可愛いお客さん
「おねえちゃん、その、ちいちゃいぬいぐるみはないの?」
いつの間にか子供が近寄って来ていて、亜美奈が付けている猿を指差し聞いて来た。
誰の子供だろうと、店主達を見回してみたが、皆違うと言うように手や首を振る。
「売って上げても良いけど、ママが居ないとダメなんだ。後でママと一緒に来てくれるかな?」
「きいちゃんねぇ、ママいないの」
「居ない?」
マラソン大会の日に応援に来ていたのは、近所の親子だったと聞いている。
毎年、応援に来てくれた親子には、生徒達が作った野菜と野菜の種を土産として渡す為、あの日もそれなりの人数が集まって来ていたらしい。
けれど、いくら近所と言っても、子供一人で来るだろうか?
「保育園の子じゃない? ほら、校舎のすぐ裏に有る」
「あぁ、畑の中に有る」
三つ葉学園高校の付属という訳では無いのに、なぜか敷地内に保育園が有る。
子供の居る教師は、便利に使っているらしいが。そう言えば、畑が丸ごと来ているのだから、保育園が来ていてもおかしくは無い。
「家の店の隅にでも置いて上げるわ。落ち着いたら、保母さんに相談しても良いし」
「じゃあ、これで良いですか?」
納品する物が決まったら、次は金額だ。店の取り分を考えなくてはならない為、余り高くは出来ない。
「いくら位いで売ります?」
「そうねえ、これ、小物入れになっているのね」
「まあ、小さい物しか入らないんですけど」
裏返してファスナーを見つけ、ひどく驚いている。その声を聞いて、他の店主達も集まって来た。
「これ、量産は出来ないのよね?」
正直に言えば出来る。コピーすれば良いだけだ。けれどそれは、言わない方が良さそうだ。
「そうですね。他にもやらないといけない事もあるので」
「私の店で売って、銅貨五枚。出来れば三枚で」
「じゃあ、私の取り分は一枚半で?」
相場はどうなっているのだろうかと、周りを見れば皆頷いているので、それで良いらしい。
「あのね、ちいちゃんおカネもってるよ。いっぱいあるからかえるよ」
まだ居たんだ、とつい思ってしまい申し訳なくなる。小さな子供に空気を読んで貰うのは、無理が有る。親が居れば連れて行って貰えるだろうが、この子には居ない。
そう言えば、保育園の先生達が、探していたりはしないだろうか?
こんな小さな子が居なくなったのだ、きっと心配しているはず。そう考え、わき道から外を眺めていると、チャリンと金属の音がした。
その音はちいちゃんがテーブルに、交換会の日に配った給料袋を置いた音だった。
「くさとったりして、おこずかいもらってるの」
よほど欲しいのだろう、袋からお金を出そうとする。
売って上げたいのは山々だが、子供はこの子だけでは無い。一人に売れば、他の子だって欲しくなる。
「じゃあ、一旦お金はしまって。それから、保育園の先生を呼んで来てくれるかな?」
「わかったっ」
そう言うとちいちゃんは、元気に走って行った。
「どうするの?」
「人数を確認してから、後日まとめて交換会するの。プラスチックの髪飾り付けてたし、保育園の備品で交換出来る物が有るんじゃない? それに、子供は保育園の子だけじゃ無いでしょう?」
と、言うか、目の前にお母さん達がいるのだ。それも、今後のお得意様達が。勝手に個人同士で売るのは、彼女達に申し訳ないし、今後の付き合いにもかかわって来るに違いない。
亜美奈は保育園との交渉を、ぬいぐるみポーチを店に置いてくれる事になった店主に頼み、改めて店主達に向き合った。
「ねえ、亜美奈。子供服のレシピって、作れないかしら?」
突然、桃子に聞かれ戸惑ったが。なるほど、見てみれば子供服が無い。
これは、作らない訳には行かないだろう。
「それならぁ、桃子と私達とでぇ、子供服作る担当しようか~」
「心菜っ、来てたんだっ」
思わず声が弾む。桃子が気にするから、出来るだけ心菜と真鈴との差を付けないように、と思っているけど、とっさの嬉しいという気持ちは、どうしても出さない事は出来ない。
「当然、亜美奈がウエディングドレス作るって言ってたからね、ボクはタキシード作って来たんだ」
「あーっ、忘れてた」
「だと思った」
結婚は二人でする物。ウエディングドレスだけでは締まらない。
「あとぉ、ミケルがねぇ」
「ごめん、亜美奈」
すまなそうに出したのは、バッグが一山。
つまり、あちこちの天使から預かって来たのだ。
しかし、それだけですまない。
「大変、申し訳無いのですが、これもお願い出来るでしょうか?」
続いてラエルが例の箱と、ピクニックに行く時にお弁当を入れて行きそうな、可愛らしい籐で編んだカゴを差し出した。何気なくカゴを開けてみれば、小さくしてある同じ物が、ギッシリ詰め込んであり、なんだか頭痛がして来たような気がした。
「えーと、家に戻ってからで、良いですか?」
「もちろんです」
ニッコリとラエルが笑う。その後ろでミケルが 、申し訳無さそうに、引きつった笑みを浮かべていた。
つづく




