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『幼馴染が連続殺人犯かもしれない』  作者: asnt2026


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第5話 残っていたもの

その日の帰り道、二人はいつもよりゆっくり歩いた。


どちらが速度を落としているのか分からない。


駅へ向かう学生の列から外れ、住宅街へ入る頃には西日が家々の壁を赤く染めていた。昼間より風が強く、どこかで剪定された葉の青臭い匂いが漂っている。電線の影が道路を斜めに横切り、その上を二人の靴が交互に踏んでいった。


「警察、何聞いた?」


透がようやく言った。


「昨日のこと」


「奥村と何話したか?」


「うん」


ひかりはそこで口を閉じた。


透は横を見ない。


前を向いたまま、


「昨日、昔の中学の話って言ってたよな」


「言った」


「宮前のこと?」


ひかりの足がほんの少し遅れた。


「警察に聞いた?」


「先生が名前出してた」


嘘ではなさそうだった。


透は続ける。


「奥村、なんで今さら宮前の話を?」


ひかりは答えを知っている。


二年前を調べている誰かがいる。


奈緒が自分に話したと言っていた。


何か預かっていないか。


そこまで言えばいい。


もう奥村は死んでいる。


大庭にも話した。


なら透にも話していいはずだった。


それでも、


「私にもよく分かんない」


という言葉が先に出た。


透の靴音が一度止まる。


ひかりも止まった。


夕日が透の顔の半分だけを照らしている。


「分かんない?」


「奥村君、変だったから」


「変って?」


聞かれるたび、答えが狭くなる。


昨日の自分と同じだった。


約束を守りたいのか。


透に知られたくないのか。


自分でも線が分からなくなってきた。


「怖がってるみたいだった」


「何を?」


「分かんない」


透は少しだけ眉を寄せた。


それ以上聞かなかった。


まただ。


ひかりは鞄の紐を握り直す。


聞いてほしいわけではない。


でも諦められると、少しだけ置いていかれたような気がする。


「透」


「何」


「何でもない」


自分で言っておいて、馬鹿みたいだった。


透は一度こちらを見て、また歩き出した。


夜。


透は机の前に座っていた。


教科書は開いたまま。


数学の問題集も出してある。


けれど十五分ほど同じページから動いていない。


奥村。


宮前奈緒。


ひかり。


三つの名前が頭の中で近づいたり離れたりする。


ひかりが何かを隠していることは分かる。


何を隠しているのかは分からない。


透は机の引き出しを開けた。


中には細いドライバー。


半田ごての替え。


使わなくなったイヤホン。


小さな基板。


USBケーブル。


昔から壊れた物を捨てるのが苦手だった。


直るかもしれないと思う。


直らなければ、それはそれでなぜ壊れたのか知りたくなる。


引き出しの奥に、小さな透明ケースがある。


透は手を止めた。


何年も開けていない。


正確には二年。


ケースの中には古いICレコーダーが入っていた。


黒いプラスチックの筐体。


右上に小さな傷。


宮前奈緒の物だ。


透は椅子へ深く座り直した。


奈緒がこれを持ってきたのは、死ぬ少し前だった。


「野崎って、こういうの直せる?」


放課後の技術室。


奈緒はそれほど親しい相手ではなかった。


同じ学年。


クラスは違う。


ただ透が壊れたイヤホンやゲーム機を直していることを知っていたらしい。


電源が落ちる。


録音すると途中で止まる。


そんな症状だった。


透は一度分解し、接触の悪い部分を直した。


中の録音を聞く理由はなかった。


動作確認用に新しく数秒録音し、それが再生できることだけ確認して返した。


奈緒は、


「助かった」


と言って持って帰った。


その後、死んだ。


しばらくして奈緒の母親が家へ来た。


母親同士も顔見知りだった。


遺品整理の途中、


「これ、透君が直してくれた物みたいで」


とレコーダーを持ってきた。


奈緒が使っていたものを全部処分する気にはなれない。


けれど自分では中を見るのもつらい。


そんな話をしていた。


透は受け取った。


ただ、それきり触らなかった。


死んだ人の声が残っているかもしれない物を、勝手に再生していいのか分からなかったからだ。


そして二年。


奥村が死ぬまで忘れていた。


いや。


忘れていたというより、見ない場所へ置いていた。


透はレコーダーを手に取った。


軽い。


こんなに軽かっただろうか。


電源ボタンを押す。


反応しない。


電池を替える。


液晶が一瞬だけ薄く光り、消えた。


透は息を吐いた。


「また壊れてるじゃん」


誰に言うでもなく呟く。


その声だけが部屋へ落ちる。


窓の外は暗い。


隣のひかりの部屋には灯りがついていた。


カーテンは閉まっている。


透は少し考え、机の上へ工具を並べた。


奥村がひかりに聞いた。


奈緒のこと。


ひかりは何かを隠している。


そして奈緒が使っていた機械が今、自分の手元にある。


偶然に見える。


そう思った瞬間、透は手を止めた。


偶然だからこそ、勝手に意味を付けるのは危ない。


そんなことは分かっている。


でも、開けずにはいられなかった。


小さなネジを外す。


一本。


二本。


ケースを浮かせると、古い電子部品の乾いた匂いがした。


基板の一部が白く曇っている。


以前直した場所とは違う。


水分が入った跡。


透はライトを近づける。


データメモリそのものが無事かどうかは分からない。


もし壊れていたら、それで終わり。


もし残っていたら。


何が。


そこまで考えて、透は一度ドライバーを置いた。


スマートフォンを取る。


ひかりとの画面を開く。


《宮前から何か預かってた?》


打つ。


しばらく見る。


消した。


代わりに、


《明日数学の追試らしい》


と送る。


すぐ返事。


《私関係ない》


《点数危なかったろ》


《危なくない》


《72》


《覚えてるの気持ち悪い》


透は少し笑った。


それから机の上のICレコーダーを見る。


笑いはすぐ消えた。


もし何か残っていたとしても。


ひかりに言うのは、確認してからでいい。


その判断が正しいと思った。


少なくとも、その時は。



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