし、城の中も自分達で電気を点ける必要無く、常に一定の明るさが保たれている為、時間の感覚が無くなっていくのだ。
「お土産用のお菓子や料理も考えないと行けないし、亜美奈は、ヌイグルミも作らないと行けないのよね」
大勢集まれば、当然始まるのは宴会、パーティーだ。まだアルコールは飲めないが、ジュースや甘い物だけでも意外と盛り上がる。
全員アルコールが飲める年齢になる頃には、旅客機で来たあの人達が造るお酒が、いい感じに出来上がっているはずだ。
「ヌイグルミは、始めちゃえばそれ程時間掛からないで出来ちゃうから、焦る必要は無いけど。制作でもダンジョンでも、一つの事に根詰めてやるのは良くないかもね」
それに、素材もクッションも、コピーで幾らでも増やす事も出来るから、無理に取りに行かなくても構わない。と言うのは、言わない方が良いだろうか?
「ご飯食べるなら、一旦部屋に行って、聖霊獣連れて来ないといけないわね」
「えっ、バッグに入れとかなかったの?」
つづく




