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桃華伝 ~新伝・桃太郎~(全24話)  作者: 鳳 翔平
第三章 犬・忠義の章
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第八話 旅の武人

第三章 犬・忠義の章


第八話 旅の武人


桃華は山道を歩いていた。


老夫婦の家を出てから数日。


聖剣《桃光》を背負い、ただ一つの名を胸に刻みながら。


――朱天。


鬼神族を率い、天界を襲った神。


必ず見つけ出し、止めなければならない。


そんな思いで歩き続けていると、不意に地面が震えた。


ドォン。

ドォン。


大木を担いだような大男が、山道の向こうから歩いてくる。


肩には巨大な斧。


筋骨隆々の身体。


それでいて、その顔には豪快な笑みが浮かんでいた。


「おお? 旅の娘か。」


男は気さくに笑う。


「こんな山奥で会うとは珍しいのう。」


桃華も一礼する。


「旅の途中です。」


「そうかそうか。」


男は腰を下ろすと、肩から水筒を外し、一息に水をあおった。


「娘子よ。何か食い物を持ってはおらぬか」


あまりに率直な物言いに、桃華は目を瞬いた。


「食べ物、ですか?」


「ああ。急ぎの用で出てきたゆえ、手持ちは兵糧丸ばかりでな」


金時は懐から、黒く固められた小さな丸薬を取り出す。


「これはこれで腹は満たされる。だが、何せ味気がない」


そう言って、豪快に笑った。


「武士は食わねど高楊枝、と申すがな。わしは腹が減っては戦はできんのじゃ」


桃華は思わず口元を緩める。


「それなら、きびだんごがあります」


「ほう。きびだんごか」


差し出したのは、普通の丸い団子ではない。


きびの粉に水飴と餡を練り込み、細長い板のように固めたものだった。旅の途中でも傷みにくいよう、ばあさんが工夫して作ってくれた団子である。


男は一本受け取ると、ためらいなくかじった。


「……む」


噛むほどに、きびの香ばしさと餡の甘みが広がる。


男の目が見開かれた。


「うまい!」


さらに一口。


あっという間に一本を平らげる。


「こいつはただの団子ではないな」


「そうでしょうか」


「間違いない」


男は大きく頷いた。


「このきびだんご、日本一の団子に違いない!」


桃華は思わず笑みをこぼした。


「祖母が作ってくれたものです」


「ほう。よい祖母を持ったな」


男は満足そうに頷いた。


「礼を言う。」


そして立ち上がり、大斧を肩へ担ぐ。


「そういや、まだ名乗っとらなんだ。

 わしは坂田金時。ある武将に仕えておる。」


桃華は驚く。


坂田金時⋯⋯どこかで聞いたような名だった。


「近頃、この辺りでは若い女子がさらわれる事件が相次いでおってな。」


「調べたところ、"しゅてん"という鬼の仕業らしい。」


その名を聞いた瞬間。


桃華の表情が変わる。


「……しゅてん?」


「ああ。」


金時は頷く。


「討伐隊はすでに大江山へ向かっておる。

 わしだけ別な用を仰せつかって、遠方まで出向いておった。今から急いで合流するところじゃ。」


桃華は立ち上がる。


胸が高鳴る。


「実は……。」


静かに口を開く。


「私も、しゅてんという者を追っています。」


金時が目を細めた。


「ほう。」


「もしや、私の探す朱天と同じ者なのか……。」


「確かめさせてください。」


金時は豪快に笑った。


「面白い娘だ、ならば来るがいい。

 鬼退治に向かう道は、一人より二人の方が心強い。」


桃華は力強く頷く。


「よろしくお願いします。」


こうして二人は並んで歩き始める。


一人は、鬼神族を討つために。


一人は、民を守るために。


まだ二人は知らない。


互いの追う"しゅてん"が、同じ名でありながら、全く異なる存在であることを。


そして、


互いの運命が、この日を境に大きく交わることを。

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