アンジェが作った
翌朝、昨日とは打って変わって上機嫌でやって来たアンジェは、テーブルの上に日本のブレスレットを置いた。それは魔術と魔法の杖であることが判ったが、同じなのはデザインと大体の色だけで、亜美奈達が持っている物とは明らかに別の力が宿っているのが伝わって来た。
アンジェの説明によれば、そのブレスレットは聖王の手ほどきを受けてアンジェ自身が作った物だと言う。しかも素材の一部は、昨日アンジェが育んだあのタマゴが使われていると言う。
「これを、アンジェが作ったのね。凄くキレイだわぁ」
『神の手』のブレスレットは金と銀。アンジェが取り出した物も、確かに金と銀なのだが、パールのきらめきを持っていた。
「本当にキレイだねぇ」
昨日、城に戻ったアンジェは、真っ直ぐ聖王の元に行き卵を見せたのだそうだ。
結果。アンジェの造った方の卵は、鑑定通り『天使族の卵の無精卵』であり、『神の手』に渡す魔法と魔術の杖を作る素材だと言われた。
そして亜美奈の卵の方は、別の大陸で『聖女』と呼ばれる、『神の手』の下位互換のような存在の、パートナーになる特別な生き物が産まれるらしい。
「そうですっ。ぬいぐるみのタマゴは、バッグの中に入れっ放しだと産まれないそうです」
「そ、そうなのね」
「昨日から、ずっと入れっ放しにしてた」
亜美奈も桃子も、慌ててバッグから卵を取り出した。
「抱えていると良いそうです」
「朝食の用意をした後で良かったわ」
「ちょっと食べにくいけどね」
左手で抱え、右手で食べる。サラダやスープはまだ良いが、パンは片手では千切れないため、ちょっと食べにくい。
その為、モタモタ食べている亜美奈と桃子だったが、いつものように山のように積んであるパンは、問題無くアンジェのお腹に消えて行く。
「どのくらい抱えていれば、孵るか聞いてる?」
どんな生き物が産まれるか、楽しみでは有るが、抱いたままでは何も出来ない。
このままずっと、お喋りしているだけと言うのも、暇すきて頂けない。
「人によって違うと言ってましたです。産まれるのに必要な力が有って、それを持っている量が、人によって違うからと言ってたです」
「成る程ねぇ。って、……」
必要な力と聞いて、亜美奈は思い出した。
「ねえ、私達、これまで一度しか、精霊の開放やって無いよね」
「そう言えば、してなかったわねえ」
精霊を保護し、成長させて解放する。それが『神の手』の大切な仕事だったはずだ。
当然、それを優先させなければならない筈だったのだが。あれこれイレギュラーな仕事が飛び込んで来たため、保護はともかく解放の方は、これまで一度しか行えていなかった。
忙しかったという言い訳は有っても、これはちょっと拙いのでは無いだろうか。
「保護と解放なら、卵を抱えていても出来そうだし、ちょっと足のばして、散歩して来ない?」
「それは良いわね。じゃあ、先日の四国なんかどうかしら?」
「賛成です。大嵐の後どうなったか、気になるです」
亜美奈が提案すると、桃子とアンジェは瞳を煌めかせて喜んだ。タマゴを抱えてお喋りするのは一緒でも、目的が有ると無いとでは気分が違うのだ。それに亜美奈も、台風の後のあの辺りがどうなったか、少しだけ気になっていたのだ。
「私も賛成。ここからうんと離れてるから、どんな精霊がいるか気になってたんだよね」
場所によって、精霊が持っている魔法やスキルに違いが有るのは、これはまでの経験で大体だが分かっている。
海には海の、山には山の生活に合う魔法やスキルが有るのだ。
亜美奈のイメージだと、四国と言えばうどんだが、それは人が住んでいる状態での産物だから、この世界には当てはまらないだろう。
だからもっと、自然に関する何かが、見つかったら良いと思う。
「お昼ご飯は、向こうで作って食べようか」
「面白いです。何作るです?」
「四国と言えば、うどんよね」
「だよね。最も、素材はダンジョン産だけど」
初めに暮らした家の側に、うどんを初めとする日本食ダンジョンがある。何時でも好きな時に食べられるように、ダンジョンで採れる食材は、常に白い箱に入れて持ち歩いているのだ。
「じゃあじゃあ、四国に道を繋ぐです。目標は、」
「病院が有った場所はどうかな?」
今は建物は無く、避難用ダンジョンが在るだけだ。
「OKです。行くです」
つづく




