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『幼馴染が連続殺人犯かもしれない』  作者: asnt2026


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第8話 聞けば分かると思っていた

翌日の昼休み。


ひかりは透を屋上へ呼び出した。


正確には屋上へ続く階段の踊り場だった。


屋上そのものは施錠されている。生徒があまり来ない場所で、窓から差す昼の光だけがコンクリートの床へ四角く落ちていた。


「何」


透が聞く。


「話したい」


「ここで?」


「教室だと聞かれるでしょ」


「聞かれたくない話?」


「そう」


透の顔が少しだけ変わった。


ひかりはそれを見逃さなかった。


昔なら気にしなかった程度の変化。


眉がわずかに寄る。


視線が一度横へ逃げる。


今は、そういうところまで目につく。


嫌だった。


「奈緒のこと」


ひかりが言う。


透は黙った。


「昨日、調べてるって言ったよね」


「言った」


「何を調べてるの」


「まだ分からない」


「だから、それって答えになってない」


「分からないものを分かるようには言えない」


「そうじゃなくて」


ひかりは言葉を探した。


透はこういう時、言葉の形だけを拾う。


意味の隙間へ入ってこない。


昔からそうだった。


だから今まで、こちらが勝手に補ってきた。


今日はそれをしたくなかった。


「奥村君が死ぬ前に言ってたの」


透の目が動く。


「二年前のことを調べてる人がいるって」


数秒。


透は何も言わない。


その沈黙だけで、ひかりの喉の奥が少し乾いた。


「それ、透なの?」


「違う」


答えは早かった。


ひかりは一瞬、肩から力が抜ける。


でも透は続けた。


「少なくとも、奥村が言ってた時点では」


「どういう意味?」


「俺が調べ始めたのは奥村が死んでからだから」


ひかりは透を見る。


言っていることは筋が通っている。


「じゃあ、何で調べ始めたの」


「奥村が奈緒の話をしてたから」


「それだけ?」


透は答えなかった。


まただ。


ひかりの指先に力が入る。


「それだけじゃないんでしょ」


「まだ言えない」


「どうして」


「確認できてないから」


「確認できてなくても言えばいいじゃん」


「言って違ってたら?」


「何が?」


「だから、それがまだ分かんないんだよ」


透の声も少しだけ強くなった。


階段の下から誰かの笑い声が聞こえ、近づいてきたと思ったら別の廊下へ消えていく。


踊り場には二人だけ残った。


窓から入る空気は暖かいのに、手すりは冷たかった。どこかで消毒用アルコールを使ったのか、薄い薬品の匂いが漂っている。


ひかりは手すりへ触れた。


冷たさが指に残る。


「私には話せないってこと?」


透が顔を上げる。


「そういう意味じゃない」


「じゃあどういう意味」


「巻き込みたくない」


その言葉が、思っていたより深く入った。


ひかりは一度まばたきをする。


「もう巻き込まれてるよ」


透の顔が固まった。


「奥村君と最後に会ってたの私だよ。警察にも話聞かれてる。奈緒から何か聞いてなかったかって奥村君にも聞かれた」


透の目が細くなる。


「何か聞いてた?」


しまったと思った。


でも遅い。


「少しだけ」


「何を」


「匿名のアカウントのことで困ってるって」


「それだけ?」


透の聞き方。


昨日までのひかりなら気にしなかった。


今日は、確かめられている気がした。


「それだけ」


今度は本当だった。


ただ全部ではない。


透は黙る。


ひかりはその沈黙を見ていた。


「透」


「何」


「私のこと疑ってる?」


透の眉がわずかに動いた。


「何を」


「何か」


「何かって何」


「それが分かんないから聞いてる」


二人とも同じことを言っている。


そこに気づいた瞬間、急に疲れた。


ひかりは息を吐いた。


「もういい」


「ひかり」


「授業始まる」


階段を下りる。


背中に透の視線を感じた。


呼び止めてほしいと思った。


同時に、今は何も言わないでほしかった。


自分でも分からない。


二階まで下りたところで、透が追いついた。


「ひかり」


振り返る。


透は何か言おうとしていた。


でも結局、


「今日、一緒に帰る?」


と言った。


ひかりは少しだけ笑った。


こんな時まで。


こんな時だからかもしれない。


「帰る」


それだけ答えた。


放課後は文化祭の準備だった。


教室の窓は開け放たれ、段ボールと絵の具の匂いが混ざっている。西日が机の脚を長く伸ばし、廊下からは別のクラスが材木を運ぶ音が響いていた。


ひかりは模造紙へ文字を書いていた。


透は窓際で壊れたスピーカーを触っている。


お化け屋敷用。


結局そうなった。


「直る?」


クラスメイトが聞く。


「たぶん」


透が答える。


「たぶんとか言うんだ」


「直るまで分かんないから」


ひかりは手を止めた。


同じだ。


確認できるまで言わない。


分かるまで話さない。


透は昔からそうだった。


壊れた機械なら、それでいい。


人間のことまで同じやり方で調べるつもりなのだろうか。


考えすぎ。


ひかりは筆を置いた。


透が顔を上げる。


目が合う。


一瞬だけ。


透はすぐスピーカーへ戻った。


ひかりも作業へ戻る。


その数秒が、昔より長く感じた。


聞けば分かると思っていた。


でも聞いても分からないことがある。


その事実だけが、その日の帰り道まで残った。



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