鑑定するよ
桃子は鑑定を霊視か何かと勘違いしているようだ。
ギュっと目を閉じ、ひどく緊張している様に見える。
「持っているのは、まず鑑定。人体……… X線とかCT、MRIとかいう感じの見え方が出来るはず。後、食べ物や薬、毒だったり、どんな効能が有るのかが見えるみたい。まあ、今はレベルが足りないんだけど」
「天使様にもレベルが低いって言われてる」
「私も初めはそうだったよ。で、次に能力。小説や漫画で有る『ギフト』って奴ね。『物見の手』『異空の手(初・中)』『転空の手』『薬医の手』『心医の手』『神の加護』
物見は鑑定の事。異空はダンジョンを造る力。初心者用と中級が作れるみたいだね。
転空は板状の物に付与して使うみたい。そこに直接書いたり、紙に書いて貼ったりした物が、別の場所にも表示されるような感じみたいだけど、ちょっと私もレベルが足りないみたいで、それ以上詳しい事は判らないや。
あとは、内科と精神科関連の能力が有りそうだけど。医者を目指したいならそっち、かなぁ? 鑑定の方と合わせて、身体検査とかの方で行くのも有りかも?
まあ、その辺りは桃子自身が考える。って事で」
「そう……… 医者ねぇ」
「興味無さそうだね」
人の命に関わる事だから、信念が無ければ出来ない仕事だし、むしろ遠慮したいと思うのも有りだ。
亜美奈だって、そういう仕事に興味が有るかと言えば悩んでしまうし、即答出来ない桃子の気持ちも判る気がする。
「他の能力から見ると、桃子は医者になって一か所に住み着くよりも、世界中旅しながらダンジョン造ったり、ギルドの開設準備したりする方が良いかな?」
と、突然首を突っ込んで来たのはミケルだった。
どうしてミケルは、こうやって突然現れて意見を言うのだろうか。
考えてみれば、初めて会った時もこんな風に突然言葉を挟んで来た。
天使だからか?
天使だからなのか?
「亜美奈は薬作れるし、桃子と一緒に旅したらどうかな。医者と薬師だったら、どこに行っても歓迎されるよ」
「なるほど、確かに歓迎されますよねぇ」
「というか、もしかして心菜と真鈴、私と一緒に行けなくなったんですか?」
だから桃子との旅を進めている?
もちろん、あの二人が率先してそんな事を言うとは思えないので、能力的な問題で、何かあったのではないだろうか。
それが、亜美奈の考察だ。
「座をね、持っていたんだよ」
「座、ですか?」
「そう、心菜が『銀座の手』、真鈴が『貝座の手』。他にも『金座の手』と『銅座の手』『口座の手』を持ってる人がいて、」
「その『手』を持ってるのが、二人の兄弟か親戚なんですね?」
そんな事も有るだろうとは、以前から考えていた。
元々ミケルも、いずれ三人は別々に活動して欲しいと言っていた。
本人の意志を尊重するということも、言ってはいたと記憶しているが、三人の持つ能力ゆえにそうして欲しいと。
ミケルの言った三人の能力とは『異空の手』であり、世界的にも珍しい『初心者向けダンジョン』を造る事の出来る能力だ。
町の近くに初心者向けダンジョンが有ると無いとでは、町の暮らしぶりが大きく違うのだそうだ。
中級以上しか無いと強い者が幅を利かせすぎ、弱い者が小さくなって暮らさなければならなくなり、最悪奴隷制度が出来る事も有るという。
だから分担して、あちらこちらに沢山ダンジョンを造って欲しいというのが、ミケルの意見だ。沢山作れるのなら別に別々で無くても良いらしいが、まとまっている場合は一人での作業とそう変わらないだろう。
桃子も初心者向けダンジョンを造る事が出来るのだが、後から見つかった内の一人だからか、ミケルはダンジョンの事をあまり桃子には言わない。
それから『座』というのは、お金を作る事の出来る能力に違いない。
心菜が持っているという『銀座』と聞いて、歴史で習った江戸時代にあった『金座』『銀座』の事だとすぐに判った。
「心菜と真鈴は、まだしばらくの間は亜美奈と一緒にダンジョンを作って周りたいと、そう言っていたんだよ。けど、この国の皆が使うお金の問題が有るし、向こうの二人が『家族で暮らしたい』って言って、現在も話し合い中」
「まあ、そうですよね」
家族で暮らしたい。
亜美奈だってその気持ちは判る。もうけして叶う事は無いが、両親と一緒の生活をしていた日々に戻りたい。
「桃子は、他に一緒に行きたい人居ないの?」
「あ~、実は私、友達居ないのよ」
「………冗談?」
「じゃ無くて」
「マジで?」
「校内で仲良くしてた、っていうくらいの友達はね、まあいたけど。学校の帰りとか休日に一緒に出かけて、っていう事した事は一度も無いの」
「それなら私も、」
「名前で呼んで貰った事もね、実は無いの」
そう言えば亜美奈も、彼女の事は『委員長』と呼んでいた。名字ですらも呼んだ覚えが無い。というより、覚えて無かった。
学校帰りや休日に会わないという事だけなら、亜美奈も同じだが、さすがに名前は呼び合っているし、友達という自覚も有る。
「大陸の方にも行ってみたいんだけど」
「良いけど、何が有るの?」
「何っていうか、色んな所に行きたいだけかな」
とは言え。
「まずは交換会が終わってからよね」
「うん。けどその前に、あの子達の方もかたづけないと」
後から行った方の三人が、一往復して戻って来た。
手にはクレープを持っている。残念ながら、醤油は出なかったようだ。
「もう一度行くから、これ預かっててくれない?」
「良いよ、行ってらっしゃい」
預かった三つのクレープは、皿に乗せて箱にしまう。
時間が止まる箱なのはもちろん秘密だが、日が暮れる程度まで預かるぐらいなら、問題無いだろう。
問題が有るとすれば、クレープを持って校舎に戻る事の方だが、それもダンジョンの宣伝になって良いかもしれない。
あれから百合達は、四回挑戦してもう一度クレープをドロップした後、イカソーメン、もう一度イカソーメンときて最後に漸く醤油を手に入れる事が出来た。そのまま三層までクリアしたと言って、ワサビをゲット。これは大人二人が喜んでいた。
そして佐藤達と、ダンジョンの話しなどしながらクレープを食べて、壺に入った醤油を二つとワサビ、袋六つにギッシリ米と海鮮丼の材料を詰めて、嬉しそうに帰って行った。
今日から町を作るメンバーで生活する事になっているのだとかで、その仲間である佐藤もダンジョンで入手した食料を嬉しそうに持ち帰った。
「じゃあ、私達もご飯にしようか」
「良いわね、何が有るの? 私しも出した方が良い?」
「大丈夫、いっぱい有るし。デザートも有るよ、生クリームのケーキも」
桃子の瞳が輝いた。
佐藤達がクレープを食べているのを、とても羨ましそうに見ていたのだ。だからきっと、洋菓子が食べたいのだろうと亜美奈は思った。
「レシピも有るし、帰ったら幾つか教えるね。で、一緒に作ろう」
「良いわね、楽しそうっ」
まるでそれが合図だったかのように、『神の手』が集まり始めた。
集まる人数に合わせ、椅子とテーブルを増やして行く。ベンチにダイニングチェアー、リクライニングシートも。作った順に、深く考えずにゴロゴロとだ。
今日は初めての野宿だから三人で豪華に、と言っていたのだが、蓋を開けてみれば、二十人を超える大所帯での宴会となっていた。
心菜と真鈴の兄弟はもちろんだが、他の地域から来た『神の手』達までが、何故だか集まってしまったのだ。
もっともそのおかげで、色々な料理が食べられるのだから、文句を言っては罰が当たると言うものだ。
「良かった、全員ここに集まっていたんですね」
声と共にトレーラーハウスから出て来たのは、ラエルとミケルの二人だった。
魔法の光で照らしているから、ここは明るいが、すでに夜と言って良い時間だ。こんな時間に天使がいるのは珍しく、皆目を丸くして二人を見つめた。
つづく




