第1節:光り輝く墓標
門が開いた瞬間、溢れ出したのは光ではなかった。それは、言葉にできないほど重苦しい「気配」だった。
エリナは、自らが開いたその暗闇の中へと、吸い込まれるように歩を進めた。
背後からはゲルハルトが、狂気に憑りつかれた足取りで、剥き出しの剣を杖代わりにして続く。
血の海となった雪原に倒れていたイシュトも、震える体を引きずり、その最後を見届けるべく闇の中へと這い入った。
「……これが、聖域の正体か」
ゲルハルトが掠れた声で呟いた。
地下数キロメートルに及ぶ広大な空間。
そこには、神殿の柱のように整然と、数えきれないほどの「黒い円筒」が並んでいた。
かつての文明が築き上げた、鋼鉄と鉛の森。
一つ一つの筒からは、目に見えない脈動が伝わってくる。
カイルが拾い、ゲルハルトが兵器に変え、教団が奇跡と呼んだ「あの石」が、この中には山のように、それこそ大陸のすべての命を数万回殺して余りあるほどの質量で、眠っているのだ。
「フ……ハハハ! 宝の山だ! これだけの熱量があれば、公国は神をも超える力を……っ!」
ゲルハルトは円筒の一つに縋り付き、その冷たい表面に頬を寄せた。
だが、その瞬間、彼の肉体は拒絶反応の極みに達した。
皮膚は炭のように崩れ、縋り付いた腕の骨が、過剰なエネルギーの奔流に耐えきれず、内側から砕け散った。
「閣下……! もう、やめてください……!」
エリナが叫び、彼の肩を掴もうとした。
その時、彼女の足元に置かれた『聖光の瞳』の破片が、一瞬だけ、かつてないほど清烈に輝いた。
その光が、部屋の最奥にある巨大な壁を照らし出した。
そこには、どの国の言葉でもない、だが誰もが直感的に理解できる「絵」が刻まれていた。
第一の絵には、誇らしげに火を扱う人間たちが描かれていた。
第二の絵には、その火によって文明が爛熟し、空を飛ぶ鉄の鳥や、夜を昼に変える街が描かれていた。
そして第三の絵――そこには、制御を失った火に焼かれ、灰となって消えていく無数の人々の群れと、その「火の残骸」を地中深くへ埋め、泣きながら蓋をする生存者たちの姿があった。
壁画の最後に刻まれていたのは、一言だけの祈りだった。
『FORGIVE US(我らを許したまえ)』
それは神への祈りではない。
数万年後、いつかこの「ゴミ捨て場」を掘り返してしまうであろう、未来の同胞たちへの、絶望に満ちた謝罪だった。
「……ああ」
エリナはその場に膝をつき、嗚咽した。
救いなどなかった。
彼らが「聖域」だと思い込み、命を賭して辿り着いたこの場所は、かつて人類がその繁栄のツケを支払いきれずに放り出した、巨大な「遺恨」の墓場でしかなかったのだ。
ゲルハルトは崩れた肉体を床に横たえ、虚ろな目で壁画を見つめていた。
彼の追い求めた覇道も、教団が説いた救済も、この圧倒的な「負の遺産」の前では、羽虫の羽ばたきほどの価値もなかった。
「……イシュト……」
エリナが、入口で息絶え絶えになっている監視者の若者を呼んだ。
イシュトは血を吐きながら、最後の一力を振り絞り、懐から一つの「古い鍵」を取り出した。それは、この場所を再び封印するための、最後の手動レバーの起動キーだった。
「……閉めろ……。二度と……誰も……ここは……」
イシュトの言葉は、そこで途切れた。
彼の腰にある鳴子が、最後の一音を小さく、弱々しく響かせた。
「……チッ」
それが、この10万年の監視を託された一族が放った、最後の音だった。




