ごめんなさい
「そうですけど、何か?」
この人とは、会った事が無いはずだが、いったい何の用なのだろうか?
いぶかしんで見上げていると、彼女は自分の背後にいる誰かを前に引っ張り出そうとした。
「佐藤さん?」
思い切り嫌な顔をしたのは桃子である、『何しに来やがった』とでも言いたげに睨みつけた。
おかげで亜美奈は、怒り損ねてしまう。佐藤のせいで、高校を出る事になったのだから、怒っても良いと思うが怒りが湧いて来ない。
もっとも、出た後の方が良い事が多かったのは、佐藤には内緒だ。出て良かったと、心底思っている事も。
「あの……… ごめんなさいっ!!」
深く頭を下げ謝罪する佐藤には、なぜだか拍子抜けした。
元々怒り損ねていた亜美奈だったが、更に怒りが飛んで行く気がした。
「入学してからずっと、意地悪してごめんなさい。反省してます。私が全部悪いです。本当に本当に、ごめんなさいっ」
「ええーと、」
なるほど、自分はイジメを受けていたのか。
夏休み明け辺りからは、もしかして『そうなのかな?』と思う事も有った。けれどイジメというには微妙過ぎた。物がなくなる事は有ったが、そもそも捨てる予定の物ばかりだったし、壊れた物は使い古しの物ばかりだった。
心底意地悪な人間では無かったせいで、思い切った事が出来なかったのかも知れないが、気付かない亜美奈に罪は無いと思う。
今更ながら理解した亜美奈だった。
「なんでそんな事してたの?」
とは言え、イジメに気付いていなかったと言うのはマヌケなので、知ってた不利で聞いてみる。
「名前が………」
「名前?」
「だって平野さん達、名前が可愛いからっ。私なんか『茂子』でっ、シワシワネームとか言われるような名前なのに、平野さん達は可愛い名前でっ。だから……… うう……… いえあの、ごめんなさい」
最終的に、何だか判らない状態になっているが、気持ちは伝わって来た気もするので、良い事にする。
けれどせっかくだから、罰を受けて貰おう。
亜美奈は作成中だったダンジョンを急いで完成させ、テントの裏側に発現させた後、そちらの方を指さした。
「じゃあ、テントの裏に有るダンジョンに入って、牛肉を三個取って来て貰おうかな」
「牛を倒せっていうの?」
「いや、それは無い。行けば判るけど、ちょっと攻撃を当てればドロップするから、それ拾って来てよ。牛肉の場所は、三層になってるダンジョンの三層目に、牛っぽい魔物がいるからすぐ判るよ。それで許すから」
魔物と言っても攻撃して来ない丸い牛だ。動きものんびりなので、後ろから行ってチョンと棒の先でつつけば良い。
他の魔物も同じようなもの。このダンジョンでは、ボスですらも威嚇ぐらいしかしないように作って有る。
それでも絶対危険が無いとも言い切れ無いから、誰か手伝いをと言おうとすると。
「私達、付いて行っても良いですか?」
ついさっき、声を掛けて来た女子が聞いて来た。
「もちろんです。このダンジョンは三人でクリアするように出来てるから、三人で協力して行くと良いですよ」
ホッとしたような顔をしたのは、佐藤以外の女子達だけで、なぜだか佐藤は不服そうにうつむいていた。
罰を罰として、きちんと受けたい気持ちが有るのかもしれない。けれどそれを言わないのは、ダンジョンに対する恐怖心が有るのだろう。
「木の棒で良いから、武器になる物を持って行ってね」
「判った。牛肉を三個ね」
「そう。気をつけて」
真剣な顔で頷いた後、佐藤は、ダンジョンに向けて歩き始めた。
「百合さん、木刀貸してあげて。私と佳子が付いて行くから」
「佐藤さんっ、木刀持って行ってっ」
先を歩く佐藤を追い掛け、木刀を渡すと百合と呼ばれた女子は、亜美奈を睨みつけた。
「問題無いから大丈夫、転んだりしなければケガするようなダンジョンじゃ無いから」
「信じて良いのね?」
「元々、自分達の夕食の材料を取りに行くために作った物だし。と言うか、何で木刀なんか持ってるの?」
佐藤とダンジョンに行った二人も、木刀を手にぶら下げていた。
山の方を散策しているのなら、獣を警戒しなければならないため理解出来るが、浜辺で木刀は理解しがたい。
「私達、裏山で罠の確認をしてたのよ。そうしたら、大野さんに会ったの。で、大野さんに謝罪した後、他の二人の居場所を聞いた所、ここを教えてくれたってわけ」
「なるほど、それでそんな物を」
「そんなに変かな?」
変と言うか、女の子が持ち歩く物じゃ無いと思う。
今は普通じゃ無いから、変だと言い切れ無いが。
「けど、ちょうど良かったかな」
「あぁ、ダンジョンね。本当に大丈夫なのね?」
ずいぶんと心配性だが,姉か親戚だろうか。
「亜美奈逹が居なくなった翌日からずっと、佐藤さんと組んで狩りしてた先輩方だから、情が移ってるんじゃない?」
「あの子、変にムチャするから心配なのよ。で、本当に大丈夫なのよね」
再度聞かれ、亜美奈は苦笑した。
「私達、天使のお手伝い組にとってあのダンジョンはね、オマケ付きの冷蔵庫なの。だから魔物と言っても行動はして来ないように指定してるし、危険な場所も作って無い。あえて言うなら、入り口で渡される袋に入る分しか採集出来ないのに、ついつい、一層で取り過ぎちゃってどうしようもなくなる可能性が有るぐらいかな?」
亜美奈もダンジョンを作ってすぐにやってしまった。一層で米を取れるようにしたため、ついつい取り過ぎたのだ。
その日に食べる分だけ、取れば良いと気づいたのはね、三回ほど行き来した後だった。
「亜美奈さん、いったい何が取れるの?」
「あっ、先生、じゃ無くて八重子さんも気になります?」
「そりゃあ気になるよ。冷蔵庫って言うくらいだから、美味い物の一つや二つ入ってるんだろ?」
山田は興味津々だ。
「え~と、一層ではお米と、わかめとかの海藻類。後、サンマと鯵ですけど、ドロップ品は干物になってます。
二層はマグロとサーモン、海老で、魚は柵でドロップします。二層からはボスが居て、二層のボスはイカで、ドロップは50%がイカソーメン。30%がチョコバナナクレープ。残りの20%で醤油です。醤油はツボに入ってるので、ちょっと重いですが三層が有るので、袋には入れない方が良いですね。
三層は肉系で、牛に豚、後は鶏がいます。当然ですが肉の塊でドロップしますので、そこまでで袋いっぱい採ってると、肉は採れなくなります。ボスはタコ。タコ刺は確定で、その他のドロップは80%の確率で温泉ですね」
「ユデダコかっ」
そこは気付かなかったと、亜美奈はごまかすために笑って見せた。
もっとも茹で上がるのはタコでは無く、人間の方なのだが。
つづく




