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『幼馴染が連続殺人犯かもしれない』  作者: asnt2026


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第14話 同じところを見ている

梶原芽衣からメッセージが届いたのは、その日の夜だった。


透は机に向かっていた。


黒いファイルを開き、ICレコーダーから聞き取った言葉と、芽衣から教えられた坂東の情報を並べている。


録音は増えない。


何度再生しても同じだった。


奥村。


梶原。


四人。


女の声。


聞くたび何か新しいものが出てくるわけではない。


ただ知っていることが増えると、同じ声の聞こえ方だけが少し変わる。


スマートフォンが震えた。


梶原芽衣。


透はすぐ画面を開いた。


《中原さんまで来たんだけど》


眉が寄る。


もう一通。


《あなたたち何なの》


透はメッセージを二度読んだ。


ひかり。


梶原に会った。


今日。


駅で用事。


透は椅子の背へ体を預けた。


数時間前のやり取りがそのまま頭へ戻る。


《今どこ》


《駅》


《何してんの》


《用事》


あれが梶原だった。


指先がスマートフォンの角へ当たる。


どうして。


その疑問が最初だった。


その次に、


どこまで知っている。


が続いた。


透は返信する。


《何を聞かれた?》


少しして、


《野崎くんから何聞かれたか》


《他には》


既読。


返ってこない。


一分ほどして、


《宮前のこと》


また止まる。


《何て答えた》


今度は長かった。


透は机の上のファイルを見る。


ひかりの名前。


奥村との接触。


奈緒から匿名アカウントの相談を受けたという話。


昨日、ひかりは梶原の名前を知っていた。


付箋で見たと言った。


開いてはいないと言った。


透はそこまで考え、自分の頭の中に生まれた続きを止めた。


決めつけるな。


ひかりが梶原へ行った理由はいくらでもある。


奥村が奈緒について話した。


透が梶原と坂東を調べていることも知った。


気になるのは当然だ。


だったら、なぜ言わなかった。


そこへ思考が戻る。


スマートフォンが震えた。


《もう私たちに関わらないでって言った》


透の指が止まる。


私たち。


昨夜までは、


《私じゃなくて坂東に聞いて》


だった。


今は、


私たち。


透は打つ。


《私たちって誰》


既読。


返事は来なかった。


翌朝。


ひかりはいつもの時間に家を出てきた。


透は門の前で待っていた。


「今日待ってたの?」


ひかりが聞く。


「時間同じだから」


「それ、便利な言い方だね」


何となく聞いたことのある言い方だった。


二人で歩き出す。


空は青い。


昨夜より気温が下がり、吐く息が白くなるほどではないが、手をポケットへ入れたくなるくらいには冷えていた。道路脇の金木犀は香りが薄くなり、代わりに乾いた落ち葉が風に擦れる音がした。


透は横目でひかりを見る。


言うか。


昨日、梶原に会った?


それだけなら簡単だ。


聞けばいい。


けれどその後、


どうして。


何を聞いた。


なぜ黙っていた。


質問が続く。


それをした瞬間、自分がひかりを調べているのと同じになる気がした。


すでに同じようなことをしている。


事件の時系列へひかりの行動を書いた。


本人にも話さず。


「昨日」


透が言った。


ひかりが見る。


「何」


一瞬だけ。


透は続けられなかった。


「いや」


「何それ」


「忘れた」


「絶対嘘」


ひかりが少し笑う。


透も口元だけ動かした。


こんなことをしている場合ではない。


頭では分かっている。


それでも二人の間にあるものを言葉にしたら、もう元へ戻せない気がした。


学校へ着く。


午前中は普通に授業。


昼休み。


文化祭の準備。


誰かが教室の前で黒い布を吊り、別の誰かが段ボールへペンキを塗っている。開いた窓から少し冷たい風が入り、接着剤と絵の具の匂いを薄めていた。


「透、これ持って」


ひかりが段ボールの壁を押さえる。


透が反対側を持つ。


「もっと右」


「そっちが左寄ってる」


「私から見て右」


「俺から見て左」


「分かるでしょ普通」


「最初からそう言え」


二人で少しずつ動かす。


段ボール越しにひかりの指先だけが見える。


透は一瞬、その指を見る。


昨日、その手で梶原へメッセージを送ったのか。


そんなことを考えた自分が嫌になった。


「そこ」


ひかりが言う。


「もうちょい」


「ここ?」


「うん」


段ボールを固定する。


近くにいたクラスメイトが、


「お前ら結局一番息合ってんじゃん」


と笑った。


ひかりがすぐ、


「幼馴染だから」


と言った。


透も、


「長いだけ」


と返した。


二人の声はほとんど重なった。


周りが笑う。


透も笑った。


ひかりも。


でも互いに目は合わせなかった。


幼馴染だから。


昔から使ってきた言葉。


今までは近さを説明するためのものだった。


今日は、何も知らないことをごまかす言葉に聞こえた。


放課後。


ひかりが先に教室を出る。


透は窓際からその背中を見た。


追う理由はない。


昨日、梶原へ会っただけ。


それ以上は何もない。


なのに視線が離れない。


スマートフォンを開く。


梶原とのトーク画面。


最後のメッセージ。


《もう私たちに関わらないで》


透は画面を閉じた。


その時、初めて別の考えが形になった。


ひかりは、自分が知らない何かをもう知っているのではないか。


その何かを確かめるために梶原へ会った。


もしそうなら。


透はそこから先を考えなかった。


考えたくなかった。


ただ一つだけ、頭から離れない。


ひかりは何を知っている。



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