城を建てる場所が決まりましたよ
「そう言えば、ミケルは自分の事を『子供』って言ってた。天使って、成長遅いんですね」
どう見ても成人しているミケルが『子供』なら、アンジェが『赤ちゃん』と言うのは正しいと言える。ただ自分達の成長過程を考えると、どうしても首を捻らずにいられないが。
「だいたい、五十歳で大人と呼ばれますね。それまでは、出来ない事が色々と有りますので、子供として保護の対象になります」
絶句。五十歳で大人だと言うなら、確かに十六歳は赤ちゃんかもしれない。
「そうすると、お城を建てるのが初仕事ということになるんだね」
「はいっ、だから楽しみにしてましたです」
「それで、森や皆さんの造っている最中の作品を、なぎ倒したのですね」
「うう…… ごめんなさいです」
謝る姿も可愛らしくて、ついつい頭を撫でたくなる。伸びそうになる手をぐっと押さえて、亜美奈は弁償に付いて聞いてみた。
まだ挨拶したばかりだが、今日から亜美奈と桃子を受け持ってくれる天使だ。もし弁償をするのなら、亜美奈が手を貸してあげたい。
「ああ、それならそれぞれの受け持ちの天使達が、執り成してくれていますので、心配はいりませんよ」
桃子と二人、顔を見合わせて安堵する。
もっとも、弁償となったら手持ちのトレーラーハウスを増やして渡せば良いので、大した手間では無いのだが。
亜美奈が自分をアンジェの身内として、責任の肩代わりを考えたように、彼ら天使も仲間、または同族としての責任を感じているのだ、きっと。
「ところで、あのお城はどうすることになったの?」
「どこか、相応しい所に建てるんだって。桃子、心当たり無い?」
「相応しいって言っても、テーマパーク以外に日本で似合う所なんて有るかしら?」
確かに日本で西洋風の城というと、テーマパークしか浮かばない。趣味で城風の家を建てている人もいるが、日本の気候に合わないのか、テレビ紹介されるのは和風の城が多い。西洋風の城は、企業が宣伝目的で持っている事が多く、極まれに資産家が西洋から買い取った城を移築したものが有るというのを、チラリと聞いた事が有る程度だ。
日本の夏は湿度が高いから、風通しの悪い石造りの城は色々不都合が出そうだ。その辺りは、例の浄化スイッチで何とかなるのだろうが。
「亜美奈はどんな場所が、相応しいと思うの?」
どんなと言われても、ここは元々の世界とは違い、どこもかしこも緑に覆われている。気候に合うか合わないかはあっても、景観と比べてという事は基本無いと言えるだろう。
一言で言えば、森が草原だ。何処を見ても緑、それが今の日本列島なのだ。
「せっかくステキなお城なんだから、色んな人が見る事が出来て、でも、知り合い以外は辿り着く事が出来ないのが良いかな?」
観光で来られるのは鬱陶しいし、下手をすると厨二病にかかった勇者もどきが、魔王退治に来ないとも限らない。
桃子にそれを言えば、なぜだか背後から、沢山の同意が寄せられた。
「江ノ島か猿島辺りとかどうかな?」
「どっちも神奈川県に有る島だっけ?」
「そうだよ。江ノ島は細い道で繋がっていて、ちょっと幻想的な感じだし、猿島は浜辺が少し有る以外は、崖っぽくなってるから登り難い感じかな?」
「崖って言っても、低いからやる気になれば簡単だろ?」
気づけば全員が集まっていた。ついさっきまで、レースに夢中だったのに。まさか、もう飽きたのだろうか?
「や、順番話し合ってたら、ちっちゃい子供がいるから、何だろうな~って」
心菜(兄)が、アンジェを手のひらで指し示して言った。指差さない辺リ、さすが最上級生と言うべきだろうか。それとも、バイト経験の賜物か。
「じゃあ、せっかくだから紹介します。彼女は、私と桃子を受け持ってくれる天使でアンジェ、十六歳です」
「十六歳?」
「心菜が小柄でガキっぽいと思ってたけど、上には上が居るんだなぁ」
兄に言われ、心菜が上目づかいで拗ねている。だが兄が心菜の怒る姿を見て喜ぶのを知っているため、苦情を口にする事は無い。
「ちっちゃいのに働いて偉い、って思ったけど、ボク達と同じ歳なのかぁ」
「天使の中では、赤ちゃんなんだって」
「赤ちゃん? ……天使ってわかりにくい」
「そういう種族なんですぅ」
そうだとしても、やっぱりアンジェは小さくて可愛い。
こっそり思う亜美奈だった。
「今日から亜美奈は忙しくなるです。だから早くお家の準備をして、お仕事始めるです」
そうだったっけ?
確かにやることは有るが、今日ぐらいはのんびりしようかと思っていたのだが。
「そうなの? なら私も、あまりのんびり出来ないわね」
「別に急がないから、のんびりしても大丈夫だけど。家は早めに決めておいた方が良いかもね」
「そうね。そうするわ」
せっかく作ったカートだけど、それはまた別の日に遊べば良い。
その時には亜美奈も、一緒に遊ぼう。
「それなら、早く建てる場所を決めないと」
「違うです、まずあの家に登録するです。それからあっちの、みんなの家にも登録です」
「「「みんなのっ?」」」
全員でフリーに使える家の事は、まだみんな聞いて居なかったようだ。
「みんなで集まれる場所が有るのも良いかと、聖王様がおっしゃいましたので、皆さん全員の家を用意しました」
「雨が降っても大丈夫なのです」
高校では上手く行かなかったけれど、一人が好きな訳じゃ無い。気の合う友人達と、ワイワイするのは楽しいし大好きだ。
その場所が有り、みんなで遊べるオモチャが有る。考えるだけで、楽しみしか無い。
「でも、造幣局が有る所なのに、みんな集まって来ちゃって大丈夫なの?」
疑問を口にしたのは、真鈴の姉の夕海だった。
それを聞いてみんな、なるほどと顔を見合わせる。不正を思わせる用な言動は、国民の金を預かる者達はしてはいけないのだ。
「では、先程上がった『猿島』に、亜美奈と桃子の家を立てましょう。そして『座の手』を持つ皆さんの家はは、少し遠いのですが、皆さんが大好きなあの山の中腹に建てようと思うのですが、いかがでしょうか?」
「大好きなって……」
「「「富士山っ?」」」
確かに相応しい場所だと思う。これ以上ないぐらい、国を支える硬貨を作るのに相応しい。
どんな建物を建てるのだろうかと、思い浮かべるだけでぞくぞくする。
「じゃあ、遊びに行くからレストランやってよ」
「富士山カレーと富士山パフェ宜しく~!」
「富士山のイラスト付きのお土産もね」
「だよね~……」
なる。富士山に家を建てたら、観光地以外の何物でも無くなる。とはいえ、みんながあまり行かない場所に『座の手』の家を建てようという前提なのだから、レストランと土産屋が有るのは駄目だろう。
「ともかく皆さん、登録をしてしまいましょう」
ラエルの声掛けで皆新しい家の前に集まり、順に登録をして行った。
その時ついでに、日本食専用ダンジョンの話しをしたせいで、終わった後レースよりダンジョンの方に列が出来る事になった。
気付けば見知らぬ人も並んでいたりして、ちょっと不思議な光景だった。
つづく




