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灰色の聖域 —神が捨てた十万年の遺産—  作者: ネギ玉(仮)
第3章:枢機教団ソラリス — 盲信という名の檻

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第1節:地下に鳴る歯車と偽りの光

神の慈悲は、静寂の中にあるのではない。

 それは、重苦しく響き渡る木の歯車の軋みと、人々の荒い吐息の中に宿っている――少なくとも、私はそう教えられてきた。


大聖堂の地下深く、冷たく湿った石造りの広間が私の仕事場だ。


「……エリナ様。もう、足が動きません……」


 青白い顔をした若い巡礼者の少年が、巨大な発電機の木枠に縋り付いたまま崩れ落ちた。

 私は急いで彼に駆け寄り、痩せ細った肩を抱きかかえる。


「無理をしないで。神様はあなたの献身を、この光を通じて見ておいでです」


私は腰に下げた、教団の至宝『聖光の瞳』を掲げた。

 かつての文明が遺したという、透明な滴のような形をした小さな石。

 私がその側面のスイッチを優しくなぞれば、それは太陽の欠片を閉じ込めたかのような、透き通った白い光を放つ。


少年の濁った瞳に、その輝きが映った。

 彼は震える手で光に触れようとし、満足げな笑みを浮かべて意識を失った。


 私は彼を救護所へと運ぶよう他の信者に指示し、残された『瞳』を見つめた。


この光を灯すためには、何十人もの人々が交代で、血を吐くような思いで地下の歯車を回し続けなければならない。

 彼らが紡ぎ出したエネルギーが、壁を這う銅の蔦を伝わり、この小さな器に蓄えられる。

 ソラリス教団において、この光は「無知なる闇を払う知恵」の象徴だ。


 だが、最近の私には、これが人々の寿命を吸い取って輝く、貪欲な獣の眼差しのように感じられてならない。


最近、地上では不穏な噂が絶えない。

 数ヶ月前、一人の薄汚れた傭兵が持ち込んだという『不滅の種火』。

 それを祀り始めてから、大聖堂の空気はどこか澱み、古参の司祭様たちが次々と奇妙な熱病に倒れているという。


 さらに、共同戦線を張る公国軍が開発したという新兵器の噂。

 「見えない霧」を浴びた敵兵は、一瞬で肉が腐り落ちるという凄惨な話。


私が管理するこの『瞳』も、あの恐ろしい兵器も、どちらもかつての文明が遺した「力」の一部なのだとしたら。

 私たちは神の慈悲を仰いでいるのではなく、ただ、死に絶えた過去の亡霊に命を捧げているだけではないのか。


「……いいえ。迷ってはいけないわ、エリナ」


私は強く首を振り、祈りの言葉を唱えた。


 司教様は仰った。

 北の果てにある聖域には、世界中の人々を救い、病を癒やす本物の太陽が眠っていると。

 そこへ辿り着けば、地下で苦しむ彼らも、もう歯車を回す必要はなくなるのだと。


私は胸元で十字を切り、まだ温もりを失っていない『瞳』を握りしめた。


 救いたい。


 この光を信じて倒れていく人々に、本物の救済を届けたい。

 その無垢な願いが、私をあの凍てつく北の戦場へと駆り立てる唯一の理由だった。

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