猿島のお土産はやっぱり猿です
勝手知ったる楽しい我が家。
すでに生活の場は違っても、ここも自分たちの家に違いなく。いつものようにドアノブに手を伸ばす。
「あ、中には入らないで良いです。この鍵を使うです」
何時もの家に戻り、中に入ろうとした所で、今度はアンジェに止められた。
そして初めてこの家に来た時に血液を垂らした鍵、遠くからでも輝いて道を教えてくれた球を指差す。
「この鍵に全員手を当てるです。ワードは『どこに居ても、私達は家族です』です」
「判った。じゃあ、やるよ~」
みんなで光る球に手を当てようとするが、なぜだか桃子は離れて行く。
「桃子?」
どうしたのだろう、悲しそうな顔をして、亜美奈達を見ているのだ。
「私は、家族と言う程の付き合いがまだ無いから……」
「ええ~、気にしなくてぇ、良いのに~」
これは本物の家族になる訳じゃ無く、交換の面倒を減らす為の物なのだから。
そう言ってみても、桃子は両手を振って後ずさる。
「それなら、城に戻ってから、亜美奈と桃子で認定すると良いです。桃子はまだ、ちょっとしかスキルとか持って無いですから、認定はしといた方が良いですよ」
「うんっ、そうしようか」
同じ家に住む同士なら、家族と言えるのだから、それなら桃子も遠慮無く受けるだろう。
「そうね、それなら」
頷く桃子に一同安堵し、ひとまず三人で認定する言葉にした。
扉に付いている為あの日とは違うが、あの夜を思い出し胸が熱くなる。
「「「どこに居ても、私達は家族です」」」
ポワンと球が光り、認定が成功した事が判った。
城に戻り、桃子と二人で同じ事をして、漸く中に入り工房に向かう。
あちこち移動していたせいか、もう日も暮れかけて、そろそろアンジェが帰る時間が迫っている。
「この中から、好きなの選んで」
猿とクマとウサギのミニポーチを広げると、心菜と真鈴は迷うことなく猿を選んだ。二人はいつものピンクと緑を。それから、青・赤・水色の三つも選んだ。
その三つは、富士山で待っている『座』の仲間の分らしい。頼まれて、バッグを預かって来たそうだ。
「クマとウサギ は、人気無いのね」
不思議そうな桃子に、心菜と真鈴はニンマリ笑って言う。
「「猿島のお土産は、猿じゃないとっ」」
「猿居ないけどね」
そう、猿は居ないのだ。なのに猿島という。何か逸話が有るのだろうから、三つ葉の図書館に行く機会が有れば調べてみたい。
「では、始めます」
「手術でもぉ、するみたいだね~」
「そんな感じ何だよね、この魔法使う時って」
失敗はしない魔法だと信じたいが、まだ三回しか使って無いため自信も無い。
そのため、緊張感が半端ないのだ。
ドキドキしながら施術、いや、魔法を施し。全て終えて二人に渡そうとした時、それは起こった。
「えーと…… 渡せ無い?」
と言うより、持ち上げられないのだ。心菜と真鈴が預かったという、お土産の猿と引っ越し元のバッグが。
「それは家族じゃ無い人の物だから、交換が必要なのです」
持ってきた人では無く、持ち主が家族でなければいけないというのか。
条件が緩くなったと言っていた。あくまでも緩く。完全に無くなった訳じゃ無いのだ。
「大丈夫、ちゃんとボク達、交換用の物預かって来たから」
「ただぁ、交換用としてぇ、認めて貰えるかぁ、心配何だけどねぇ」
思わず桃子と、顔を見合わせてしまう亜美奈だった。
「これ何だけどねぇ」
ぬいぐるみの猿と並べて置かれたのは、毎度お馴染み例の箱だった。
天使が料理を用意してくれる、あの時間が止まる箱が三つも台に置かれたのだ。
「私達ぃ、今と~っても忙しくてねぇ、お金以外作る暇が無いのぉ。もおぉ、ご飯作る暇もだよ~」
「だからさ、悪いとは思ったけど、貰った料理の横流し。食べて美味しかったおやつ、入るだけ詰めて持って来たんだけど。これってセーフかな?」
どんなものが入っているのだろうか。興味深々、一つ開けてみる。
「あっ、クレープ……」
開けた箱には、色んな種類のクレープが入っていた。
イチゴにバナナにチョコレート。食べ歩きの出来る紙で包まれたものや、お皿の上に綺麗に盛り付けられたもの。アイスクリームが添えて有る物も有った。
「ねぇ、アンジェ……?」
判別が付かないのか、アンジェは何度も首を捻る。ノートを開き、また、首を捻る。
「交換してみれば良いんじゃないかな?」
思わず亜美奈は言ってしまう。
判定をするのはアンジェの仕事だからと、黙っているつもりだったが、美味しそうなクレープを見て、空腹だったお腹が鳴りそうで、これ以上待つ気になれないのだ。
「それは名案です」
何だ、良いのか。
呆気なさすぎるアンジェの言葉に、亜美奈の気が抜ける。
「じゃあ、交換」
水色の猿と空になったバッグを持ち上げて見れば、呆気なく持ち上げられた上交換も出来てしまった。
続けて二つ目、三つ目と交換。困っていたのが嘘のようだ。
「箱は持って帰る?」
「ううん~、家今ぁ、三食おやつ付で天使のご飯だからぁ、箱はいっぱい有るのぉ。だから箱ごと上げるよぅ」
ちょっと、何の事だか判らない。
「三食おやつ付?」
右に左にと何度も首を捻れば、真鈴が苦笑いして説明してくれる。
「今日、いっぱいダンジョンを作ったでしょ? でもあれ、三つ葉に住んでる全員が入れる訳じゃ無いんだって。お年寄りとか、子連れとかはやっぱ無理でしょ? 数の問題も有るし。で、そうすると食材を入手出来ない人が出て来る訳だ。だからさ、それを防ぐ為に余分を学校で買い取って、子連れさんとかに売る。さらに子連れさんとかが料理や生活に必要な物を作って、学校が仲介して売る。って事をする事になったから、」
「現金が足りないんだ?」
「そうなのぉ。とにかくぅ、い~っぱい作らないといけなくってねぇ、ご飯作る暇も無いんだよ~」
それはかなり大変そうだ。
「でさ、ずーっと座ったっきりで仕事してるから、甘い物って余り食べ無くってね、なのにミケルは甘い物いっぱい持って来るしで、ドンドン積みあがってくんだよ。だからお礼に使えて助かっちゃったし、箱の数も減らせて倍美味しいんだよね」
「家の中、箱だらけなんだよ~」
箱はお金の管理にも使えそうだが、それも限度が有る。いくら小さくなると言っても、有りすぎるのも問題だ。
「私の方はいくつ有っても困らないし、遠慮無く貰っちゃうね」
引っ越し魔法では、箱の引っ越しも出来るらしい。どんな物に引っ越ししたら、便利に使えるかの実験がしたいのだ。
「だったらぁ、次の交換の時もぉ箱持って来るね~」
「いや心菜、ボク達はもう、交換しなくても良いんだし」
「あ~、そうだね~」
どこに居ても家族だから。
桃子とも、家族。
「今夜のデザートは、クレープに決まりだね」
「ええ、私、クレープ大好きなの。ずーっと食べたかったから、貰えてラッキーだわ」
そう言えば、佐藤達が食べていたときも、チラチラ気にしていた。
天使の手伝いを名目に、料理入りの箱を貰っていたようだが、欲しい物が絶対に入っているというわけでも無く。食べたいと思い出したら、止まらなくなっていたのかもしれない。
「私も一緒に食べたいですけど、もう遅いので帰るです」
「ボク達も、早く帰らないとね」
「みんなぁ、お土産待ってるしね~」
バッグを引っ越ししたぬいぐるみポーチを手に、心菜は嬉しそうに言った。
仕事が忙しくて大変そうなのに、それでもいつも心菜と真鈴は楽しそうだ。
「落ち着いたらまた、みんなで遊びましょうね」
「うんっ、今度こそレースしようね~」
「私もやるですっ」
バイバイと手を振って、心菜の真鈴、そしてアンジェも扉の中へと帰って行く。
昨日までの家では、道に続く扉は工房を入ってすぐに有った為、帰る時は玄関を出て行った。けれど今度の家は大きくて、道への扉までは結構な距離が有る。
そのためなのか、三人共適当な扉から帰って行く。
おかげで少し気分が楽だ。
なんとなくだが三人共、城の中の部屋に戻って行ったような気がするのだ。
もちろんそんな事は無く、それぞれの家に戻って行ったのだと知っているが。
つづく




