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『幼馴染が連続殺人犯かもしれない』  作者: asnt2026


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第27話 忘れて

丹羽朱音を誘ったのは、その日の放課後だった。


「話ある」


ひかりが言うと、朱音は鞄を肩へ掛けながら、


「告白なら野崎にして」


と答えた。


「なんでそうなるの」


「最近のひかり、野崎のことで頭いっぱいじゃん」


「違うから」


「その否定もう聞き飽きた」


いつもの朱音。


少しだけ口が悪い。


それが今はありがたかった。


二人は学校近くの小さな公園へ向かった。


陽はもう低く、ブランコの鎖が風で細く揺れている。昼間に子どもが遊んでいたらしく、砂場には小さな靴跡が残っていた。冷えた土と枯れ草の匂いが漂い、ベンチへ座ると金属の冷たさが制服越しにも伝わってきた。


「坂東君のこと」


ひかりが言った。


朱音の顔から、さっきまでの軽さが消えた。


「聞いた」


「三人とも、奈緒と同じクラスだった」


朱音はひかりを見ない。


「そうだね」


「朱音も」


「うん」


「LIE BOXって覚えてる?」


ブランコの鎖がもう一度鳴った。


朱音の指が鞄の持ち手を握る。


「急に何」


「戸塚君から聞いた」


「戸塚?」


「被害に遭ったって」


朱音は息を吐いた。


白くはならない。


でも冷たそうだった。


「知ってる?」


ひかりが聞く。


「噂は」


「運営してた人」


「知らない」


答えが早い。


それだけで決めつけてはいけない。


大庭の言葉を思い出す。


本当のことを言っていても、全部を話しているとは限らない。


「奥村君と梶原さんと坂東君」


ひかりが名前を並べる。


朱音の視線がようやくこちらを向いた。


「戸塚君は三人だと思ってた。でも、四人だったかもしれない」


朱音の表情が止まった。


ほんの一瞬。


「誰が言ったの」


「奈緒のICレコーダーに四人って音が残ってる」


言ってから、透の物ではなく今は警察が持っていると付け加える。


朱音は何も言わない。


「朱音」


「何」


「あの頃のクラスLINEとか残ってない?」


朱音が眉を寄せた。


「何で」


「誰か四人目のこと話してなかったか見たい」


「警察に任せれば?」


「警察も調べてる。でも私は」


言葉が止まる。


自分は何がしたい。


奈緒のことを知りたい。


透が何を疑っていたのか確かめたい。


三人がなぜ死んだのか知りたい。


どれも本当だ。


「私、奈緒に相談されてた」


ひかりが言う。


朱音の顔が変わった。


「それ、前から知ってた?」


「少しだけ。匿名アカウントで困ってるって。でも私、明日聞くって言った」


朱音は目を伏せた。


「あの次の日には、もう話せなかった」


口にすると、あの日の廊下の光まで近くなる。


ひかりは膝の上で指を組んだ。


「だから今度は、知らないままにしたくない」


朱音はしばらく黙っていた。


公園の外を自転車が通る。


タイヤが砂を踏む音。


遠くで夕飯を作っているのか、少し焦げた醤油の匂いが風に乗った。


「ひかり」


「何」


「やめなよ」


「何を」


「昔のこと掘るの」


ひかりは朱音を見る。


「三人死んでるのに?」


「だから」


朱音の声が少し強くなった。


「三人も死んだんだから、なおさら近づかない方がいい」


「何か知ってる?」


「知らない」


「本当に?」


「本当」


朱音は立った。


ひかりも顔を上げる。


「スマホ、昔のやつまだある?」


その質問で、朱音の動きが止まった。


「あるけど」


「見せて」


「嫌」


はっきりしていた。


「クラスLINEだけでも」


「嫌」


「どうして」


朱音はひかりを見る。


目の奥に、怒っているのとは少し違うものがあった。


「ひかりには関係ないから」


「奈緒に相談されてた」


「だからって全部背負う必要ない」


「朱音」


「もういいでしょ」


朱音は鞄を肩へ掛け直した。


「二年前のことなんて、今さら何を言っても戻らない」


その言葉に、ひかりの胸の奥が引っ掛かった。


「戻らないから黙ってるの?」


朱音の唇がわずかに動く。


「そういう意味じゃない」


「じゃあどういう意味」


昔、透に何度も言った言葉。


今は朱音へ向けている。


朱音はしばらく黙っていた。


そして、


「あの頃のことは忘れて」


と言った。


ひかりは返事ができなかった。


忘れて。


奥村も最後に同じようなことを言った。


《やっぱり、忘れて》


朱音は一度も振り返らず、公園を出ていった。


ひかりはベンチに座ったまま動けなかった。


忘れられるなら。


奈緒が明日を待ったまま死んだことも。


奥村が何かに怯えていたことも。


芽衣の「三人」という言葉も。


坂東が待ち合わせへ来なかったことも。


全部忘れられるなら、その方が楽なのかもしれない。


でも三人はもう死んだ。


忘れたところで、生き返らない。


ひかりはスマートフォンを取り出した。


透へメッセージを打つ。


《朱音、昔のスマホ持ってる》


少し考え、


《でも見せたくないって》


送る。


透から返信はすぐ来た。


《無理に見るなよ》


ひかりは画面を見た。


前なら、その言葉に反発していたかもしれない。


今は、


《分かってる》


と返した。


それだけで、以前の自分と少し違う気がした。



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