小さな人
誰か居る。
扉を抜けたその真っ直ぐ行った所に、纏まって十数人が立ち話をしていた。街の人々は全てダンジョンを使って、移動してしまったと思っていた亜美奈達に緊張が走った。
不思議な力で大きな扉を使って病院を転移させたり、遠方まで歩けるダンジョンを造ったりしているのだ、扉をくぐって移動するなどここの人達には今更だろうが、やはり注意は必要だ。皆がみんな、良い人の訳は無いのだから。
「あそこに居るのは、ラフェル様です」
一人、飛び抜けて背の高い男性。こちらに背を向けていたため、気づく事が出来なかったが。言われて見れば、確かにラフェルだ。亜美奈達は、見知った姿を見付けることが出来て安堵する。
「一応、挨拶くらいして置いた方が良いよね?」
「そうね、こんなに近くにいるのに、無視したら感じ悪いわ」
とは言え、何か揉めているようで、声が掛けにくい。あちらの話が終わるまで、適当に座って待つことにした。
「こんな所に、ベンチなんか有ったかしら?」
三人、並んで座って。一息吐いてから聞くとは、桃子も大概ノンビリだ。
或いは、アンジェに影響されたのかも知れないが。
「私が作って持ってた奴。この辺、座る所無いでしょ」
「そう言えばそうね。あっ、精霊がいるわ」
始め、ラフェル達の方に固まっていた精霊が、亜美奈達を見付けて寄って来た。
自分達の周りの精霊が減った事を不思議に思ったか、ラフェルが振り返り笑顔を見せてくれた。
「いつも亜美奈は、タイミング良く現れますね」
手を振りながら近付いて来たラフェルが、良い笑顔で言った。面倒ごとを押し付ける気満々という表情だ。
「そう言えば、何か騒がしい所で会いますね」
騒がしいと言うか、騒ぎの有るところと言うか?
「何か有ったんですか?」
あちら、と言うように集まっている人達に、手の平を向けると、精霊の光が集まって来て石になって地面に落ちた。追い掛けなくても勝手に保護されてくれるのは、とても楽で良いが、拾い忘れが無いようにしなければいけない。
「実は、一人小さな人がいまして。家族が『神の手』の一人しかいないせいで、連れて行くかどうかで揉めているのです」
「ああ、『神の手』の中に、一人だけ普通の人はまずいてすね」
「いえ、それは小さい人も『神の手』なので、問題は無いのです。それに、唯一有った問題点も、亜美奈達に会えたおかげで解決しました」
「「「私達?」」」
三人、わけが分からないと、顔を見合わせた。
「アンジェ。初めに造った十組のブレスレットは、指示があるまで使わずに持って置くよう、聖王様に言われていますね?」
「はいです、ちゃんとバッグの中にしまって有るです」
特に一番初めに作った物は記念にしたいと、別の入れ物にしっかりしまい込んで有ると言う。
指示か有ったら出さなければならないのだから、ずっと取って置けるとはアンジェも思っていないが、ギリギリまでは取っておきたいのだそうだ。
「私が指示を出します。初めの十組の内の一組を、こちらの方に差し上げてください」
「え、と…… この子に、ですか?」
アンジェが戸惑うのも当然で、ラフェルが指し示したのは、小学校に上がったかどうかと言う年頃の女の子だった。
以前の話しでは、これぐらいの子供は親と引き離す事は出来ないため、もっと大きく育ってから『神の手』として声を掛けると言っていた。
「あの、この子は私の従姉妹なんですけど。ご両親が所用で出かける為に、私が半日だけ預かってた日に、あの大転移が有ったから」
「つまりこんなに小さいのに、親と離れてしまったんですね」
後、一日ズレていればと思っても今更で。唯一の血縁者と引き離すのも、少女の事を考えれば出来ず。ここでずっと、少女の今後を話し合っていた所へ、亜美奈達がやって来たと言うことだった。
「わかまりしたです。でもどうして、初めの十から何です?」
アンジェは首を傾げ、不思議そうにしている。
作成済みの杖がいくつ有るのか、亜美奈は知らない。鑑定では砕いて石になった状態の物を使って、杖を作るとなっていた。
だから当然、一つの卵から幾つもの杖が作れるためラフェルも気安く指示を出せたのだろう。
「初めに作った十の杖は、心の成長を読んで、使える魔法やスキルを限定する事が出来るのです」
「イタズラで魔法を使ったり、危ない制作スキルは発動しないって事です?」
「そう言う事です」
「「「おーっ」」」
全員、思わずの声を上げた。
小さな子供に魔法を使わせるのは、中々難しい。けれど『神の手』で有る以上、全く何もしないで良いと言うわけは無く。
「小さいからと言って、魔法を使わせずに『神の手』の中で育てると、歪みを生じる事にもなりかねません。それでアンジェの作った杖のように、未熟な『神の手』の為の杖が必要になるのです」
なるほど、確かに周りのみんなが魔法を使っているのに、『あなたは子供だから駄目』だと言って、魔法を使わせずにいると、僻んだりする子供になってしまいそうだ。幼い頃、変に抑圧されると良くないとも言う。
だから本来なら、親元で愛されて育ち。ある程度心が成長してから、『神の手』で有ることを伝え、魔法やスキルの練習を始めるのが好ましいのだ。
「わかまりしたです。ラフェル様、これが最初の卵から作った、魔法と魔術の杖です」
笑顔で渡そうとしている所を見ると、あれは幾つかある内の一組なのだろう。
だがラフェルはそれを受け取らず、アンジェは首を捻る。
「アンジェは、いずれ『導く者』になるのです。そしてこれはその第一歩。ですからそれは、自分で彼女に渡して上げなさい」
「『導く者』って、私がです?」
「そうですよ。もちろん今は、ただ未熟なだけの赤ちゃんですけど」
幼くは見えるけれど、さすがに『赤ちゃん』と言うほどでも無いのに。そんな風に感じながらも亜美奈は、アンジェとラフェルのやり取りを眺めた。
「実際に『導く者』として働くのは、数十年は先になるでしょうが、ここがアンジェのスタート地点です。記念になる今を、楽しむと良いでしょう」
「は、はいです」
ラフェルの指示を嬉しそうに受け止めたアンジェは、中・高生男女に一人だけ混じった少女に、笑顔で向かいあった。
「まだ出来る事は少ないですけど、今日から『神の手』の仲間です。お姉さんの言うことを良く聞いて、良い『神の手』になるですよ」
「はい、がんばります」
アチラコチラから、拍手が上がった。もちろん亜美奈も、拍手を送った。
あの子の保護者は十五~十六歳で、子供が子供を育てるようで、苦労は耐えないだろうが。少しでも楽しい毎日になるよう、亜美奈も祈りたい。
つづく




