明日のために
先にラエルが出て来た時は、いつの間にトレーラーハウスに入ったのかと焦ったが、ミケルの姿を見て納得した。
ここに来るまでに何度も道をつなげていたせいで、ミケルもこのトレーラーハウスまでの道を使えるようになっている。
どうやらこのトレーラーハウスは、置き場所が変わっても『同じ場所』として認識される様で、勝手によそに移動してもこのトレーラーハウスに戻って来る事が出来る。
ただし、小さい状態の時は別扱いになるため、小さい中に入ってしまうという様な事は無い。
「何かあったんですか?」
日が暮れると天使は、自分の家に戻って行く。
亜美奈達の住んでいる家に居る時は、多少遅くまで居る事は有るが、三つ葉学園高校からの行き来は翼を使って飛んでいるせいか、暗くなるまで居る事は無い。
顔見知りの天使ではあっても、ラエルは身内と言う感じでは無く一度会っただけの人だ。移動用なので天使達からすれば、テントぐらいの感覚かもしれないが、自分達の家から他人が出て来たら違和感を感じる。
「交換会における魔法の付与の件なのですが、校長様から、持ち主以外には使え無いようにして欲しいと言われてしまったのです。共有出来る物にすると、心菜達に起こったような事が、再び起こるのでは無いかと心配しているようなので」
「ああ、有るかも」
「しかもあちこちで」
全員一致で頷いた。
佐藤のように、自分で気づいて謝罪までしてくれる人は希な事で、ほとんどは叱られて漸く判るか、更に逆ギレするかだ。
「プレートの方なら、所有者指定も出来るんだけど」
「久我くん、だっけ。どうやるの?」
ローストビーフ目当てに亜美奈達のテーブルに来た、農業コース一年の久我が、皿に盛り付けながら教えてくれた。
「家の鍵にしてた光の玉有るだろ? アレの小粒の奴を使うんだ。プレートに付けて、血液を垂らすと落としても盗られても、自分の手元に戻って来る。本にもやってみたけど、残念ながら他の奴にも使えてた。戻っては来るんだけどな」
「じゃあ、鍵を付けてみるのはどうかな? で、鍵にその玉を付けてみる。それなら所有者にしか開けられない本にならないかな?」
亜美奈の提案に、久我の目が輝く。
「良いかも。けど鍵かあ。そんなレシピ有ったかなぁ?」
「私が作ってみる。その玉一つ貸してくれるかな」
「ああ、じゃあこれで」
玉を受け取ると亜美奈は、テントの中で錬金術のスキルを起動した。
鍛冶スキルでも出来そうだが、細かい調整や多重付与を必要とするため、錬金術の方が向いていると思ったのだ。
実際にレシピを作って見れば、鍛冶の方が良い物が作れると判り、亜美奈はひとまず一つだけ作ってみた。
それを魔法付与用の本に取り付け、土魔法で完全に一体化させた。
うまくついた事を確認して後、倍増魔法で数を増やし。その内の一つに光の玉を設置する。
念のために鑑定してみると、久我の言った通りの使い方が出来るし、更に後付けで所有者を増やせる等、とても便利に問題無く使えそうだ。
「こんな感じでどうかな?」
出来上がった本を差し出すと、受け取った久我を囲むような形でみんなが本を覗き込んだ。ジッと見つめているのは、鑑定をしているからだろう。
「良く出来てるけど、こんなレシピ有った?」
聞いて来たのは、伊勢の方に逃げていたという三年生だった。
あと少しで卒業という時にこんなことになって、『一日の我慢も出来ない』と言って遠くに逃げ出したグループだ。
「亜美奈はレシピが作れるんだ」
「レシピがですか?」
彼女達は天使から、レシピは精霊から貰う物だと教えられていたのだろう。
もちろん亜美奈も同様に教えられていたが、気が付いた時には自分で作れていた。ミケルにそれを言うと、『個性』という物だと言われたが、同時に『変わってる』とも言われた。
変わっていると言えば。
「亜美奈はダンジョンの使い方も、ちょっと変わってるんだよ。だからレシピを作るくらいの事、出来て当然なのかもしれないね」
「「「「変わってる~」」」
周囲から上がる声。
変わってないと言いたいが、心菜や真鈴と比べても違う使い方をしているから、大きな声で否定は出来ない。
「あのトレーラーハウスの中に設置されてるトイレやお風呂が、ダンジョンに繋がってるんだ」
「ダンジョンに汚水垂れ流してる?」
「違うっ。ダンジョンの中にいるスライムや魔物が、全部処理してくれるの。三層まで流れて完璧綺麗な水になったら、地面に浸透させてるの。エコです、エ、コッ」
と言うより、食事中にそういう事を言い出すのは止めて欲しい。
「けど、人それぞれ『チートもどき』の能力、持ってるんじゃないの?」
チートと言い切るには、かなり微妙なのだが。よく考えてみれば、ものすごく便利だったり人の役にたったりする。だから『チートもどき』。
亜美奈のレシピ作成なども、それに当たるのだと思うのだが、周りの皆は首を捻るばかりだ。なので例を挙げてみる。
「例えば心菜は岩を砕いて道路を作れるし、真鈴は凄い勢いで木片や木の枝を使って、塀が作れるよ」」
「それなら人志達三人のダンジョンは、経験値が妙に多かったり飼育動物の為のダンジョンだったりしてますね」
「そうそう、陽介の奴が作るダンジョンにイノシシや牛放つと、肉やミルクが妙に旨くなるんだよ」
「私達は、遠くに物を送る事が出来るわよ。部屋に箱に魔法陣と、三人とも方法は違うんだけど」
「えっ、えーと…… 俺たちは、人形劇が出来る」
最後の一人は、自身が無いのか小さくボソッと呟いた。
「その、作った人形が、指定した通りに勝手に動いて演技するんだ」
「凄い~っ。この世界初のぉ娯楽だぁっ」
「いやでも、そばに付いてないと動かないし」
「全部の街を道で繋いで、興行して回れば良いのよ」
「そこまでの物でも……」
心菜と桃子に両脇からにじり寄られて、先輩達はタジタジだ。
ちなーみに人形劇の彼らは金沢の辺りに逃げたそうで、お土産に大きなカニを持って来てくれた。
伊勢の先輩達は、伊勢海老と天然の真珠だ。
「ボクも娯楽は必要だと思うな。テレビも映画もライブだって無くなっちゃったんだから、代わりの物が無くっちゃ」
「もっと落ち着いたら、移動遊園地や芝居小屋なんかも回れるようになると良いわねぇ」
八重子のセリフに、皆無言で頷いた。
もちろん、頷くだけじゃない。亜美奈は得意のレシピ作成を使って、移動遊園地のレシピを考えている。
それだけじゃなく、
「そう言った事に必要な『手』を持っている人も、探した方が良いかもしれないね」
昼間見た『剣士の手』の様に、芝居や歌、演奏に関する『手』を持っている人がいるかもしれない。
「天使が声掛けてる以外に、『手』を持ってる人がいるのか?」
視線はラエルの方に向かう。
ミケルも居るが、どうしてかラエルの方が役職持ちに見えるのだ。
「我々が手助けし、手を貸して貰いたいのは『神の加護』と『異空の手』、あとは『座』を持っている方だけで、他の『手』に付いては特にどうこうするつもりは無いのです」
「じゃあ、色々いるんだ?」
「私は『剣士の手』を見たよ」
家を建てて畑を作れば町が出来る訳じゃ無い。医者も必要だし、警備をする人や店だって必要だ。
何しろここにいる全員、何でも揃っている世界で生きて来たのだから。何もないままで、いつまでも暮らせる訳が無い。
つづく




