15
「同士よ。何やら酷く難しい顔をしているが、何か困りごとか?あちらの世界での困りごとなら《銀月の集い》が格安で手を貸すぞ?」
「あぁ、あの獣人のグループ、そんな名前なんだ。ってか、そんな酷い顔してたか?俺」
「うむっ」
いかんいかん、決まった取引先相手でも客商売は笑顔が基本だからな。最近運送(現場)は東條任せだが。
「それなら手伝ってもらおうか。実はシルイットでの店の人員や在庫管理、元々あちらの帳簿がおおざっぱなのと金銭価値が違いすぎてまともな帳簿が作れないので困っているんだが………」
「おっとすまん、そういえば緊急で追加発注があったのを忘れていたようだ。なぁに、心配はいらない。俺が今すぐに持って行くからな。その悩みが解決した頃にまた相談して呉れたまえへ」
逃げやがった。
まぁ、逃げるように誘導したんですけどね。
東條に妖精や精霊の集団を見せたらどうなる事は予想できる。
解決ではなく混沌に向かうに決まっているからな。
もやもやを抱えながら何とか一日を過ごし帰宅する。
時計の電池が切れているのに気づき、食料品ついでに買い物へ。
ガソリンのエンプティを示唆するランプが点灯したのでついでに補充。
帰宅すると鍵を閉めるのを忘れていた、危ない危ない。
簡単に作った夕食を彩綾と食べ、後片付けを任せ部屋に戻る。
今日も普通の一日を終えてベッドへダイブ。
…………普通、か。
そうだよな。
『おまちしておりましたー』
「お、おぉー……」
少し仮眠をとり、異世界へ潜ると、赤精霊を先頭に無数の光達が俺を待っていた。
部屋全体がクリスマスのイルミネーションの様に光っており思わず息が漏れる。
というか、つまみ食いした妖精や精霊どんだけいるんだよ!
『これは、このまちどころかへたすればくにごとほろぼせそうなかずですねー……』
心のツッコミは声に出ていたようで、律儀に赤精霊が返事をくれた。
『で、あのあまいしる………じゅーすというのはまだですかー?みんなはやくほしいとそわそわしてるのですー』
ざわつきが大きくなる。
「おいっ、勝手に突っ込んできたりこっちに群がってきたら昨日の毒をお見舞いするからな」
危険な感じがしたのでそう叫ぶとプレッシャーが消え去る。
「その前にお前たちの処遇だな。この家……店に置いてあるモノのほとんどが俺の私物、……みたいなものだ。これらは売り物――つまりはそれらを手に入れるには対価を貰わなければならない事になっている。それらをあんたらが勝手に口にしたことで仮契約状態になっているらしい。だから、あんたたちの事も視えるし声も聞こえる」
一気に部屋が騒がしくなる。
『うそー』とか『げぇっ』とか『ありゃりゃ』とか口々にわめく中、何匹(?)何人(?)かの妖精・精霊たちが
『そんなわけねーだろー』
『だまそうったってそうはいかねーぞー。おれしってるぜ、にんげんってうそつきだからなー』
『ばーか、ばーか』
といきがって目の前をぶんぶん飛び回る輩もいる。
邪魔なので蚊を殺す要領でぱちんぱちんと(殺してしまわない様)軽めに叩き落とすと、触る事も出来たようで切れかけた電球の様に点滅した光は弱弱しく地に墜ちていった。
その光景に一気に静かになる。
「うん………まぁ、ごめん?」
『だいじょうぶですよー、すこしはこれにこりていいくすりになったでしょー』
赤妖精がやれやれといったジェスチャーを見せる。
「そうか。っとと、話は戻るが今回に限り罰は無しで仮契約も解除したいと思う」
『えっ、いいんですか!?』
「あんたたちの力を借りたら最強になれる話だろ?魔法を使うってのには興味はあるが、最強を目指しているわけでもカイナや獣人達の様に冒険者で一旗あげたいわけでもないからね。のんびりした普通の生活に異世界への旅行があれば十分だよ。――――ただし、盗みはいけない事だからね。もし次に同じ事したら、遠慮なく殺虫剤の刑に処す」
スプレーを噴霧するジェスチャーをすると後ろの方の光の集団から悲鳴が上がった。
成る程。
この場に集合を命じられている状態の中、何かあったらすぐに逃げられるようなるだけ遠くに隠れた結果、一番離れた後ろに固まったのか。
『えぇー。それじゃ、じゅーすをのめないじゃないですかー』
それに比べてこの赤精霊、先日の一件で堪えていないのか話して多少仲良くなったせいかかなり気安い。
こうやってしっかり意志表示してくれるのは、避けられるより万倍助かるがこっそり頂こうとする考えだけはやめてくれ。
「あぁ。だから飲みたいと言う子達はきちんと契約してもらおうと思っている。そちらの対価はうちで働く事。こちらからはジュースや菓子など。どうかな?一応、好みがあると思うからいろいろ持ってきてみてはいるんだが」
ビニールからあらかじめ持ってきた飲み物や菓子類を広げる。
また急に圧力がかかった気がする。
『はたらくってなにするのー?わたしたち、あのおんなのひとたちみたいにはなしたりおもいものをもったりできないよ』
「そこはちょっと思いついた事があるから大丈夫、出来る事と出来ない事いろいろ試してもらうつもりだよ。それに、他の人達と話したり出来なくても店の物を取られないように見張ったり、もし盗られても盗った人が何処に持ち去ったか追跡することはできるだろ?」
『それくらいなら』
「それだけできれば大丈夫だよ。後はいろいろ試してみて出来る事があればその分報酬を増やすって事でどう?」
『やります!』
赤精霊の他、小さな人形に見える妖精・精霊たちも頷いた―――ように見える。
「じゃ、うちの店で働いてくれる子たちは食べていいよ。嫌って子はそのまま帰って大丈夫。後で赤妖精(この子)に聞いてちゃんと仮契約を破棄し………」
言いながら菓子の袋を開けると光の粒が塊になって一気に押し寄せてきた。
怖かったので半分封を開いた状態で奥に放り投げる。
その光景、まさに上野公園の鳩たちに食パンを放り投げた時そのもの。
みんながそちらに気を取られている隙におためしにと用意した小袋を次々にあけて広げて置く。
チップス系、ふがし、米菓子、かりんとう、チョコに飴。飲み物は濃縮還元の果物のジュースに炭酸や栄養ドリンクにチューハイも。
せいぜい先日の2~3倍程度だろうと思い用意していた食べ物たちは一部を除きあらかたなくなってしまった。
『ますたー。おかわりー!』
赤精霊が皆を代表しておねだりしてくる。
ってか、大丈夫か?なんかふらふらしてるけど
「おかわりはお仕事した後の報酬で、だ。それより、なんかふらふらしてないか?」
『あははははー。らーいじょーぶですよぅ。ちょーっとつよいまりょくによったらけですからー』
指さしたのはアルコールの缶ではなく茶色い瓶の栄養ドリンク。
ほとんど手をつけずに残された菓子は塩味のチップスや米菓子系。
同じ米菓子でも醤油味は無くなっている、か。
…………成る程。
妖精や精霊の好む物や魔力の源が大体何なのか分かった気がする。
甘味と旨味、かな。
手つかずで残った物を捨てるのももったいないので彼等が手をつけなかった菓子類はビニールにまとめておく。
明日、三人娘にでも食べてもらおう。
「大丈夫ならいいんだが。それより、他のみんなも飲み食いしていたみたいだが店で働いてくれるって事でいいのか?」
各々、統一されてはいないが了承・分かったとの返事が返ってくる。
「それじゃ、夜が明けたらここに集合してくれ。働かなかったやつは飲み食いする権利は無いからちゃんと集まっておくように。以上!」
こうして、真幸商会シルイット店に小さな従業員が1000人(?)近く増える事となったのであった。
******************************
で、(日本では)週末。
「今日からウチで働く事になったエルモちゃんです。じゃ、自己紹介をお願いします」
『はい。エルモといいます。ますたーからなまえをつけてもらいました。なかよくしてください』
妖精や精霊は個体名は無いらしいので不便だと思いつけてやった。
出典は船乗りを導く聖なる炎(セントエルモの灯)から。
名前をつけてやったら他の人にも姿を見せる事が出来るようになったらしい。
ついでに透明な炎を纏った様な気がしたんだけど……気のせいだよな。多分。
「まぁ、見ての通りちっちゃいので同じ仕事を頼むのは流石に無理があるからな。彼女たちには彼女たちにしかできない事を頼むつもりだ。みんな仲良くしてくれよ」
「「「………………………………」」」
なんか三人とも言葉を失っている―――というか、意識を失ってる……のか?
従業員なら大丈夫かと思っていたが、これも不味かった?
「おーい?どうした?」
「いやいやいやいやいやいや、ハヤトさん。何やってるんですか!誰を働かせているんですか!精霊様ですよ!精霊様の顕現なんて勇者様の伝記にも1・2度記述があるかどうかですよ。そんな方連れてきて従業員って!」
一番先に復活したのはミスティ。
そのツッコミに一筋の冷や汗が流れる。
まさかねぇ……と、思って後ろの二人を見てみるが二人とも頷きまくっているので間違いなさそうだ。
「―――どうしてこうなったのか説明してください!」
ミスティ、迫力ありすぎて怖いわぁ。
そんな血走った目で迫られたら正直に話しちゃうじゃないですかぁ。
こんな風に。
「ラッセルから依頼されたジュース泥棒をつきとめたらこいつらでした。弁償とこれからも欲しいと言うので対価として働いてもらう事になりました」
――――――バタン。
「ラッセル。しっかりしてー。………ミスティ、ハヤトさん、…手伝って。ラッセルが……白目むいてる」
「―――本当に、……本当に頭が痛い話です」
「いや、なんか。ごめんなさい」
お店は臨時休業。
ミスティが慌ててガルフコーストさんを呼びに行き、現在に至る。
「かといって無理矢理に締め付けるとハヤトさんの場合何処かに消えちゃいそうですからねぇ」
それ、正解。
万が一の事があれば、あの扉閉めて封したらシルイットとの繋がり終わりだよ。
「王都からの呼び出しも断っているのですが………精霊様となるとどう対処したらいいものか」
「王都……ですか?」
「あっ、いえ、申し訳ありません。それはこちらの話です。ところで――――ハヤトさんは彼女を従業員にと聞き及んでおりますが、何をさせるおつもりですか?精霊様には申し訳ないがあの体躯で荷運びや接客は少々厳しいものがあるかと思うのですが」
それでは実演とばかりにガルフコーストさんを発電機の方に連れていく。
ミスティたちも真剣な表情で着いてきた。
「んじゃ、エルモー。ちょっと来てくれー」
『はいはいー、どうしたか、ますたー』
「こいつは発電機って言うんだけど、この中に燃料を入れて。こうっ……こうっ点火すると中の燃料を爆発させて中のタービンっていう車輪みたいなものを回転させて電気を作り出す機械なんだ。この機械を水と火の妖精・精霊で動かせないかなって思ったんだけど……どうかな?燃料の代わりに水を加熱して」
『わかったー。みんなにきいてみるー』
そう、精霊たち(こいつら)の仕事を作るにあたり日本で簡単に手に入る電気や火、水なんかを生み出してもらえないものかと思ったのだ。
帳面上、彼らのジュースや菓子代は光熱費としての計上で。
ネットで魔法やら精霊やらについて調べたら、四大元素と呼ばれる【火・水・風・土】、若しくは五行の【火・水・木・金・土】を司る生物で、その属性に準ずる能力を持つのだとか。
そこで思い付いたのがこの計画だ。
家庭用の水力や風力・太陽光発電の設置も一度は考えたのだが、どうしても無関係な人を呼ぶ(業者の手が)必要ができてしまう。
しかも電気もない状態で配線やパイプの設置からとなるとどれだけ手がかかるのか想像がつかない。
そんなわけで燃料いらずの発電、ガスいらずのコンロ、貯水やパイプいらずの水道はシルイット(ここ)での目下の課題となっていた。
『たぶんだいじょうぶだってー。いっかいやってみるからとめてー』
一度エンジンをオフに。
排気が止まり静かになる。
『いっくよー。そーれっ』
ブルブルブ……プスン。
ブブブブブブ…プスッ……ブルブルブル……プス。
『んーー。ますたー、おなじちからをくわえるのがむずかしいって。でもれんしゅうすればできるはずっていってるよー』
「そっか、じゃあ気の済むまでやってみて。発電機が自在に動かせるようになったらプラス査定―――ジュースかお菓子が増えるからな」
『『『『わーーーーーーい』』』』
「じゃあ、次はこっちへ」
新しいおもちゃ(発電機)を前に試行錯誤を始める妖精たちに飴を与え移動する。
自分とエルモを先頭に4人が大人しくついてくる。………ポカンとした顔つきで黙ったまま。
客席のテーブルで待ってもらい、急いでキャンプ用品置き場からカセットコンロを持ってくる。
ガルフコーストさんは東條経由で見た事があるのか
「これは……」
と小さく呟いていた。
「これは簡単に火をつけられる道具。ここをこうやってひねると―――火花が出る。で、この缶――金属の容器にガスっていう燃える空気みたいな燃料が入っているんだけど、ここにセットしてあげると少しずつガスが出て同じ強さで燃える仕組み」
実演しながら説明を行う。
「エルモ達に為して欲しい事はこのガスを作れるかどうかと作ってからこの缶に補充できるかどうか」
ガスの主成分は炭素と水素だったはずだから、等価交換を謳う錬金術師なら炭とその数倍の水があれば作れることなる。
だが、実際には水の中に炭を入れれば可燃性のガスが発生するかといえばそうはならない。
安定している物質から必要な分子だけを取り出してくっつけるなんてことは科学の発達した現代でも不可能だ。
そこで、この妖精や精霊の力ならどうなのかと考えた次第だ。
もしこれが可能なら、シルイットに家庭用のガスボンベを設置してガスコンロの使用が可能になる。
「これも成功したらプラス査定ね」
『がんばらせまーす』
「後はこのあたりにタンク―――水を貯める道具を用意するのでこの中に水をいっぱいにしてもらう。水を出す、若しくは空気中の水分を集めるってのは大丈夫……だよな?」
『もちろんです。これもぷらすさてい?』
「いや、これは最初から予定してた内容だから………プラス査定というかマイナス査定になるな。これは確実にちゃんとしてもらわないとごほうびが減るからな」
『はーーーい』
一瞬エルモが嫌な顔を見せたのでやる気を削がない様訂正する。
そういえば精霊たちは仕事の概念がない存在だった。
最低限の給料分と定める仕事を仕事と考えない仕事を知らない人(子供)だと決められた事を疎かにしかねない。
その結果、顧客や常連客を失って店をたたむ事例をいくつも見てきた。
「後は警備……かなぁ。姿の見えない子たちが店の中で自由に周ってお金を払わずに逃げた人やこんな風に飾ってある物を盗んだ人を見つけたら火や水を出してこの子たちに教えたり逃げようとする悪者をこかしたりするの。ガルフコーストさん、この国で無銭飲食や盗みってどんな罰になるのですか?」
「……え、えぇと。基本街を警護する衛兵に引き渡した後概要を確認します。その後、事件の背景や金額・品物にもよりますが軽くて罰金や弁済・拘留ですね。重いものになると身分はく奪や犯罪奴隷として強制労働でしょうか。強盗殺人や献上品など国の重鎮や国家間の亀裂となりえる品物の場合は死罪もありえますが」
「じゃあ、衛兵が来るまでその場で足止め、まで出来れば完璧かな。普段の身周りのプラス査定はちょっとだけ。で、見つけて彼女たちに伝えたり足止めした時はボーナスかな」
『ぼーなす?』
「特別なごほうびの事」
『ぼーなす!がんばります!』
ガルフコーストさんに向き直る。
「とまぁ、こんな感じで働いてもらうつもりなんですけど――――どうですかね?」
臨時休業した翌日、店内は新人の加入で再び大繁盛を…………なんてことは無かった。
ガルフコーストさんやミスティたちは黙っていてくれているのでこの店の中に大量の妖精や精霊たちがいる事は知られていないし、彼らの存在を感じ取れる者はほぼほぼ存在しないのだ。
………実は担当する仕事のない大量の妖精たちが開始と称して店内や庭先で自由に飛び回っているんだけどね。
変わった点といえば庭先で排気と騒音をばらまきながら稼働する発電機が静かになった事、設置された冷蔵庫が時たま力尽きたかのように電源が落ちる事位だろうか。
まだまだ常時稼働とはいかないが、ガソリンが尽きかけていたのでどう言い訳して大量に購入しようか考えていたので妖精たち(彼等)の頑張りには期待したい所だ。
資金が潤沢になった今、実費が上がっても仕入れに困らない菓子やジュースで支払えるなら大歓迎だ。
貯水型の簡易水道は先日のうちに業者にメールで注文したので早ければ来週のうちに取り付けられるだろう。
つまり羽虫……じゃなかった妖精騒動については妖精・精霊の大量顕現並びに大量契約という歴史に残るような事件に対してほぼほぼ認知されることなく終結した。
ということでほぼガラガラな状態で落ち着いた店内3人娘とエルモ達に任せる事にして、次の問題を解決すべくシルイットで最も力を持つブルーヘブンさん・コリンズさんを家の個室の方にご足労いただいた所だ。
今回解決したい問題点。
それは総額300万に迫る在庫だ。
一部はエルモ達を捕まえるために流用したり東條の街を見学する為の資材(と彼は言い張っている)を購入したりと1割ちょっとは目減りしてはいるものの、残りの大部分は大漁の食料品として真幸商会の倉庫を絶賛圧迫中だ。
真幸商会の方に問題にならない程度多めに利ざやを入れているとはいえ数百万単位での仕入れとなるとt単位の米やパスタ・塩に砂糖、ペットボトルの飲料水が入ってくる。
期限切れでの廃棄は勿体ないので賞味期限が長い物や無いものを多く仕入れた。
まだ完全に埋まってはいないもののシルイットで仕入れた商品もあるし後4カ月分は仕入れずとも同じ程度の現物がシルイット行き扱いで納品される。
単価の高い品物を仕入れて量を減らす手も考えたのだが、そういった品物のほとんどは冷凍物や要冷蔵物。
一時保管の業務用冷凍庫・冷蔵庫はあるものの2・3日の取り置き程度の物なので使える空きスペースはほとんどないも同然だ。
結果、シルイットの方にどうにかして保管できないか相談を持ちかけた。
取引を拡大できそうで持ってこられそうな品がこれだけある、とりあえず保管させてもらえないかと聞いてみたところ
「倉庫を貸すのは簡単だ………問題は管理だな」
とブルーヘブンさん。
管理って預けるだけだよね?
「ハヤトさん、私どもの取り扱っている倉庫は多々あります。他の方にも貸し出しておりますし商業ギルドに登録されているハヤトさんに貸し出すのも問題ありません」
疑問が顔に出ていたのかコリンズさんが補足する。
一旦区切り、しかしと続ける。
「倉庫を使う方のほとんどは各国の代表として来られるのです。倉庫の賃貸料だけでなく納入・搬出する人員や賊に倉庫を襲われない様自衛力も必要となるのです。
賃貸料や人員についてはハヤトさんなら問題ないと思いますが、この自衛力というのがネックになるのです」
倉庫を借りるだけなのにそこまで警備が必要なのか疑問に思う。
と、顔に出ていたのかコリンズさんが詳しく教えてくれた。
嬉しくない事に倉庫は生活に困った貧困層が狙う物件第一位とのこと。
貴族のように私兵を雇っていない場合もあるし簡単に食料品が手に入るからだ。
街の警備隊はいるものの、街全体の見周りが主な仕事でアル○ックの様に個人的に護衛を頼むことはできない。
冒険者に頼もうにも腕っ節に自信のある者はなかなか捕まらないし、採算を考えるとよっぽどのものでない限り赤字になる。
また、護衛を依頼できたとしても彼らが欲にくらんで賊と化す場合もあるとのこと。
なのでナストゥール商会の賃貸者は自国から部下や期間契約での信頼できる護衛、契約奴隷などを警備として使うのだそうだ。
ん?
自衛力ならエルモ達がいるんじゃね?
「自衛力さえあれば倉庫を借りられるんですね!」
「……え、えぇ。自衛さえできるのなら大丈夫です。賃料は現物でも構いませんからハヤトさんなら問題ないでしょう?」
砂糖や塩なら倉庫に大量に眠っているわい。
「それなら、エルモ達(うちの護衛)に少し聞いてきますので少し待ってて下さい!」
二人を置いて……じゃなかった、待ってもらい、エルモ達が悪戦苦闘しているであろう発電機(庭)へ走る。
「………ハヤトさんのいる国は相当豊かなんですねぇ」
「……あぁ。一度、視察に行ってみたいところだな」
エルモに敷地外でも大丈夫だと確認をとって(ついでに報酬の上乗せを約束させられて)コリンズさん達の元へ戻る。
「確認を取ったところ大丈夫みたいなので倉庫を貸していただきたい」
よっしゃ、これで真幸商会の倉庫事情が改善されるっ!
「は、早い…ですね」
「えぇ、離れた所と会話が出来る道具……が、…………あります……から…ね」
あっ、やべっ。
この世界に文明の利器が無いの忘れてたよ。
多分大丈夫だよね?
電波が無くてもトランシーバーとか無線とかあるし。
多分魔法でもそういった魔法があると信じてる。
信じてるからね。
というわけでナストゥール商会の保有する倉庫の方へそのまま案内してもらう事になりました。
少し離れにあるとのことで馬車を用意してもらったけど…………乗り心地最悪だね。
座席は木製だし、同じく木製の車輪が小石にかかる度にガタガタ揺れて小さく尻を何度も打ち付ける。
バスや電車みたいに立とうにも車高が中途半端に低くて窮屈な体勢になるし、ブルーヘブンさんからこいつ何やってんだ?って胡乱気な視線を浴びせられた。
転生モノのライトノベル(*東條に参考資料だと数十冊渡された)にサスペンションサスペンションおまけにクッションと書かれている理由がよくわかったよ。
一言言うなら空気とゴムで作られた車輪とアスファルト、これも追加でお願いしたい。
舗装の無い道と研磨されてない石畳、尻へのダメージはあまり変わんないです。
と、尻に甚大なダメージを与えつつようやく到着した倉庫街。
他の建物のない開けた場所、同じような建築物が4棟1組+警備のための小さな小屋が10組程一定の間隔を開けて建てられていた。
防衛のための壁……というよりも区画の為の壁は1m程。
倉庫を狙うのにわざわざ火を放ってくる事はほぼ無いので、視界を確保し人力頼みで捕縛か討伐が基本戦術なんだとか。
「では、中の方へどうぞ」
と案内されるままに倉庫の中へ。
「おぉ~」
広めの民家4軒分位の建物(目算200~250坪くらいかな)に入ると、目に入るのは階段付き出入口の一部屋。
扉の奥は大きな一部屋を2分割にされており壁には木で棚の様に仕切りが施されていた。
「一つの建物がそれぞれ3階建てとなっておりまして造りは同様となっております」
「防衛は基本外でだが、万が一の時はこの部屋に立てこもれるようになっている。逆に突破されても出入り口はここ一カ所だ。ここさえ封鎖すれば逃げられない構造にはなっている」
成る程、部屋の奥は真っ暗だ。
採光や湿気対策エトセトラは契約してからの話だと断られた。
まぁ、何かしらの対策があるのだろう。
「後、契約の方は保管の都合4棟で1セットとなっております。過去に複数の業者が共同賃借でトラブルを起こしたので所有者は1人という制限もありますが……」
狭くて困る事はあっても広くて困る事は無いだろう。
複数の建物があるのなら日本からの商品とシルイットからの商品と別々に保管が出来る。
しかもあまり余人が来ないのなら日本の道具は使いたい放題だし、セキュリティならうちには妖精たちがいる。
問題は賃貸料だが……。
「―――年、如何ほどで借りられますか。手数料・税金・管理費等がかかるならそれも含めてでお願いします」
少し離れて二人が試算する。
「そうですね、管理費込みなら新金貨4枚……プラスして5枚半」
「親父、国への上納税も」
「あぁ、そうか。……6枚…いえ、全て含めて新金貨5枚(30万ジル)になります」
「借ります!」
土地代が安いのは知っていたが今月の収入の1割。
これなら買いだ。
想定した予算ブルーヘブンさんの反応からするとそれなりに割り引いてくれているみたいだし。
支払いは契約時に、か。
まぁ、こちらは『現金』を持っているのでいつでも大丈夫だ。
地獄の馬車で帰還して、店先でもう一度握手して別れる。
双方への売買物も大まかに定まって保管場所も確保。
燃料に関しても珍事件の結果、棚ボタ的に解決した。
多分。
後は運搬が人力頼みなのと帳簿関連かなぁ。
異世界を海外に見立てて発送って事にしたら関税の都合本当に脱税になっちゃうしなぁ。
そんな事を考えながら店内に戻る。
「あっ、ハヤトさん。すみません、こちらにお願いします!」
戻るや否やミスティに引っ張られて個室に放りこまれた。
「お待ちしておりました!」
『おそいですよー、ますたー!』
中にいたのはガルフコーストさんとエルモ。
「どうか……されたのですか?」
物凄く慌てているようだが……何かあったのか?
「申し訳――ほんっとーに申し訳ありません。ハヤトさん」
『ますたー、あなた、なにをしでかしたんですかー!』
二人が同じタイミングでそれぞれの都合をまくしたてる。
「商業ギルド内で止める事ができませんでした。………王様から、一度顔を出してほしいと……勅命が」
『わたしもびっくりしたの。さっきね、いきなりめがみさまがあらわれて、ますたーをよんでほしいって』
「………………………………………………………………………はいっ?」
王様?女神様?
いやいやいやいやいやいやいやいや。




