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桃華伝 ~新伝・桃太郎~(全三十話)  作者: 鳳 翔平
第五章 鳥・導きの章
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第二十話 鬼ヶ島への道

第五章 鳥・導きの章


第二十話 鬼ヶ島への道


炉の火が静かに揺れていた。


湯呑を口元へ運んだ男は、一口茶をすすり、大きく息をつく。


「よう。」


嵐を思わせる鋭い眼差しが桃華たちを見据えた。


「ずいぶん遅かったじゃねぇか。」


桃華は思わず膝をつく。


素戔嗚(すさのお)様……。」


間違いない、天界でも幾度かお見かけしたことのあるコア様の弟君。


素戔嗚は湯呑を置くと、金時を見て口元を緩めた。


「久しいな。タケの息子。」


金時は苦笑する。


「ご無沙汰しております。」


蜜秋が首をかしげる。


「タケって誰?」


金時が答えようとしたその時、素戔嗚が先に口を開く。


武御雷神(たけみかづちのかみ)。雷を司り、剣を振るう武神だ。

 俺ぁタケって呼んでる。昔からの戦友よ。」


金時は静かに頷く。


「俺の親父殿です。」


一人、状況を理解できずにいた蜜秋が聞く。


「ってことは、このおっちゃんも神なの?」


その一言に、素戔嗚が吹き出す。


「知らんのも無理はない。」


金時は笑いながら答えた。


「太陽神の弟君であり、嵐を司る神、素戔嗚尊(すさのおのみこと)じゃ。」


蜜秋の顔色が変わる。


「えっ?」


蜜秋は慌てて頭を下げた。


「し、失礼しました!」


素戔嗚は豪快に笑う。


「気にすんな。

 神だからって偉ぶる趣味はねぇ。」


そう言うと、真顔になった。


「さて、鳥どもから、おおよその事情は聞いてる。

 だが、当事者から直接聞きてぇ。」


桃華は静かに頷いた。


天界で起きた出来事。


千年の儀。


鬼神族の襲撃。


朱天の裏切り。


要石が砕かれたこと。


天照が重傷を負い、自らを犠牲にして桃華を地上へ逃がしたこと。


そして、朱天が鬼神族を率いていること。


すべてを話し終える頃には、部屋は静まり返っていた。


素戔嗚は腕を組み、目を閉じる。


「……そうか。」


長い沈黙の後、小さく呟く。


「姉上が。」


その声には、弟としての心配が滲んでいた。


「鳥達からの報告とも、概ね一致いたしますな」


鸞駕(らんが)、そして朱鷺(とき)も頷いた。


しかし次の瞬間、素戔嗚のその眼光が鋭くなる。


「だが、おかしいぜ。要石が破られた?

 月読がいながらか。」


桃華は眉をひそめた。


「月読様でも、防げなかったということですか?」


素戔嗚は腕を組んだ。


「そこなんだよ。

 兄貴は黄泉を治める神だ。

 黄泉には牛頭と馬頭を筆頭に、腕の立つ獄卒どもが大勢いる。奴らがみすみす邪を地上へ溢れ出させるとは思えねぇ。」


鸞駕も頷いた。


「儂も同感じゃ。

 鳥たちの報せでも、黄泉そのものが崩壊したという話は届いておらぬ。」


金時が眉をひそめる。


「つまり……。

 何者かが黄泉を押さえ込んでおるのか、あるいは黄泉でも戦が起きておるのか。」


素戔嗚は低く言った。


「どちらにせよ、兄貴が黙って見ているとは思えねぇ。」


部屋に重い空気が流れる。


朱天の裏切りだけではない。


黄泉でも何かが起きている。


そんな予感が、全員の胸をよぎった。


やがて素戔嗚は立ち上がった。


「決めた。」


桃華たちを見る。


「俺は天界へ向かう。」


桃華は驚いた。


「天界へ?」


「ああ。」


「姉上のことは俺に任せろ。

 それと兄貴の様子も見てくる。」

「天界は俺が動かす。」


桃華は思わず立ち上がる。


「では私も!」


「お前には別の役目がある。」


素戔嗚は真っ直ぐ桃華を見た。


「朱天を止めるんだろ。その為に託された聖剣だ。

 それに奴が今、鬼どもを集めているのにもわけがあるはずだ。」


「失礼します」


一礼して入ってきた男が朱鷺に耳打ちをする。


「皆さん、朱天たちの本拠地が分かリました。」


朱鷺が地図を広げた。


「向かうは瀬戸の内海。そこにある女木(めぎ)という島です。」


桃華は地図へ視線を落とす。


「女木島……。」


鸞駕が静かに頷く。


「昔から鬼が棲む島として知られておる。

 島の中央には巨大な洞窟があり、天然の砦となっておるのじゃ。」


金時が腕を組む。


「攻めるには厄介じゃのう。」


鸞駕は続ける。


「古くから瀬戸の漁師たちは、その島を鬼ヶ島と呼んでおるそうじゃ。」


「鬼ヶ島……。」


桃華はその名を静かに繰り返した。


その名を聞いた瞬間、金時の表情が引き締まる。


「鬼の島か。名前からして物騒じゃ」


蜜秋も棍を握り締めた。


「鬼の本拠地……。」


桃華は聖剣の柄へ手を添える。


鬼ヶ島。


そこに朱天がいる。


ついに目指すべき場所が明らかになった。


素戔嗚は鸞駕へ顔を向ける。


「鳥の連中にも頼みがある。」


鸞駕は静かに頷く。


「承知しておるよ。

 すでに各地へ伝令を飛ばしておる、戦える者は集まるだろう」


「よし。」


素戔嗚は豪快に笑った。


「それなら間に合うな。」


桃華は尋ねた。


「何が、ですか?」


素戔嗚は口元に笑みを浮かべる。


「鬼ヶ島へ渡るにも船がいるだろ。

 それにこの戦、お前たちだけで戦わせるつもりはねぇ。応えてくれる奴らが、きっといるさ。」


その言葉に、鸞駕も朱鷺も意味ありげに微笑んだ。


風が砦の窓を吹き抜ける。


鳥たちは一斉に空へ舞い上がり、それぞれの使命を果たすため、四方へ飛び去っていった。

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