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『幼馴染が連続殺人犯かもしれない』  作者: asnt2026


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第25話 次の意味

戸塚岳は、思っていたより普通の格好で現れた。


制服ではない。


黒いパーカー。


ジーンズ。


髪は中学の頃より短い。


ひかりが先に座っていると、店内を一度見回してから向かいへ来た。


「中原?」


「うん」


岳は座る前に、


「警察いる?」


と聞いた。


ひかりは一瞬迷った。


嘘はつかない。


「この店の中にはいないと思う。でも話すことは伝えてる」


岳は少し口元を歪めた。


「真面目」


「二人死んで、一人いなくなってるから」


「そりゃそうか」


座る。


注文したコーヒーには手を付けない。


店内には揚げたポテトと油の匂いが濃く残っていた。暖房が効きすぎていて頬が少し熱い。窓の外はもう暗く、ガラスには店内の照明と行き交う車のライトが重なっていた。


「坂東に、次はお前って言った?」


ひかりは最初から聞いた。


岳は驚かなかった。


「言った」


「どういう意味?」


「そのまま」


ひかりの指が膝の上で動く。


岳がその様子を見て、


「殺すって意味じゃねえよ」


と言った。


「じゃあ何」


岳はコーヒーの蓋を指で押した。


「晒すって意味」


「晒す?」


「LIE BOX」


その名前を聞くのは初めてだった。


「何それ」


岳の目が細くなる。


「知らねえの?」


「知らない」


「宮前から聞いてない?」


胸が一度強く鳴る。


「匿名のアカウントのことは少しだけ」


「それ」


岳は椅子へ深く座った。


「中学ん時あっただろ。誰が誰好きとか、家がどうとか、親が離婚したとか、万引きしたとか、そういうの匿名で送られてきて勝手に載せるアカウント」


ひかりは記憶を探る。


噂はあった。


誰かの秘密が突然広がる。


スクリーンショットが回る。


教師が注意したこともある。


ひかり自身はほとんど見ていなかった。


「それがLIE BOX?」


「名前だけはな。やってる奴らは別のつもりだったのかもしれねえけど」


岳は笑わなかった。


「俺も載せられた」


ひかりは黙る。


「何を」


「家のこと」


岳の指が止まる。


「親父が借金作って逃げて、母親が夜まで働いてた。そんなもん学校の奴らに関係ねえだろ」


声は平らだった。


だからこそ、ひかりは何も挟めなかった。


「それだけじゃない。母親が男作ってるとか、俺が金盗んだとか、勝手に話足されてた」


「嘘?」


「半分はな。半分本当だと、全部本当に見える」


その言葉が残った。


半分本当。


透のファイル。


奥村と会った。


梶原とも会った。


全部事実。


だからこそ、その先まで本当のように見えてしまう。


「奈緒は?」


ひかりが聞く。


岳の目が少し動く。


「止めようとしてた」


「知ってたの?」


「一回話した」


初めて出てきた繋がりだった。


「何を」


「俺が犯人探してた時、あいつも同じことしてた」


岳はコーヒーを一口飲む。


「宮前は、正義感強すぎ」


言い方に棘はない。


むしろ少し呆れたような響き。


「証拠揃えば先生が何とかするって本気で思ってた」


「先生?」


「橋爪」


知らない名前ではない。


中学時代の教師。


ひかりも授業を受けたことがある。


「奈緒、先生に相談したの?」


「してたはず」


ひかりの頭に、あの日の奈緒が浮かぶ。


匿名のアカウントで困ってる。


また今度。


そこまでしか知らなかった。


「奥村君たちがやってたの?」


聞く。


岳はひかりを見る。


「そこまで知ってんの?」


「梶原さんが、私たち三人って」


岳は鼻から息を吐いた。


「じゃあ大体合ってるんじゃね」


「坂東君も?」


「俺が掴んでたのは奥村と坂東。梶原は後で知った」


「三人?」


岳は少し考えた。


「俺は三人だと思ってた」


ICレコーダーの「四人」という言葉を、ひかりは知らない。


ただ、透のファイルには、


《四人》


と書いてあった。


その文字が頭に浮かぶ。


「戸塚君」


「何」


「四人じゃないの?」


岳の指が止まった。


「何でそう思う」


しまった。


ひかりは答えに迷う。


透のファイルを見た。


それを今ここで言うべきか。


「透が調べてた資料に」


最後まで言った。


岳の眉が上がる。


「野崎の?」


「勝手に見た」


自分の口から言うと、思っていた以上に嫌な行動に聞こえた。


岳は一瞬黙り、


「幼馴染って、そんなことすんだ」


と言った。


ひかりの胸に刺さる。


「普通はしない」


「だろうな」


岳はそれ以上責めなかった。


「四人ってのは知らねえ。俺が追ってた時は、三人だった」


「じゃあ『次はお前』って」


「奥村が死んだ後、坂東見かけたから言ったんだよ」


岳の声が少し低くなる。


「奥村が死んだからって、昔のことまでなかったことになると思うな。梶原も坂東も、俺は名前出すつもりだった」


「どこに?」


「ネットじゃねえよ」


少し強く言う。


「俺、匿名でやり返すの一番嫌いだから」


ひかりは顔を上げる。


「学校とか、今の友達とか、親とか。本人の前で全部言うつもりだった」


「それで、次はお前」


「そういう意味」


岳は肩を竦める。


「脅しっぽく言ったのは認める」


ひかりは黙った。


殺人予告ではない。


少なくとも本人の説明では。


「奥村君や梶原さんが死んだことは?」


「別に悲しくない」


ひかりは岳を見る。


「でも殺してない」


岳はまっすぐ言った。


「死んでほしいって思ったことはある。でも実際死んだら、何も返ってこないじゃん」


「返ってくる?」


「認めさせたかった」


岳の目がコーヒーへ落ちる。


「俺にやったことを。面白半分でしたって。悪かったって。そう言わせたかっただけ」


その言葉には、綺麗に整理できないものが残っていた。


許すとも言っていない。


死を悼んでもいない。


それでも殺したいとは違う。


ひかりは少しずつ、それが分かる気がした。


「坂東君、今いなくなってる」


「聞いた」


「心当たりない?」


岳は首を振った。


「ない」


「連絡は?」


「奥村死んだ日に一回。そこからしてない」


「警察には?」


「もう話した」


ひかりは少し驚いた。


「いつ」


「今日」


大庭はすでに岳へ接触していた。


また警察の方が先に進んでいる。


それでいい。


むしろ、それが普通だ。


「中原」


岳が言った。


「何」


「野崎のこと疑ってんの?」


質問が突然だった。


ひかりは返事ができない。


岳はその顔を見て、


「分かりやす」


と呟いた。


「違う」


反射的に否定する。


でも続きが出ない。


「違わないんだろ」


「違うっていうか」


「好きなの?」


今度こそ言葉が止まった。


「なんでそうなるの」


「知らねえけど、疑ってる奴の話する顔じゃないから」


ひかりは視線を逸らした。


窓の外を車が通る。


ヘッドライトが一瞬、岳の横顔を白く照らした。


「幼馴染だから」


口から出た。


岳は、


「便利だな、それ」


と言った。


透にも似たことを言われた気がした。


「何が」


「何でも幼馴染で済ませられる」


ひかりは返せなかった。


岳は立ち上がる。


「もういい?」


「うん」


「坂東見つかったら、俺にも言えって警察に言っといて」


「自分で言えば」


「それもそうだな」


初めて少しだけ笑った。


ひかりも口元を緩めた。


店を出る。


外の空気は冷たく、暖房で火照っていた頬が一気に冷えた。道路沿いには濡れた落ち葉が貼りつき、少し先のラーメン屋から湯気と醤油の匂いが流れてくる。


ひかりは大庭へ連絡した。


岳から聞いた内容を伝える。


LIE BOX。


三人。


奈緒。


橋爪。


そして「次はお前」の意味。


『分かった』


大庭が言う。


『戸塚君の説明とこちらで確認している内容は、大筋では合ってる』


「じゃあ戸塚君は」


『まだ誰も完全に外さない。ただ、言葉だけで彼を犯人とは見てない』


「はい」


通話を切る。


スマートフォンを見る。


透から一件。


《終わった?》


昨日までなら、その四文字にも別の意味を探したかもしれない。


今は少しだけ違った。


《終わった》


送る。


すぐ既読。


《帰る?》


ひかりは画面を見た。


一度息を吐く。


《一緒に》


送信した。


駅へ向かう。


透を疑う理由は消えていない。


自分が疑われていることも消えていない。


それでも一人で帰るより、隣にいてほしいと思った。


矛盾している。


でも今は、それを無理に一つへ決めなくてもいい気がした。

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