やっぱり欲しいよね
ダンジョンを造るのは、大した手間では無かった。すでに幾つも造っているし、今日は同じ物を並べて造るだけだったからだ。
ただ、採取品には数の制限が有る為、案内してくれた教師の希望に沿うようなダンジョンの設計に、予定外の時間が掛かった。
「お帰りなさい。ずいぶん疲れているのね」
「あ~、まあねぇ……」
あいまいに返事をしながら、教師に目をやれば、桃子は『こっちも』と小さく応えた。
気持ちは判る。どうせなら、好きな物や普段食べていた物が食べたい。その為の素材が欲しい。
けれど全部と言うのはさすがに無理だし、しつこくされては腹も立つ。
そのため、一番欲しがるだろうカレーライスは、秘密にしておく事にした。このぐらいの意地悪は、許されて良いと思う。その位、意見の摺り合わせは大変だったのだ。
「仕事も終わったしぃ、帰ろうかぁ?」
「そうね、何だか今日は疲れたし」
「始めてのダンジョン造りで、あれは大変だったです」
初級・中級と造る桃子は、階層も多くそう言う意味でも大変だったのだろう。
疲れている所悪いのだが、出来れば少しだけ心菜と真鈴に用が有る。
「「あのっ」」
亜美奈の言葉に重なった声は、真鈴の物だった。
けれど続きを言ったのは、心菜だ。
「私達ぃ、ちょっとだけぇ、亜美奈達のぉお城に寄っても良いかな~?」
言って、チラリと亜美奈の胸元を見る。
「もちろんっ。私の方も実は、見せたい物が有るんだ」
亜美奈もそう言って、猿に触れて見せた。
「校長先生っ。私達、これで帰ります」
桃子の造ったダンジョンには、すでに誰かが入っているのか、校長を始め数人の教師が心配そうに覗き込んでいた。
こういう時に挑戦するのは、若い体育会系と決まっているからそう心配する事は無いだろう。
中級ダンジョンというのがどの位の物か、亜美奈は入った事が無いので判らないが。他の『神の手』達は普通に利用しているのだから、問題無いだろう。
「ああ、今日は無理を言ってすまなかった。気をつけて帰りなさい。またぜひ、顔を出してくれると嬉しいよ」
「はいっ、先生方も頑張って下さい」
亜美奈の言葉を代表代わりに、他のみんなは頭を下げるだけで済ませる。
そして職員室の出入り口に道を繋げて、さも普通に出て行くかのように、亜美奈達は城へと戻った。
「はいっ、到着ですっ」
東の塔に有る扉を出ると、精霊達が出迎えてくれた。
こんなに小さな島にも精霊が居ることに、亜美奈は驚いた。もちろん、精霊は飛べるのだから、どこにでも行けるのだと判っているはずだったが。
門へと行きがてら、手を伸ばして精霊を保護して行く。そうしている内、ふと思い出す。
そろそろ、成長しきった精霊を離しても良いのではないかと。
「アンジェ、精霊を放流するのって、どうやるの?」
そう言えば、やり方は聞いていなかった。聞くとアンジェは、しばし考えた後。
「大人の精霊を呼び出して、ここに住むのはどうです、って聞くです。この場所が気に入った精霊さんは、飛んでいくです、それでお終いです」
「OK、やってみる」
桃子以外の三人が、精霊を呼び出した。やり方は簡単で、出ておいでと、頭の中で考えるだけだ。
保護している精霊とその保護主は、気持ちの奥で繋がっているようで、言葉にしなくても通じてくれる。
だからもちろん、意思確認も言葉はいらないのだが。そこはアニメ・ゲーム世代の現代人だ。
「「「この島に住むのはどうかな?」」」
気のあった質問に答えるかのように、精霊達はくるりと回って飛んでいく。
「そう言えば、石は持って行か無いの?」
飛んで行った精霊は、何も持ってたなかった。カバンの様な物も持っていなかったため、どこかにしまっているわけでも無いだろう。
精霊の住処である石は、袋に入れてバッグに入れて有る。思い出して取り出してみたが、石が減っている感じは無い。
「その石は、精霊さんの贈り物です。少し不思議な力を残して行ってくれてるですから、好きなように使うと良いです」
不思議な力を持つ石。ファンタジーで言う『魔石』に当たる物と言って良いかも知れない。
どんな力を持っているのか楽しみだが、それ以上に精霊の石は、キラキラ光ってとても綺麗だから、ただの飾りに使っても良さそうだ。
「贈り物という事は、私達は精霊にとって、ちゃんと役に立つことが出来たって事何だよね」
「はいです。ただ長く持っていただけでも、精霊さんは育つです。でもそれだと放流する時、石を置いて行ってくれないです」
以前ミケルが、スキルや魔法を沢山使えば精霊が育つと言っていたように思う。つまり魔法などを使う時に、ご飯になる何かを亜美奈達は出しているのだろう。
放置していても成長すると言う事は、ご飯になる物は、何もしなくても出ている。
「魔法やスキルを使う方が、何もしないより美味しいご飯が出るって事?」
「そう言う事です。だからいっぱい、色んな物を造ると良いです」
「じゃあ、作ろうっ」
真鈴は、やる気満々だ。
「亜美奈達が付けてるその猿、引っ越ししたバッグだよね」
「そうです。亜美奈にもらったです」
小さくて可愛い上、三人でお揃いの為、すでにアンジェはお気に入りだ。
「私達もぉ、何かと交換してもらっても良いかな~??」
「もちろんっ。でも、ソロソロ交換も面倒になって来たよね」
「「「あ~、ね~……」」」
始めの内は、それもゲームっぽくて楽しかった。何と交換しようか考えるのも、ワクワクした。
けれどもう、みんなが同じような物を持っていて、交換しようが無いのだ。
「それなら、良い方法が有るです。ちょっと待つです」
そう言ってアンジェは、例のごとくノートをめくる。
「えーと、まずは皆さんが共有しているお家に行くです。そこで、家族認定をすると『交換』の条件がゆるくなるです」
「一緒の家に住んでると、家族になるんだ?」
「認定しないとダメなのです。という訳なので、行くです」
さっきの扉に戻ろうとするアンジェを止め、布の扉を塀に貼った。
この持ち運び式の扉だが、なぜだか使った後はバッグに戻るのだ。そのため、訳の判らない場所に妙な扉がポツンと、なんて事は無いので安心だ。
つづく




