もう一つタマゴ
「嘘、です……」
呆気なく拒否され、今度こそ泣き崩れる。
こうなったらもう、掛ける言葉が無い。誰よりもぬいぐるみを欲しがっていたのを、間近で見ていただけに、こちらまで悲しくなる。
しかも亜美奈達にはして上げる事が無いのだ。別のぬいぐるみを作って上げた所で、アンジェは喜ばないだろう。
ため息すら吐くことが出来ず、桃子と二人で困っていると。
「これ、卵です?」
突然、アンジェが妙な事を口走った。
「アンジェ、どうしたの?」
可愛い手の中に、確かに卵と思える物体が有った。薄いピンクの、真珠の様な輝きを放つ物体が。
「ど、どうしたの、それ?」
「卵、と言うより、大きな真珠の様だけど」
形は確かに卵だ。けれど見た目は、卵と言うよりも宝石と言った方が良い位に美しかった。
「分からないです。なんか突然、手の中に現れたです」
「鑑定は? アンジェも鑑定出来るのよね?」
「そうでした。サーチです…… 卵、です」
「それだけ?」
「です」
鑑定は、人によって見える物もその質も、見え方も変わって来る。
その為、アンジェが『卵』としか見えなかったとしても、全くおかしくは無いのだけど。
「私達も、鑑定してみても良いかな?」
「はい、もちろんです」
大きさはダチョウのの卵サイズかもう少し大きい位。真珠の様な輝きのせいなのか、その卵から生き物が生まれて来る様には思えない。そんな卵だ。
「「サーチ」」
アンジェの手の中に有る卵に、桃子と二人で慎重に触れ鑑定してみた。
「天使の卵、のなり損ない? 基本、砕いて宝石として使う、って出たわ。亜美奈は?」
「私のは、『天使族の卵、ただし無精卵。有精卵を創れるのは、聖王のみ。無精卵は導きの役割を持つ天使族が作れる。砕いて作った宝石は杖にし、導く『神の手』に授ける』って出たよ」
これによればアンジェには、生まれ付き決められている特別な役割が有るらしい。
導きの役割を持っているらしいが、現在アンジェには、それがどんな仕事なのか知らない様だった。
「取り敢えず今日は、その卵を持って帰って、聖王様に聞いて見たらどうかしら?」
未だ唖然としたままのアンジェは、少し遅れて頷いた。
不思議な事が立て続けに起きたせいで、脳が上手く働いてくれていないらしい。
「ついでにこっちの、持ち主のいないぬいぐるみも、持って行って聞いて貰えるかな?」
「はいです」
差し出したぬいぐるみの卵を、アンジェはバッグに詰め込んで、入れ替わりに扉を取り出した。預かるだけだからか、今度は普通に持つことが出来た。精霊の意思が反映されているのだろうか、不思議なぬいぐるみだ。
「では、また明日です」
帰るにはまだ大分早い時間だが、すでにアンジェは帰る気満々だし、ここに残った所で使い物にならないだろうからそれで問題は無いが 、相変わらずのマイペースだ。
自分達はどうしようか。考えて、顔を見合わせた所で、メッセージが届いた音が聞こえた。
「ラエルさんからだわ」
「私のほうも。引っ越しが始まるから、荷物を運ぶ箱を納品して欲しい、って」
「私には、水筒と食材だわ」
今回の引っ越しは、近場への移動になるらしい。それでも、一泊は野営の必要が有ると書かれている。
初めての野営は、きっとキャンプ気分で、楽しい思い出になるだろう。
心菜と真鈴、三人で過ごした、初めての野営を思い出す。
「カレーを用意出来れば良いけど」
キャンプと言えば、やっぱりカレーライスだ。用意して上げれば、きっと喜ぶだろうが、何でもかんでも用意して上げるのは違う気がする。
「人数的に難しいかな。一回出すと、定期的に売らないといけなくなるし」
旅客機で来た町の人々位の人数なら、それも可能だけれど。
「スパイスを調合して、カレーが作れる人が見つかったら、町の近くに造るダンジョンに、レシピと一緒に設置してみても良いかもね」
カレーにうどん、蕎麦、ラーメン。日本人なら毎日でも食べたい料理だ、簡単に入手出来るようにして上げたい気が無い分けでも無い。
けれどこの地でずっと暮らして行かなければならない以上、工夫して何かを作り出す強さも必要かと思うのだ。
魔法やスキルで、何でも出来てしまう亜美奈が言っても、 『お前が言うな』という感じなので、大きな声では言わないが。
「色んな食べ物を知っている人達が、工夫して、どんな食べ物を作り出すのか。楽しみでは有るわね」
桃子が言った言葉は、亜美奈が言いたくて、だが、見つからなかった言葉だった。
つづく




