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第二話 封印崩壊(改稿版)

第一章 天界


第二話 封印崩壊


百年に一度の封印の儀。


天界の西方にそびえる黒き岩山には、多くの化身たちが集っていた。


その中央には、天地を貫く巨大な《要石》。


黄泉の国へ続く門を封じる、世界の楔である。


その前に立つのは、《鋼》の化身キクニ。


両手には、百日百夜をかけて鍛え上げた聖剣《桃光》。


桃華より託された《桃》の破邪の力が、静かに刀身を巡っていた。


一方、天空の王城では、太陽神コアが玉座に座していた。


封印の儀は、代々《鋼》の化身が執り行う。


太陽神は世界全体へ加護を巡らせるため、玉座を離れることはない。


静かに祈りを捧げながら、コアは目を閉じる。


「願わくば、この百年もまた、昼と夜の均衡が保たれますように……。」


その祈りは、天界全土へと広がっていった。


「始めます。」


キクニが《桃光》を掲げる。


朝日を受けた刃が、淡い桃色に輝いた。


要石へ剣を打ち込もうとした、その瞬間。


ゴゴゴゴゴ……


天地が大きく揺れた。


「……なっ!」


キクニが目を見開く。


聖剣は、まだ要石に触れてすらいない。


それなのに、要石そのものが内側から軋み始めていた。


「そんな馬鹿な……!」


轟音。


次の瞬間、巨大な要石は爆ぜるように砕け散った。


黒い瘴気が噴き上がる。


まるで黄泉そのものが、大きく口を開いたかのようだった。


その闇の中から現れたのは、無数の鬼神族。


角を持つ者。


炎を纏う者。


巨大な武器を担ぐ者。


誰もが恐るべき姿をしていた。


だが、その瞳に宿るものは狂気ではない。


焦燥だった。


「黄泉が崩れる!」


「急げ!」


「王城へ!」


鬼神族は一斉に天界へ駆け出す。


「止まれ!」


神々が武器を構えた。


両者は激しく衝突する。


雷鳴が轟き、炎が空を裂く。


剣と槍が交わるたび、天界はさらに大きく揺れた。


その戦いを見つめながら、桃華は違和感を覚えていた。


鬼神族は、神々を滅ぼすために戦っているようには見えない。


何かに追われるように。


何かを確かめようとするように。


ただひたすら、王城を目指している。


「王城だ!」


誰かが叫んだ。


「太陽神様のもとへ向かっている!」


キクニは聖剣を握り直した。


「桃華!」


「ええ!」


二人は戦場を駆け抜ける。


王城は、すでに炎に包まれていた。


白亜の柱は崩れ、


黄金の天井は焼け落ち、


神々の悲鳴だけが虚しく響いている。


玉座の間へ飛び込んだキクニと桃華は、その場で息を呑んだ。


玉座の前に、太陽神コアが倒れていた。


黄金の衣は血に染まり、その呼吸は浅い。


「コア様!」


桃華が駆け寄る。


かすかにコアの瞼が開いた。


「……桃華……。」


その声は、今にも消え入りそうだった。


「何があったのです!」


キクニが問いかける。


コアは震える手で、玉座の奥を指差した。


そこには一本の剣が落ちていた。


暁の化身・朱天が常に帯びていた剣。


「朱天様の……。」


桃華は言葉を失う。


「朱天が……。」


コアは苦しげに息を吐く。


「封印を……破った……。」


「そんな……。」


誰よりも誠実で、誰よりも責任感の強かった暁の化身。


その朱天が。


「……裏切った。」


沈黙が落ちる。


だが次の瞬間、コアは小さく首を横に振った。


「いや……。」


「違う……。」


桃華が身を乗り出す。


「コア様?」


コアは、自らの胸の傷へ視線を落とした。


深い。


だが、心臓はわずかに外れている。


「あの子は……。」


「私を……殺せなかった……。」


キクニが息を呑む。


「太陽が堕ちれば……。」


「世界は……闇に沈む……。」


「それを……あの子は……知っている……。」


苦しげな呼吸の合間に、コアは微笑んだ。


「誰よりも……。」


「この世界を……愛していた……。」


その言葉を最後に、コアは静かに意識を失う。


「コア様!」


桃華が呼びかける。


返事はない。


だが胸は、かすかに上下していた。


生きている。


しかし、このままでは長くはもたない。


その時、王城全体が大きく揺れた。


外から鬼神族の咆哮が響く。


戦いは、まだ終わっていなかった。


キクニは聖剣を握り締める。


そして静かに言った。


「桃華。」


「ここからが、本当の戦いだ。」

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