第4節:不可視の防衛線
武器庫の奥底で、数千年の眠りについていた機械たちが低く唸りを上げた。
私は、重厚な金属の筒――『焦熱の投射機』を肩に担ぎ、村の広場へと続く坂道を駆け上がった。
背後では、二機の『自動追尾の眼』が、不気味なほど滑らかな動きで浮遊し、私の後を追ってくる。
「……標的、確認。排除を開始せよ」
私が管理端末を叩くと、空中に浮く『眼』のレンズが紅く発光した。
瞬間、見えない衝撃波が軍の先遣隊を襲った。
銃声も、爆発音もない。
ただ、装甲車の影に隠れていた兵士たちが、突然「熱い! 熱い!」と叫び声を上げながら、その場でのたうち回り始めたのだ。
「何が起きている! 敵の攻撃か!?」
叫ぶ軍曹の言葉が終わる前に、彼の着ていた防護服が内側から膨らみ、破裂した。
血が沸騰し、体内の水分が瞬時に蒸気へと変わる――『焦熱の投射機』が放つ不可視の電磁波が、人体を中から焼き尽くしていく。
「チチチチチチチチチチチチチチッ!!!!」
私の腰にある鳴子が、もはや音の壁となって私の鼓膜を突き刺す。
この武器を使うことは、私自身が「死の神」の至近距離に身を晒すことと同義だ。
鼻の奥から鉄の味が広がり、視界が急速に狭まっていく。
「フ……ハハハ! 見ろ! これだ、これこそが私が追い求めた真の『力』だ!」
阿鼻叫喚の地獄絵図の中で、ゲルハルト閣下だけが歓喜の声を上げていた。
彼は部下たちが内側から爆ぜていく様を、まるで美しい花火でも見るかのように眺めていた。
「見えない火、音のない死! 教団のまやかしではない、絶対的な科学の暴力! 素晴らしい……あの武器の核さえ手に入れれば、ヴァルカノは不滅となる!」
彼は怯える兵士たちを剣で追い立て、私の方へと突撃を命じた。
私は投射機の出力を最大まで引き上げ、突進してくる装甲車のエンジンへと向けた。
鋼鉄が赤熱し、凄まじい爆発と共に車体が跳ね上がる。
だが、それと同時に、私の腕の皮膚もまた、熱病に冒されたようにボロボロと剥がれ落ちていった。
混乱の渦中、私は聖域の「門」の前に立つ、一人の女性の姿を捉えた。
白い法衣を纏った、修道女。
彼女は周囲の殺戮に震えながらも、その手はしっかりと、重厚なコンクリートのハンドルにかかっていた。
「……やめろ……開けるな……!」
私は投射機の照準を彼女に合わせた。
彼女を撃てば、この「門」の沈黙は守られる。
だが、レンズ越しに見た彼女の瞳は、軍人のような強欲でも、司教のような狂信でもなく、ただただ純粋な「救済」を求める、悲痛な祈りに満ちていた。
私の指が、引き金の上で凍りついた。
その一瞬の躊躇を、ゲルハルトは見逃さなかった。
「無能が。歴史の邪魔をするな!」
ゲルハルトが放った銃弾が、私の肩を貫いた。
私は投射機を落とし、雪原へと転がり落ちた。
意識が遠のく中、私は見た。
修道女が、その全身全霊を込めて、ついに門を開放するのを。
ズゥゥゥン……という、大地の底から響くような地鳴り。
数万年の間、光を知らなかった闇が、重い音を立てて外の世界へと溢れ出す。
それは、イシュトが守ろうとした「沈黙」が、永遠に失われた瞬間だった。
「……ああ、神よ……」
私は、鳴り止まない鳴子の音の中に、自分を呼ぶ先祖たちの嘆きを聞いた気がした。




