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『幼馴染が連続殺人犯かもしれない』  作者: asnt2026


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第12話 違うと言ってほしい

翌朝、ひかりは透より先に家を出た。


珍しいことだった。


いつもなら時間が合えば何となく一緒になる。


今日は玄関を閉めた後、隣の家を見なかった。


空気はひんやりしていた。道路脇の植え込みには夜露が残り、朝日が当たるたび細い光を返している。どこかの家からトーストの焦げる匂いが流れ、曲がり角では登校する中学生が眠そうな顔で自転車を押していた。


普通の朝。


昨日、自分が透のファイルを勝手に開いたことだけが普通ではない。


スマートフォンを取り出す。


検索画面には昨夜見つけた梶原芽衣のSNS。


透のファイルに書かれていた学校名と一致している。


鍵のかかっていない古い投稿に顔写真。


卒業アルバムで見た顔より少し大人びている。


連絡する。


そこまで決めたのは昨夜だった。


目的は一つ。


透が梶原に何を聞いたのか知る。


それが分かれば、あのファイルの意味も分かるかもしれない。


ひかりはメッセージ欄を開いた。


《突然すみません。中原ひかりです》


打つ。


少し待つ。


続ける。


《宮前奈緒と同じ中学だった中原です。野崎透から何か聞かれませんでしたか》


読み返す。


名前を出していいのか。


透には許可を取っていない。


けれどもうファイルを勝手に見ている。


今さらそこで止まるのも、何か違う気がした。


送信。


画面を閉じた。


胸の奥に細い重さが残る。


違うと知りたいだけ。


透が危ないことをしていない。


奥村の死と関係がない。


あの資料も、ただ調べているだけ。


それを確認したい。


ひかりは何度もそう考えた。


同じ言葉を繰り返すほど、言い訳に近づいていく気がした。


教室へ入ると、透はもう来ていた。


「早いな」


ひかりを見るなり言った。


「たまには」


「待ってたら来なかった」


「待ってたの?」


透が一瞬黙る。


「時間一緒だから」


「そう」


鞄を机へ置く。


それだけなのに、顔を見づらい。


「昨日、ちゃんと勉強した?」


透が聞く。


「したよ」


「嘘」


「した」


「最後二十分、ほぼ止まってた」


ひかりの手がわずかに止まった。


見てたんだ。


その言葉が最初に浮かんだ。


すぐ違うと思う。


一緒に勉強していたのだから当然だ。


普通の言葉が、昨日見た記録のせいで別の意味に聞こえる。


「透って、人のことよく見てるよね」


ひかりが言った。


「急に何」


「別に」


透が眉を寄せる。


「今日変だぞ」


「透に言われたくない」


チャイムが鳴った。


助かったと思った自分に気づいた。


昼休み。


スマートフォンが震えた。


梶原芽衣。


返信が来ていた。


《中原さん?》


ひかりは窓際へ移動する。


《そうです》


すぐには返ってこない。


一分。


二分。


《野崎くんと仲いい人だよね》


指が止まる。


どうしてそこを確認するのだろう。


《幼馴染です》


送る。


また少し待つ。


《何が聞きたいの》


ひかりは短く息を吐いた。


《透から何を聞かれたのか知りたいです》


既読。


返事が来ない。


窓の外では校庭の端を運動部の生徒が走っていた。昼の日差しは少し強く、窓ガラスの近くにいると頬だけが暖かい。教室からパンや弁当の匂いが流れてきて、誰かの笑い声が途切れず続いている。


五分ほどして画面が光った。


《宮前奈緒のこと》


ひかりは唇を結んだ。


透が言っていたことと一致する。


《それだけ?》


《あと坂東》


《どうして坂東君?》


しばらく返事がない。


《私が言ったから》


ひかりは画面を見た。


透が勝手に坂東へ辿り着いたわけではない。


芽衣が名前を出した。


黒いファイルに書いてあった通りだ。


一つずつ確認するたび、透の説明が正しかったことが増えていく。


それなのに胸の重さは減らなかった。


《会って話せませんか》


送る。


すぐに、


《無理》


と返ってきた。


ひかりはもう一度打つ。


《透を疑ってるわけじゃないです。むしろ違うって確認したくて》


送ってから、自分でその文章を見た。


違うって。


何が違う。


書いた自分が一番分かっている。


数分後。


《明日なら少しだけ》


場所が送られてきた。


芽衣の学校から少し離れた駅前。


ひかりは画面を閉じる。


「誰?」


すぐ横から声がして肩が跳ねた。


透がいた。


「びっくりした」


「そんな驚く?」


「急に後ろ立つから」


「立ってない。普通に来た」


透の視線がスマートフォンへ落ちる。


ひかりは反射的に画面を伏せた。


その動きを透も見た。


一秒。


何も言わない。


「購買行くけど」


透が言う。


「何かいる?」


「ミルクティー」


「また?」


「好きだから」


透は頷き、歩いていく。


その背中を見ながら、ひかりはスマートフォンを握った。


今の動き。


隠した。


自分から。


秘密にした。


透が何かを隠すことに腹を立てたばかりなのに。


ひかりは机へ額を付けたくなった。


でも顔を上げたまま待った。


数分後、透は何も聞かずにミルクティーを一本置いた。


いつもと同じように。



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