お城と言えば
「さて、と。桃子は、夜は家族とお喋りとかして過ごしたいタイプ? それとも、自分の時間を楽しみたい方?」
亜美奈は完全に後者だが、人によっては夜に人恋しくなるタイプも居る。
人恋しくなるような人を、初めての場所に放置するのは、あまり良くない気がするため念の為に聞いておく事にした。
「そうねぇ。割と一人で部屋にこもっている方かしら。まあ、特に何かするっていうわけでも無いんだけれどね」
「それじゃあ、夕飯の後は解散で良いかな」
亜美奈も夜は、一人でのんびり遊んだり物を作ったりしたいから、出来たら別行動がしたい。
「ええ、それで良いわ。でも、もしかしたら工房を使うかもしれないけど、大丈夫かしら?」
「もちろんっ。でも、明日も有るんだし、根詰めないでね」
「判ってるわ。今日は、自分が何が出来るか試してみるだけだから、大丈夫よ」
「それなら今夜は、箱の料理で済ませちゃおうか?」
天使が用意してくれた料理は、どれも美味しい。
ただ、作らないとレベルが上がらないため、出来るだけ自分達で作っているのだ。
早くレベルを上げて、美味しい物をたくさん作れるように成りたい。
もちろん料理以外もレベルを上げたいが、一番は料理のスキル。美味しい物を、たくさん作れるように成りたい。取り敢えずの目標は、カレーライスが作れるレベルだ。
各種『手』が使う道具と、それを作れるスキルをセットでリュックに入れる。それからオマケで、ノートと鉛筆、あとは水筒を入れれば出来上がりだ。
「えーと、医者関係はこれでOKで。芸術系がこっち。商人と警備と、あとは……」
「ギルド管理者です」
「そうそう、そのギルド管理者が、えーと……町ごとに三つだから」
「今回は町三つ分です」
「七、八、九っと、これでOKだね」
我ながら良く作ったと、亜美奈はホッと息を吐く。
天使が必要とする『神の手』以外にも、『手』を持っている人は意外と多い。
別に『手』など無くても、普通に仕事は出来るが、何かの権限が必要になって来る職種や、『手』を持ってなければ使えない特殊なスキルも有る為、道具を作る事になったのだった。
「じゃあ、ちょっと行って、ラエル様に渡して来るです」
種類ごとに袋にまとめた道具をバッグに詰め込み、アンジェが手近な扉から出て行った。亜美奈も一緒に行くのだと初めは思っていたが、今回はアンジェ一人で行くと言って飛び出してしまった。
普通の人達に混じって活動する『手』の道具の為、誰が作った物なのかを知られるのは良くないのだそうだ。
天使達には、面倒と思える決まりがたくさん有って、それに沿って行動している。
今回の事は、亜美奈を守る意味合いも有るのが判るため、受け入れるしか無いが、有りすぎるルールは面倒と思わずにいられ無い。
それはともかく、と亜美奈は桃子の方へと足を向けた。
現在桃子は、大工スキルで家具を作成中だ。すでに自分の部屋の飾りつけは終わっているので、他の部屋の家具を作っているのだろう。
真剣な目をして、まだ少し時間がかかりそうだ。それなら自分も、何か作ろうか。
「部屋の飾り付けも良いけど、レベル上げもしたいしなあ」
亜美奈の部屋はまだ、ベッドと椅子が一脚有るだけだ。頼まれた物を優先した結果、身の回りの物は後回しになっている。
けれど四人の家の部屋だって、未だにタンスの一つも無く、殺風景なままになっている。
元の世界の部屋は、人並みに物も多かった事を考えれば、物が無い方が良いという訳じゃ無い。
「 やっぱり、ぬいぐるみかなぁ?」
ぬいぐるみスキルに関する説明の、見えない部分が気になる。『何かを付与すれば、何かが出来る』らしい。
もう一つの、ほぼ見えない魔法に関わって来るのが、ここで出来る『何か』のような気がするのだ。
「取り敢えず、ぬいぐるみポーチをいっぱい作ってみようかな。それなら安く売っても大丈夫そうだし」
大きなぬいぐるみは、簡単に安くすると言う訳には行かない。スキル的には小さな方がレベルが高いが、それとこれとは別なのだ。
「でも、あの石の使い方も気になるしなぁ」
色々と考えて、亜美奈は服を作ることにした。
三つ葉の人間と関わる時の事を考え、地味な服装で居るようにしていたが、この城に居る間ぐらい好きにしても良いだろう。
まずは心菜から貰った、可愛い普段着用のセットを冬用の生地を使って五セット作った。
城の中は空調が効いていて、真冬でも寒く無いし、おそらく夏は涼しいのだろう。
だからついうっかり、今の季節を忘れて外に出てしまった時のために、それなりに暖かい服を着ておくべきだし、上着もバッグに入れておきたい。
それからそれから。お城なのだから、ドレスが着たい。出来ればお姫様のような、ふんわり豪華なドレスが良い。
「あ~、でもあれってコルセットが要るんだっけ」
苦しいのは嫌だが、キレイに着るには必要だ。判っていても、苦しいのは勘弁して欲しい、ので。
真鈴に貰ったウエディングドレスを少しアレンジして、お城に似合いそうなドレスを作ろう。
「色は・・・…、ピンク。バラをモチーフにしたオールレースで、全面が膝丈で後ろに向かって流れるように長くなって行く感じ。髪飾りはバラ三輪にチュールレース、重いかな? あ、ティアラが良いかも。王冠風のじゃ無くて、ギリシャっぽいリングを二~三本ずらした感じで、小さなバラを散らして。靴は…… ハイヒールは疲れちゃって厳しいかな、パンプス風のスニーカーにしとこう。よし、レシピの出来上がり」
「へえ~、レシピってそうやって作るのね」
レシピ作りに集中し過ぎたせいか、桃子が来ていた事に気づかなかった。いきなり目の前に現れたようで、亜美奈は思わず後ずさった。
「ごめんなさい、驚かせてしまったわね」
「大丈夫、ちょっと集中し過ぎただけだから」
頭の中で立体的な物を組み立てるため、周りが全く見えなくなるのだ。桃子が悪い訳じゃ無い。
「そう? でも、次は気を付けるわ」
「ありがとう。それより、ドレスのレシピを作ったんだけど、裁縫のスキルはどこまで上がった?」
後から見つかった『神の手』は、校舎に居る間は鑑定以外のスキルも魔法も使えなかったらしい。
だからまともに使えるようになったのは、一昨日の夜のトレーラーハウスからだ。
「裁縫は今朝から随分と頑張ったから、レベルも上がってるわよ。と言っても、まだ六だけど」
生きて行く為に必要とされる物として、『衣食住』と表される物が有る。その内の『住』、住居はこの城が有る。『食』も天使が用意してくれたり、ダシンジョンやスキルで賄える。
残りは『衣』であり、これも多少は天使がくれたが、おしゃれを楽しみたい女子としては、厳しいものが有るのだ。
現在、元生徒達は体操服をパジャマに、天使に貰った服を作業着にしている。亜美奈達は三つ葉に行く時は、制服を着るようにしているが、『神の手』で無い生徒達は、制服は特別な日の為にしまい込んでいるという。
「六有るなら、簡単なワンピースドレスぐらい作れるよね。レシピ上げるから、本出して」
「ありがとう、助かるわ。でも、ドレスなんてどうするの?」
「もちろん、この中で着るんだよ。お城と言えば、ドレスでしょ?」
写真が撮れないのが、本当に残念だが。
差し出された本に、亜美奈は少しアレンジしたドレスのレシピを付与した。本当に簡単な、プリンセスラインのワンピースドレスで。けれど、アレンジのしやすいデザインを選んだつもりだ。
「アレンジする時には、元にする物を出来る限り具体的に思い浮かべて、それに重ねるように、手直ししたい箇所を言葉にしながら思い浮かべると良いよ」
「ありがとう。でも今はレベル上げを優先したいから、新しい事に手を出すのは止めておくわ」
考え方は人それぞれだ。桃子がそうしたいのなら、そうすれば良い。
つづく




