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桃華伝 ~新伝・桃太郎~(全24話)  作者: 鳳 翔平
第三章 犬・忠義の章
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第十二話 忠義

第三章 犬・忠義の章


第十二話 忠義


酒呑童子討伐から数日。


大江山には静けさが戻っていた。


囚われていた娘たちは無事に家族のもとへ帰り、都には鬼退治の報せが広まっていた。


山道を下る頼光一行を、村人たちは何度も頭を下げて見送る。


「ありがとうございました!」


「命の恩人です!」


頼光は穏やかに微笑みながら手を上げた。


「礼ならば、この者たちにも。」


頼光の視線が桃華と金時へ向く。


村人たちも二人へ深く頭を下げた。


桃華は少し照れくさそうに笑う。


「私は皆さんと一緒に戦っただけです。」


「それでも十分じゃ。」


金時が豪快に笑った。


「助かった命に大きいも小さいもない。」


     ◇


村外れ。


頼光たちは旅支度を整えていた。


金時は静かに頼光の前へ進み出る。


「頼光様。」


頼光は何も言わず、その続きを待った。


「お願いがございます。」


「申せ。」


「桃華殿の旅へ、お供させていただきとうございます。」


綱たちは苦笑した。


「やっぱり言い出したな。」


「最初からそんな顔をしておった。」


頼光は静かに笑う。


「理由は。」


金時は迷わず答えた。


「恩を返したいのです。

 一飯の恩。

 命を救われた恩。

 そして。

 この娘は、一人で背負うには重すぎる宿命を背負っております。

 わしも、その荷を少しばかり担ぎたい。」


頼光は静かに頷いた。


「金時。

 お前は誰よりも忠義に厚い男だ。

 だからこそ、お前の忠義は私だけのものではない。

 世を救わんとする者へ尽くすこともまた、忠義である。」


金時は深々と頭を下げた。


「ありがたき幸せ。」


頼光は微笑んだ。


「行け。

 そして存分に暴れてこい。」


「はっ!」


     ◇


翌朝。


桃華は山道を歩いていた。


後ろから聞き慣れた大声が響く。


「桃華殿ー!」


振り返る。


大きな荷物を背負った金時が走ってきた。


「待たせたのう!」


「金時さん。」


「頼光様より正式に許しをいただいた!

 これより先、わしも旅の仲間じゃ!」


桃華は自然と笑みを浮かべた。


「ありがとうございます。

 こちらこそ、よろしくお願いします。」


二人は並んで歩き始める。


旅は再び動き出した。


     ◇


昼過ぎ。


峠へ差しかかった頃だった。


「ほっほっほ。」


聞き覚えのある笑い声。


桃華が振り返る。


「あなたは……!」


一本の桃の老木の下。


あの老人が腰を下ろしていた。


「桃の娘よ。

 無事、一つ目の試練は乗り越えたようじゃな。」


桃華は深く頭を下げる。


「ありがとうございました。」


「私は何もしておらぬ。」


老人は笑う。


「歩いたのはお前たちじゃ。」


老人は金時へ目を向けた。


「犬を得た。

 忠義とは、主へ尽くすことだけではない。

 己の信じた道を裏切らぬ心。

 それがお前の忠義じゃ。」


金時は頭を掻く。


「難しいことはよう分からん。

 じゃが。

 桃華殿が困っとるなら助ける。

 それだけじゃ。」


老人は満足そうに頷いた。


「それでよい。」


そして、ゆっくり西の空を見上げる。


夕日が山々を赤く染め始めていた。


「次は。」


老人は静かに言う。


「落陽を追うことじゃ。」


「落陽……?」


桃華が聞き返す。


「陽は西へ沈む。

 その先に、新たな出会いが待っておろう。

 それ以上は……。」


老人は微笑んだ。


「旅をする楽しみが無くなる。」


風が吹く。


桃の花びらが舞い上がる。


気付けば老人の姿は消えていた。


そこには一本の桃の老木だけが立っている。


「相変わらず不思議な爺様じゃのう。」


金時が笑った。


「でも。」


桃華は西の空を見つめる。


「行ってみましょう。」


「うむ!」


二人は夕日に向かって歩き出した。


     ◇


――その頃。


とある宿場町。


「スリだ!」


「誰か捕まえてくれ!」


男の叫び声が町中へ響く。


一人の男が人混みをかき分けて逃げていく。


「どけ!どけ!」


その進路に、一人の旅装束の少女が立っていた。


少女は慌てる様子もなく、肩へ担いでいた棍をすっと地面へ差し出す。


「うわっ!」


スリは足を引っ掛け、そのまま勢いよく転んだ。


懐から財布がいくつも飛び出す。


少女はそれを拾い上げ、持ち主へ返した。


「おっさん。

 スリはいけないよ。」


町人たちは一斉にスリを取り押さえた。


「嬢ちゃん、助かった!

 旅人かい?」


少女は棍を肩へ担ぎ直し、にこりと笑う。


「ああ。ちょっと探しものをしててね。」


「探しもの?」


「そう。」


少女は夕日に照らされた西の山を見つめる。


「あんた、この辺で一本角の鬼が人を騙してるって話、聞いたことないかい?」


町人たちは顔を見合わせる。


「……そういや、最近そんな噂を聞いたな。」


少女は満足そうに笑う。


「やっぱり、この辺で間違いなさそうだ。」


棍を肩に担ぎ、ゆっくりと歩き出す旅人。


その小さな背中を、夕日が長く照らしていた。

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