第2節:死を吐き出す心臓
「……くそが。また停止したか」
私は手元にある『雷を喰らう槍』の出力を確認し、忌々しげに吐き捨てた。
槍の先端から漏れる火花は弱々しく、かつての文明が持っていたはずの輝きは見る影もない。
この槍を動かすための「雷」を補充するには、教団の地下にあるあの中世的な、あまりに非効率な人力発電に頼るしかない。
軍の最高機密であるはずの私の武装が、あの偽善者共が垂れ流す「余りカス」を乞わなければ動かないという事実に、腸が煮えくり返る思いだった。
「閣下、教団からの給電が滞っております。巡礼者たちの疲弊により、本日の割当分は半分になるとの通告が……」
「無能共が。神の慈悲を説く前に、自らの筋力が足りんことを恥じろと伝えろ」
私は副官を追い払い、実験室の中央に据えられた『ヴァルカノの心臓』へ歩み寄った。
鉛の装甲に包まれたその試作機関の中には、例の黒い石が納められている。
私の目的は、もはや単なる熱源の確保ではない。
この石の熱でタービンを回し、教団の助けなど借りずとも、この槍を、ひいては帝国全土を無限の雷で満たすことだ。
「注水開始。一滴残らず、石の熱を力へ変換せよ」
高圧ポンプが唸りを上げ、炉心へ水が送り込まれる。
石は即座に応えた。物理の法則をあざ笑うかのような熱量が、水を瞬時に猛烈な蒸気へと変え、試作機の配管を震わせる。
だが、その凄まじいエネルギーを「電力」へと変えるための変換効率を計測した瞬間、私は驚愕に目を見開いた。
「バカな……。熱量が……消失している? いや、変質しているのか?」
計器が示す「雷」の数値は、期待値の半分にも満たない。
代わりに、蒸気ラインの継ぎ目から、異様なほど重苦しい、無色透明の「陽炎」のような霧が噴き出し始めた。
それは漏れ出た蒸気ではない。
石の熱が無理やり電力へ変換される過程で生じた、毒々しい排熱の残滓――見えない熱を帯びた「死の霧」だった。
「う、あああああッ!!」
突如、配管のそばにいた技術兵が喉を掻きむしり、倒れ込んだ。
彼の肌は、まるで火に投げ込まれた羊皮紙のように一瞬で赤黒く縮れ、目からは血が噴き出している。
駆け寄ろうとした別の兵士も、霧を吸い込んだ瞬間に激しく嘔吐し、内臓の破片を床にぶちまけた。
「閣下、避難を! 制御不能です、これは呪いだ!」
逃げ惑う部下たちを尻目に、私はその「地獄」から目を逸らさなかった。
私の槍を充電するための回路は、確かに期待通りの数値を出していない。
だが、この漏れ出した「霧」はどうだ。
一瞬にして屈強な兵士を肉の塊に変え、細胞の単位で生命を分解している。
教団の「慈悲の光」などという甘っちょろい力とは対極にある、無慈悲で完璧な殺戮の息吹。
「……フフ、ハハハハハ!」
私はこみ上げる笑いを抑えきれなかった。
本来求めていた「雷」を凌駕する、圧倒的な破壊。
これを戦場で噴霧すれば、敵軍は祈る暇さえなく消滅するだろう。
教団の顔色を窺い、乞食のように電気を乞う日々は今日で終わりだ。
「技術兵、記録しろ。電力変換の失敗は問題ではない。……この『排熱の霧』を兵器として捕集する構造を設計せよ。名称は『灰の息』。これこそが、他国の王を跪かせ、教団の欺瞞を焼き払う公国の真の力だ」
床に転がる肉の塊を見下ろしながら、私は自身の『雷を喰らう槍』を、まだ熱を帯びた炉心へと向けた。
微かな放電音が、私の胸の高鳴りと共鳴するように暗闇の中で響いた。




