ダンジョンの中身は
当然だが温泉は混浴では無く、男女別になっている。
誰も見ていないのだから一緒に入れると思うだろうが、ダンジョンには魔法が掛かっていて、入り口は一つなのに足を踏み入れた途端別の部屋に分かれるという、不思議空間になっているのだ。
もちろんだが、作った亜美奈にもその仕組みは判らない。この世界の魔法に、理解できるような仕組みは存在しないらしい。
「残りの20%は?」
「19%がワサビ。それから0.5%が片手剣が現れる特殊スキルで、もう半分はボウガンです。ただしダンジョン限定だし、人を狙うような仕草を見せると消え去ります。たとえ冗談でも」
「随分厳しいのね、亜美奈さん」
担任教師から無く名前の方で呼ばれるのは、くすぐったい気がするのは何故だろうか。
「魔法やスキルって便利だしカッコ良いけど、簡単に使える武器でも有るから、一応気を付けて置かないとって思うんですよね。天使も『人同士の戦争』をさせないように、世界のルールを工夫してるみたいだし」
「確かに厳しいけど、気を付けるに越したことはないんじゃ無いかな」
「山田さん………」
「そんな事より」
話しに割って入って来た山田は、ニンマリと笑いテントの方を指差した。
いや、テントの奥にあるダンジョンを。
「俺達も、アレ、入って良いの?」
興味深々、身を乗り出して来る。
「けっこう時間立ってますし、もう先に進んでるはずだから大丈夫と思います。ただ武器が必要なので、」
亜美奈はこれまでに作った物を思い浮かべ、武器になるが武器では無い物が無いか記憶の中を探してみた。
百合と呼ばれた生徒が居なければ、武器を貸しても良いのだが、亜美奈が武器を持っている事を知られるのは、あまり良い事では無い気がした。
「ちょっと待ってて下さいね」
亜美奈はテントに入ると、さもそこに初めから有ったかのように、バットを一本とゴルフグラブを二本ばかりバッグから取り出した。
どちらも暇つぶしの玩具として作った物で、バットはともかく、ゴルフクラブはルールが判らないなりに中々楽しめたと思う。
それらを手にテントから出ると、正面に居た百合が、ブツブツと一人で何か呟いているのが見えた。
「これなら木刀の代わりになると思うんですが」
「ありがとう。じゃあ、八重子さんと桃子くん、一緒に、」
「醤油ーーーっ!!」
心からの叫び声に場が凍り付く。
叫んだのは佐藤と一緒に来て、一人残った百合だった。
何やら呟いていたのは、どうやら『醤油』だったらしい。
「私も行きたいですっ。醤油欲しいっ、醤油で何か食べたいっ。肉でも魚でも良いから、醤油ーーーっ!!」
気持ちは判らなくは無いが、落ち着けと言いたい。言いたいが、それを口に出来るほどの心の余裕が戻って来ない。
只々驚き、固まったままでいた。
そんな中で、一番初めに動き出したのは山田だった。
「そんなに醤油が好きなら、一緒に行くか?」
コクコクと、百合が何度も頷いた。
「そう言えば醤油味の物食べたの、こっちに来た日のお弁当が最後だったかも」
「あら、煮物には一応入れてたのよ。あくまでも一応だけど。ただ、あの人数の煮物に一升ビン一本じゃ、薄く色が付くのが精いっぱいだったけれど」
「ああ、あれって醤油の色だったんですね」
桃子と八重子が、コソコソと三つ葉学園高校に置いての食事事情を話している。
亜美奈も二日は高校に居たため、食事は覚えていなくは無いが『味が薄く量も少ない』という印象ばかりで、醤油を使っていたかという所までは覚えていない。
「醤油のドロップ率は20%だから、二層のボス倒しても出なかったら一旦ココに戻って来て、荷物置いてやり直すと良いですよ」
「20%……… ものすごく良心的な運営のガチャぐらいか」
「何と比べてるんですか?」
「まあ、何となく」
アハハと山田は、乾いた笑いを浮かべる。
魔法やスキルをくれる精霊に対し、亜美奈達がガチャと言っていたのは、もちろん秘密だ。
「三層に入っちゃったら、ボス倒すまで帰れないので気を付けて下さい。で、誰が行きます?」
「じゃあ、俺とその女生徒と、」
「あ、私はここで待ってます。亜美奈に聞きたい事も有るんで」
「八重子さん入れて三人だな。クラブの方が長いから、それは女性二人で使ってくれ」
「はい、ありがとうございます」
バットは山田に、ゴルフクラブは八重子と百合に渡す。
「一回目は様子見ながら、ゆっくり行こう。途中、欲しい物が有ったら一つずつだけ採取する、って事で」
「はい、判りました」
「行ってくるわ」
獲物を手に真剣な三人に、手を振り送り出す。
観光洞穴程度のダンジョンなので、大した事は無いのだが。初めてだと、あんな物だろう。
自分では判らないが、きっと亜美奈達も最初は緊張でガチガチだったのだろうから、笑わずにいよう。
「え~と、一陣が戻る前に鑑定しようか」
「ノートね、ノート……… お願いします」
「はいはい。っと、それ捕まえて」
人が居なくなったからだろうか、どこからともなく精霊が集まって来た。
亜美奈と桃子、相性の良い方に保護を求めてなのか、手の周りに寄って来る。
その光を亜美奈が手の平ですくい上げるようにすれば、綺麗な石が幾つも手の中に落ちる。
真似して桃子も精霊を保護し、嬉しそうにそれを眺めた。
「袋貰ってる?」
こういうの、と小さな袋を見せて石を入れると、桃子が興味深そうに身を乗り出して来る。
「まだ貰って無いと思うわ」
「じゃあ、これ」
未使用の袋を出し、倍増魔法を二回掛けてから三枚を桃子に渡した。
「それに入れると契約が完了して、精霊の持ってる魔法やスキルを持ち主も使えるようになるから。精霊を保護したら、必ずその袋に入れてね」
「契約って?」
「こんな感じ」
契約済みの精霊を数体、亜美奈は自分の周りに発現させて見た。
それらはもうすぐ成体になるほどの成長している精霊で、動物だったり人の形だったりと、可愛らしくいかにもな精霊っぽい姿をしていた。
「これで私も、魔法が使えるの?」
「レベル1だけどね。練習は明日、私達の家に行ってからにした方が良いよ、きっと」
「ああ、揉める元だって言ってた奴ね」
僻み妬みはだれでも有る。こんな時なら、余計にそれは表に出やすいはずだ。
「じゃあ、気持ちを改めまして」
「鑑定ね、鑑定」
なぜか目を閉じる桃子が、何だか可笑しい。
けれどここは笑う場面では無いだろうと、亜美奈も真剣に鑑定を掛けた。
つづく




