お城を建てるです
「では、行くですよ~」
神奈川県横須賀市猿島。
三つ葉学園高校が有る場所から、海岸沿いに上って行った辺りにある天然の島。
戦時中は要塞にされていたと言う島だが、現在はバーベキューや釣りなども出来る人気の観光地だ。
そういう認識で行った亜美奈だったから、当然砂浜の広がったのどかな島を想像していたのだが。思いの外高くそびえた島に、目が点になった。
海水浴場になる浜辺も有るし、釣りが出来そうな岩場も有る。整備すれば島をグルリと囲む遊歩道になりそうな場所も有るが。高台の部分が妙に高くなっている。広さも記憶よりずっと広いが高さもすさまじい。一キロ有ると言われても、信じてしまう高さだ。
アンジェの指示で、亜美奈と桃子は待機する。
普段はチャームになってバッグにぶら下がっている乗り物は、ホバリングまで出来る優れものだった。桃子の乗り物はUFO型だから、ホバリングも判るが、紙飛行機型の亜美奈の物は空中で停止するのが不思議な感じだった。
ちなみにそれらの乗り物を天使達は、ただ『チャーム』と呼ぶらしい。この乗り物を提案し、作った人間族が小さい状態を『チャーム』と呼んだ、それが乗り物の名前だと思っているようだった。
日本における『ホチキス』や『トランプ』のような感じだと、亜美奈は納得した。
アンジェは、猿島の上空に立つように停止し杖を振る。
一体何が起こるのかと、亜美奈と桃子二人で眺めて居ると、なんとそこに生えている木々が一気に伐採されて木材に変わり隅に積みあがった。
砂浜のある方の隅にに小高い丘があり、滝の有る泉が作られた。今まで住んでいた場所にも、同じような水場が有ったが、きっとこんな風に作られたのだろう。
泉側と広場の間に谷を作り、大きな橋が架けられた。橋に使った資材は、先程アンジェが作った木材だ。
赤ちゃんだと言っていたが、ここまで色々な事が出来るのだから、天使は凄いと亜美奈は思った。
ところで。
「テレビでしか見たこと無いけど、猿島ってこんなに大きかったっけ?」
「私は一回行った事が有るけど、たしかもっと低かったし面積もここまで無かったと思うわ」
「だよね~?」
これもアンジェの魔法だろうか?
けれどココに来た時には、すでにこの大きさだった気もする。
桃子がしっかり思い出すことが出来れば、地球自体が大きいのだという事に気付くのだが、目の前で繰り広げられる天変地異と言える状況に圧倒され、チラリと聞いただけの事を思い出すことは無かった。
「次はお家で~すっ!!」
小さなお城を広場の真ん中に置く。さっきのあの城が、ここに建てられるのかと思うと、少しだけ緊張する。
出来上がる処を出来るだけ近くで見たくて、亜美奈は桃子を誘い地面に降り立った。朝の様子から、あまり近すぎても危ないだろうと、泉のある側でその瞬間を待つ。
城を凝視しすぎたせいで、アンジェが何をしたか判らなかったが、模型のようだった城は見る見るうちに大きく、素晴らしく美しい城へと変貌した。
本当に素敵なお城だったのだ。とんがり屋根の周りには、冠のようなバルコニーが巡らされ、同様の広いバルコニーからは直で中に入れるようになっている。
飛んで帰って来た時には、あのバルコニーが玄関代わりになるのだ、きっと。
ワクワクする気持ちを抑え切れず、桃子と一緒に橋を渡り城の正面へと走った。
城を守る高い塀は円を描くように丸く作られ、その四隅にはトンガリ屋根の塔が有った。それぞれの塔へは塀の上に作られた通路を伝って渡れるようだ。
騒乱の時代にはあの通路に沢山の兵が隠れるように立ち、押し寄せる敵兵に矢を射る事になるのだろう。だが今は、ただ美しい城を飾るモニュメントでしか無く、仲間たちが集まれば、そこで何かの遊びが行われるだろうことが想像できる。
そして中央の扉の前には、例の丸い球が浮いていた。
「それがこの家の鍵になるです。血をたらして下さいです」
ゆっくり降りて来ながら、アンジェが教えてくれる。
向こうの家でもやった為意味は判るが、城のあまりの迫力に言葉が出ない。
「どうしたです? 早く契約して、中に入るです」
「そ、そうね……」
二人揃って手を光の球にかざす。ミケルのように切ってくれることは無さそうなので、亜美奈が指先を少し傷つけ、確かに二人分の血液が吸収された事を確認して、傷を直した。
その球を、見覚えの有る穴に押し込めれば準備完了だ。
「あ、あの…… 説明を……」
「大丈夫、もう出来たから」
「そうですか」
説明するのを楽しみにしていたのかもしれないが、亜美奈はこれで三度目なので教えてもらう必要も無い。
それより、内装が気になるのでさっさと中に入りたい。だがまあ、完全に無視ではかわいそうだから、門の前で次の説明を待ってあげる。
「わ、ワードは『これは私達の家』です」
説明出来た事が嬉しいのか、満面の笑みを浮かべるアンジェが可愛い。
亜美奈と桃子は目を合わせ、球に手を当てワードを口にする。
「「これは私達の家」」
すると音も無く門が開く、訳は無く、ただ無言で閉じた大きな門がそこに有った。
「えっ、何でです? ちゃんと『ワード』も言ったです、何で開かないですか?」
思わずと言ったように、桃子が噴出した。釣られて、必死で耐えていた亜美奈のお腹も震え始めた。
可愛い。とても可愛い。けれど、そのかわいらしさがオモチャのようで。いや、生きている人間に向けてオモチャは可哀そうだ。けれど本当に子どもらしく可愛くて、笑いが止まらなくなってしまった。
「なんで笑うのですか~っ?」
「だ、だって……」
可笑しい物は可笑しいのだ。
けれど、いつまでも笑い続けるのもかわいそうで、二人は目を見合わせ手を伸ばした。
「せーっのっ!」
亜美奈の声を合図に、二人同時に光る球に手を当てる。
すると静かに門は開き、美しい城が姿を現した。
「この球に血を垂らした時点で、契約は完了してるの。だからこの場所では、『ワード』は必要無かったの」
「えっ、そんなっ!!」
慌てたアンジェは、バッグの中からノートを取り出した。中をペラペラ捲り、目的のページをしっかりと読んで。
「本当ですっ。間違えたです~」
その場にへたり込んだ。
「大丈夫だよ、アンジェ」
「そうよ、なり立てなんだからそんな物よ。これから一つずつ覚えて行けばいいわ」
「はい、頑張りますです」
そんな姿も可愛らしくて、二人はこっそりと笑い合う。
同じ年だと判っていても、どうしても小さな子供の様に思えてしまうのだからしょうがない。見た目というのは、本人が思っている以上に印象を操作する物なのだ。
「それにしても、随分と大きくない?」
「今朝見たより、ずっと大きい気がするんだけど?」
あの時に見た城がこの大きさだったとしたら、東屋どころか亜美奈達の家まで押しやられていたに違い無い。
「朝の時は、場所が足りなくて小さくなっちゃったんです」
あれでも充分大きかった気がするが、確かに、これと比べたら小さいといえよう。
とはいえ、なぜこんなに大きい『家』にしたのだろうか?
亜美奈と桃子、二人で住むとはとても思えない。むしろこの家の方こそ、みんなの為の家にするべきなのでは無いだろうか。
そもそも、場所が足りないから『小さくなる』とは、いったいどんな魔法が罹っているのか?
考えて。だがその疑問は、アンジェに聞いても判らないに違いないと、亜美奈は思い諦めた。
「ともかく、中に入るです」
「そうね、中がどうなっているかも気になるし」
「ほとんど、何も無いんだけどね」
「そうなの?」
「うん、内装は全部、自分で作るんだよ。まぁ、それが楽しみ何だけど」
自分が住む事の出来る、巨大なドールハウスのようでワクワクするのだ。
これだけ大きいのなら、部屋も沢山有るだろう。それぞれにテーマを決めて、家具を作って行くのが楽しみだ。
つづく




