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俺の腕、売ります。  作者: ももクリさんねんかきハチネン
第七章 褶曲する海嶺、観測される凝縮
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幕間「焦がしバターとセージのニョッキ、フライドサバチップ添え」

 今日のお天気は……


 『カリッ』のち『ふわっ』

 余韻はすっきり


 食べ過ぎに注意報です




 うん、焦がしバターで軽く炒めて

 ニョッキの表面はカリッ。

 口の中でふわっとほどけていくね。


 フライドサバチップの旨みと風味がいい仕事してるよ。

 食感にアクセントも出せてる。


 セージの香りで後味もすっきりしてる。


 すごい進歩じゃん


「やったぁ」


 パセリ、

 セージ、

 ローズマリー、

 それからタイム、

 あとレモンピール……


「いきなりどうしたの?

 このソースに足りなかった?」


 ごめんごめん。

 ソースは大満足だよ。


 ……じゃなくてさ

 セージとバターで思い出したんだけど、


 『スカボローフェア・バター』っていう

 美味しいハーブバターがあってね……





 礼文慎に炎城志朗、杉原行成の熱気に当てられたのか。


 騎士戦らしからぬお行儀がよくない試合があちらこちらで繰り広げられたことに端を発して、大地のアンチはSNSでここぞとばかりにあることないことを書き殴っていた。


《良くない影響が出てますよ》


 俺のせいねえ。


 ない種は芽吹かないのだよ。


《全部、隠岐のせい》


 隠岐ってのは、検索除けの隠語らしい。


 見つかっても、沖大地のことじゃない、と逃げられると勘違いしているようだ。


 佐祐倫さゆりさん主導で絶賛捜査中で、『震えて待て』とのことらしいですよ。


 しかし、確かに何とも荒い試合の多い日だったようだ。


 荒っぽい、ではなかったのがミソである。


「三十路だけにね」


 端末に映る大野間が肩を大げさにすくめた。

 回転椅子にでも座っているのか、体がくるりと一回転……半した。

 大地の方からは背もたれしか見えない。


 雑にボケんな。


 30代は杉原何某だけだろ。

 俺と礼文は20代だし、炎城なんてもうすぐ50代じゃねえのか?


 再びくるりと半回転……行き過ぎて4分の3回転した大野間。


 対面通信で背中とか横顔とか……

 ……通常運転か。


「礼文さんは僕の二学年上だったはずだから……

 今年は僕が28歳で、あちらは30歳になってるはずだよ」


 大野間は正面、つまり大地に向かって指を三本立ててから、向かって左斜め下に視線を向けつつ指を立てた右手を右斜め上に掲げた。


 俺と通信してるのに、どこに向かって見栄を切ってるんだよ……


「なんか、僕の相手も荒かったね」


 一応、聞いておこうか。


「兵装がさ、ただの槍に見せかけて、

 石突が仕込みフレイルだったのさ」


 大野間は目に見えない槍を突いてから、フレイルを振り回す仕草をした。


 それ、先が鉄球とかスパイクボールだと、鎖分銅より取り扱いがややこしいぞ。


 しかも仕込みってことは鎖だかワイヤーだかを柄に隠してたってことか?

 柄の耐久性が低そうなのもあれだけど、肝心の鉄球が隠せねえだろ。


 荒いというより虚弱フレイルなんじゃねえの、頭が?


「なかなか手厳しいね。

 思った以上には厄介だったよ。

 ドリフト旋回をうまく使ってきてね」


 ああ、なるほど。

 槍の柄を持ち手に偽装してた炎城みたいな使い方か。


 どのみち、フレイルだと反動か慣性で、自分に返ってこねえか?


「どうだろう?

 最初の一撃を、文字通り受けたというか、キャッチしちゃったからね」


 横から飛んできた見えない鉄球をキャッチした大野間は、何かに押されたようにその反対側へと消えていった。

 大地はこめかみを押さえたが、軽くため息をついて見なかったことにする。


 ……キャッチ、どうやって?


「さあ?

 あのときにはとっさに名案を思い付いて動いたはずなんだけど、

 そのアイデアを今の僕が、一切まったく覚えてなくてね。

 僕も、そこで掴んだのはいいんだけど、

 その鉄球をどうしたらいいのかわからなかったんだ。

 向こうも掴まれると思ってなかったみたいで、固まってたみたい。

 それで、とっさに大地くんの真似をしてみたんだよね」


 画面外から戻ってきた大野間は、大地に自慢したくてたまらないのか、ニタニタと笑顔を浮かべてカメラに近寄ってきた。

 つまり、画面内いっぱいに大野間の顔がドアップになった。


 誰の真似だって?


 大地は下がれと手を振った。


「せっかく掴んだんだし、

 鎖を手繰りながら接近して、フレイル槍ごとカニ挟みしてみた」


 大野間は両の腕を脚に見立てて、何度もパタンパタンと閉めてカニ挟みを表現した。


 ……器用だな。

 今やってるその仕草じゃなくて……

 見よう見まねでできるもんじゃないぞ、あれ。


「そんな褒めないでよ。

 それで、近過ぎて槍もうまく使えないからさ。

 短剣ダガーに持ち替えて、こう……」


 唐突に大野間の姿が画面から消えてしまった。


 再現するなら短剣ダガーを突きつけるポーズだけにしといたほうがいいぞ。

 見えないところで実際にカニ挟みまでやってるんだろうけど。


「こうやって、

 『降参しないなら、このまま刺し続ける』と降伏勧告したら、

 なぜか相手は素直に受け入れてくれてね。

 これで、3勝目ってわけさ。

 ホームでは、初勝利。

 ようやく応援してくれているみんなに、喜んでもらえたよ」


 そりゃ、よかった。3連勝とホーム初勝利、おめでとう。


 相変わらず画面に大野間の姿はない。

 喜んでいるのだろう、バタバタと何かの音が聞こえる。

 下から手が出てきて大地の祝辞に応えたので、そこにはいるようだ。


 めんどくさいな。


「まあ、僕のことはいいんだ。

 礼文さんと炎城さん、あと杉原さんだけど……

 どうも一律で、一試合出場停止と警告処分でまとまりそうなんだよね」


 ふーん。

 政治的な、何とやらかな?


 礼文の処分だけ軽くするわけにはいかないだろうしな。


 杉原何某だけ毛色が違う気もするが、そもそもあいつ退院できたのか?


「聞くところによると、杉原さんはリハビリ中らしいよ」


 そうか。


 あー、何か機械か電波の調子がよくねえみたい。

 切るぞ。


 まだ何かネタがあったのか、通信が切れる直前に大野間の名残惜しそうな声が聞こえた。

 大地は天を仰いで、ため息をついた。





 通信を切ったとき、ちょうど台所から佐祐倫さゆりが現れた。


「あら、終わったの?」


 ……無意味に長いから、機械のせいにして切った。


「それは可哀想に。

 最近、ずいぶん仲良くしてくれてるんでしょう?」


 それは否定しないけど、

 いちいち味が濃いから、こんなにしょっちゅうじゃなくてもいいよ。


「まあ、いいわ。

 ちょうどニョッキがうまく仕上がったから、食事にする?」


 ベショベショになってない?


「いつまでそのネタで揶揄からかうつもりよ。

 私に教えた料理講師のせいにしてやろうかしら」


 大地に教わっていた当初こそ、固過ぎたり緩過ぎたりと悲惨な出来栄えをさらしていたものだった。

 しかし、回数を重ねたことでコツを掴めてきたのか、ニョッキに限らず料理全般がおいしく食べられる範疇になってきた。


 ごめんごめん。

 もう料理上手って自慢できる腕だよ?

 俺が保証する。


 佐祐倫さゆりの料理の腕は、お金を貰えるレベルの鋼谷さんや全力はるよしほどじゃないにしても、知人に振る舞う分には褒められていい水準になってきている。


「今日のソースは焦がしバターとセージ、それにフライドサバチップね」


 お、いいねえ。


 レパートリーがトマトとチーズばっかり、からやっと卒業できたんだ。


 佐祐倫さゆりの料理の腕が上達して美味しいレベルになってきても、味のパターンが少なかったことを、つい大地は揶揄からかってしまった。


「もう、憎まれ口ばっかり。

 知らない。

 食べなくて、いいから」


 ぷいと横を向く佐祐倫さゆり

 世界記録の速さで正座して謝る大地。




 セージの花言葉


 『尊敬』


 『知恵』


 『家族愛』


 『幸せな家庭』

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