遊ぶ前にまずご挨拶
心菜が例の魔法でサーキットを造り上げた頃、一旦家に戻っていたグループが、工房の道を使って戻って来た。
急いで謝罪し、事のあらましを説明しなければと思う間もなく、男子はサーキットへと走った。それはもう、子供の様に目を輝かせて。
なぎ倒されているトレーラーハウスなど、目にも入らないかのような勢いだ。
「あの、この有り様の原因なんだけど……」
仕方なく亜美奈は、女子の方へと声をかけた。
女子の中にもサーキットに興味を示す者は多く、落ち着いて話が出来そうなのは伊勢組の三人だ。確か名前は、欄、菫、水樹だったはず。
「あの、ね…… トレーラーハウス何だけど……」
「大丈夫、私達のは持ち帰ったから、あの中には無いよ」
察してくれたようで、亜美奈がいう前に欄が教えてくれた。
被害に合った人達もいるのだから、安心してはいけないのだが、やはり安堵してしまう亜美奈だった。
「ところで、なんであんな事になってるの?」
「私達に新しく付いた天使の子が、やたら大きな家を建てようとして、」
「それは聞いた。お城建てたせいで、あれもこれも押しやったんでしょう? そうじゃ無くて、あのカーレースの事」
「えっ、なんで知ってるの? って、聞かれたのはカーレースの事だったね。あれは、広く開いた場所を見た久我くんがね、サーキット造ってレースやりたいとか言い出して、心菜が造ってあげたの」
もたもたしている内に、誰かに聴いたのだろうか。
考えた事を見透かしたかのように、欄が答えてくれた。
「天使に聞いたの。なんでも城の建築士の部屋の前でミケルさんが、おたおたしてたから、私達の担当天使が気になって声掛けたら、新人が巨大なお城持って行ったって慌ててたそうよ」
「うん、もの凄いの建ててくれちゃって、ラエルさんに怒られてた」
「でもそのおかげで場所が出来て、遊び場になったんだし、良かったんじゃないの?」
「そ、そうかな?」
遊び場は、まあ良かったと言えない事も無いが、家を壊された人もいるのだし、良くない気もする。
「大丈夫よ、壊されたのって新人の家だし、レベル稼ぎが出来て良かったじゃない。最初は、とにかく沢山造って、経験値稼がないと」
「そうだけど、自分の受け持ちの子がやらかした、って聞くと、やっぱり責任感じちゃって」
「やだ、面倒見るのは天使の方でしょう?」
「いや、それがね……」
亜美奈はこっそりアンジェを指差した。ラエルの付き添い付きで、謝罪して回っているようだった。
ラエルというのは、見た目通り優しく面倒見も良いようで、アンジェもおとなしく後を付いて謝罪している。
「あの子が?」
「うん、あの子」
「「「ああ……」」」
三人の声が揃った瞬間、アンジェとラエルが同時にこっちを見た。
「うん、あの子ならやる」
「やるね」
「やるやる」
「うん、やった」
今後が心配。けれどきっとあの子にも良い所が有るはずだ、そう願って見ていると、アンジェとラエル、二人揃ってこちらに近づいて来る。
「亜美奈、桃子はどちらに?」
そう言われて気づいた。桃子が一緒に居なかった事に。
元々亜美奈は、一人で行動する事が多いため、こちらに来てからは特に、心菜や真鈴とも離れて一人で居ることが間々あった。そのため桃子が居なくても、気にならなかったのだ。
それでも受け持ってくれる天使が来たのだ、二人で話す必要が有るだろう。そう思い辺りを見回すと、工房の方から楽しそうに歩いて来るのが見えた。
「桃子、こっちっ」
軽く手を上げると、桃子が小走りに近づいて来る。
「ごめんなさい、私も あの車造ってたの」
ああ、それで嬉しそうにしていたのか。
亜美奈は納得し、ラエルが探していた事を告げた。
「では、改めて紹介します。この子はアンジェと言って、今日からお二人を受け持ちます。ご覧の通りまだ子供ですが、向学心だけは人一倍ありますので、仲良くして上げてくださいね」
「アンジェです。まだスキルも属性も決まってませんが、頑張りますので宜しくお願いするです」
ぺこりとおじぎをする姿も可愛いらしく、思わず笑顔が湧いてくる。
けれどこんな小さな子供を、あちこち引っ張り回して良いのだろうか。
桃子に魔法やスキルの使い方も、教えなければいけないのに、大丈夫だろうか。もちろん亜美奈の知っていることは、亜美奈が教えるつもりでいるのだが。
「宜しくね、アンジェ」
「私もまだ何も出来ないから、アンジェ、色々教えてくれると嬉しいわ」
「は、はいっ、頑張りますですっ」
ぺこりとおじぎをする様子も、本当に可愛いらしくて。けれど、
「天使って、こんなに小さな内から働くなんて、大変なんですね」
見た感じ、まだ十歳にもなっていないだろうに。
ミケルは日が暮れてから帰って行ったが、アンジェはもっと早い時間に戻れるよう、気をつけて上げようと思う。
「アンジェはこれでも、十六歳なのです」
「「えぇっ?」」
同じ年とか有り得ないんですけど?
そう言いたいが、驚き過ぎて言葉にならない。
「天使って、育ちが遅いんですね」
「アンジェは特別です。ミケルの番が、この子の二つ上なので」
ミケルの恋人ミルフェは、もっとずっと大人っぽかった。ヘタをするとミケルよりも上に見えるくらいに。
もちろん天使にだって個性が有るのだ、一概に比べて良い物では無いだろうが、いくらなんでも小さ過ぎでは無いだろうか?
「属性やスキルが確定すれば、すぐに大きくなるです」
なぜだかどや顔で、アンジェが言う。
別にこのままでも、可愛いくて良いのだが、本人はきっとそれでは嫌だろう。
「そうなんだ。髪が白いから、氷とか光とかかな?」
ミケルは青い髪で水と風だし、赤毛のラエルは炎だと言っていたらしい。だからきっと、アンジェの髪色も属性に関係しているのだろう。そう思ったのだが。
「アンジェの髪は白ではなく銀髪の筈なんです、まだ幼体なので輝きが足りないため、どうしても白に見えてしまうのですが。
女の子で銀の髪は珍しいのですが、銀の髪を持つ者は髪と属性に関連づけが無いため、属性がわかりにくく成長が遅れる事が多いのですよ」
「プラチナブロンドなのね。ステキだわ、アンジェ、さん……」
子供じゃないと言うことを思い出したのか、桃子は慌てて敬称を付けた。
「私の事は、呼び捨てで構わないです。成長前の天使は、赤ちゃん扱いなんです」
「「赤ちゃんっ?」」
亜美奈と桃子、二人揃って素っ頓狂な声を上げた。
小さくて可愛いが、流石に赤ちゃんは無いだろう。
プラチナ(今は白にしか見えないが)の髪に、薄いブルーの瞳がお人形の様に可愛らしい女の子。『赤ちゃん扱い』と聞いて、少々、いやかなり不安になる亜美奈だった。
つづく




