表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

番外編 独占欲

 席の(あるじ)が教師に呼ばれている間、中畑(なかはた)はその席に座っていた。もちろんそこは他人の席で、今までは大して親しくもなかった相手のである。

 イライラと貧乏ゆすりをしてしまうのを止められず、売店で買ってきた弁当を睨んでいる。

 彼の異変にクラスメイトたちも気づいていた。

 なぜ、あの中畑が、(あき)(しま)の机を占領(せんりょう)しているのか。ムードメーカーの中畑に対して、根暗の秋嶋。対極にいるような二人に、接点など見つけられない。

 昨日なにがあったのか知る由もないクラスメイトは、本人にも聞けず噂話に(きょう)じるしかない。

「おい、中畑。お前の席はあそこだぞ」

 そんな中、声をかけたのは周りの空気が読めない鈍感と評される倉井(くらい)だった。体育会系の彼は、短く刈り上げた黒髪に浅黒い肌をしている。中畑とも仲がよく、暇があれば遊んでいた間柄だ。

「俺はここでいいの。(みつる)を待ってんだから」

 珍しく金髪を一つに束ね、前髪をいじっていた中畑が口を開く。

 クラスは一瞬にしてざわついた。中畑が秋嶋のことを下の名前で呼んだからだ。

「いつ幽霊くんと仲良くなったんだよ」

「おい倉井。俺の大事な人を幽霊呼ばわりとは良い度胸だな」

 鋭い眼光で貫かれた倉井は、さすがに空気を読めたのか謝りながら引き下がった。幽霊とは秋嶋のあだ名のようなもので、すでにクラス中に広まっている。けれど、中畑が幽霊と呼んでいるところを、一度も聞いたことはなかった。遠巻きに見ているクラスメイトとしては、もっと食い下がって聞いてもらいたかったようで、戻ってきた倉井をなじっていた。

 大事な人とはどういうことだろうと、クラス全員の頭の上にクエスチョンマークが見える。解釈は人それぞれで、一部の女子は騒がしくなっていた。

 いろいろな想像がされている教室に、噂の中心にもなっている秋嶋が入ってきた。彼独特の歩き方でいつもうつむき加減だ。長い前髪のせいで表情もよく見えない。いつか何かにぶつかりそうで、クラスメイトが心配していることを本人は知らないだろう。

 そんな秋嶋が、自分の席に座っている中畑に目を留めた。

 さっきまでの不機嫌オーラが嘘のように消え、嬉しさを隠し切れないようにニコニコと笑っている。

「中畑、なんで」

真澄(ますみ)

 机の隣に立った秋嶋の言葉をさえぎり、中畑が自分の下の名前を言う。

「いや、だから」

「ま、す、み」

「でも」

「呼ぶまで答えねぇからな。ほら、読んでみ。ん?」

 秋嶋は周囲を気にしながら、ためらいがちに呟いた。

「……真澄。これでいいんだろ」

 彼の耳は可哀想なくらい真っ赤で、クラスメイトは中畑の強引さに閉口する。

 これではバカップルではないか。クラス全員がツッコミをいれたとき、中畑がクラス中を見回し、ゆうるりと顎を軽く上げて、高慢にも思える笑みを口元に()いた。クラスの考えを肯定するように、(まばた)きをしながら。

 その様子を見ていたクラスメイトは、一瞬にしてかたまる。

なにか、とてつもない独占欲を見せ付けられた気がして、ゾクリと背中が凍りつき二人から視線を外す。

 自分たちは二人の間に割り入ることは、絶対にできないことを思い知らされた。

 そして下手に秋嶋に話しかけることもできない、ということを一瞬のうちに理解してしまう。

 中畑にこんな激情を呼び起こした秋嶋って、本当は何者なのだろう。男だからだとか、性格が暗いからだからとか、そういった偏見(へんけん)抜きに秋嶋に興味を持ち始めていた。

 ぎこちなくクラスメイトたちが動き出す。あるものは自分の席に座って耳をそばだて、あるものは話しかける機会をうかがっている。

 無言の攻防のうちに、二人に話しかけることができたのは、誰一人としていなかった。

 チャイムが鳴ると、中畑は勝ち誇ったようにみんなに笑いかけた。 穏やかに笑っているように見えても、目だけは冷ややかだ。

 こいつは俺の。邪魔すんなよ。邪魔したら……。

 遠回しにそんなメッセージを感じ取り、先を考えるのを恐れた。

 さっきのはマジだった。

 クラスメイトたちは目と目で合図を送り、確認しあう。そして、新たな密約(みつやく)を交わすのだ。

 秋嶋には、手を出さない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ