第77話「起承顛末」
蒼穹を走る鋼の翼
ふいの閃光
漆黒の蒼に溶けゆく断末魔
ふたたび戻らぬ友の残骸
静かに海原へと去ってゆく
「沖大地……お前は、俺の下だ!」
叫ぶ行成の眼差しは、もう沖大地、『赤銅鏡』を見ていなかった。
少年の日に憧れた水平線の向こう側。
まだ見ぬ景色。
高瀬長門の後ろ姿――
勝利を確信した行成の視界が光に包まれる。
終焉はあまりに突然だった。
な、何が起こったんだ。
大地は爆発の閃光に眩んだ目をこすって、何度も瞬きを繰り返した。
爆発の影響で『赤銅鏡』は予期せぬ方向へ飛ばされているようだ。
『赤銅鏡』に張り付いていた大楯は、ふいに電磁力を失い、最初からそうだったかのように自由を求めて宇宙の彼方へ去っていく。
見ると、大楯の裏側は爆発のせいだろうか、いくつもの裂け目でズタズタになっていた。
奇しくも、『翠兵旋』の爆発から『赤銅鏡』を救ったのは、身動きを封じていた大楯だったのだ。
自動姿勢制御、「旭多」ベイエリアを正面に据え、
ほか基準点「伏露」と「澪安」を設定。
始め。
騎士艇の姿勢を安定させた大地は、補助AIに『翠兵旋』の居場所を捜索させた。
AIはすぐに反応を拾い上げた。
どうやら思ったより近くを漂流している。
『翠兵旋』からの追撃を警戒する必要はなさそうだ。
モニターに映った『翠兵旋』は、肩部から背面にかけて外装がきれいにはじけ飛んで、その爆発の凄まじさを物語っていたのだった。
◆星環騎士戦運営委員会 事故調査委員会
調査結果(中間報告)
1.直接の原因について
ニトロ機構の暴走を起こした『翠兵旋』について、事前検査報告書にある限り、当該時点において安全装置は設置されており、条件設定も適切であった。
ただし、回収された『翠兵旋』残骸では、使用されたニトロ機構およびフライトレコーダーは原形を留めておらず、推測の域を出ない。
ただし、前述の事前検査報告書に記載されたとおりの設計であるとするならば、積載されたニトロ機構の出力や燃料搭載量に鑑みて、充分な冷却が保証されない環境を検査官が看過したことは、甚だ遺憾である。
2.暴走の背景について
安全装置が正しく作動していたと仮定した場合、条件設定である使用回数限界または稼働時間限界を著しく超過して使用した可能性が非常に高い。
現に、ニトロ機構由来と見られる噴出炎は相当長時間にわたって観測されている。
この無謀な運用により、爆発事故発生時点において、動力系統や駆動系統には想定を超える損傷が蓄積していたことが推察される。
その結果、危険域を遥かに超える領域に達し、ニトロ機構を中心に爆発を起こしたものとみられる。
また、脱出装置に残されていた最低限のログを見る限り、ニトロ機構が臨界点、すなわち致命的な故障に達する直前に、操縦者である杉原行成の意思によらず自動でシャボンシェルターが作動していたものと考えられる。
『翠兵旋』残骸にかろうじて残された操縦室の惨状を見ると、沖大地による迅速な救助対応があったとはいえ、杉原行成が重傷を負いながらも存命で帰還できたことは、不幸中の幸いともいえるだろう。
前述の迅速な救助対応からもわかるとおり、この事故について、対戦相手である騎士・沖大地、『赤銅鏡』、ならびに赤銅騎士団になんら瑕疵は認められなかった。
この爆発事故の被害が、『翠兵旋』の全壊に留まったのは、むしろ僥倖とすべきである。
3.結論および責任の所在について
本調査委員会は、当該試合における立会人による「『翠兵旋』の中枢部および生命維持装置の完全喪失をもって『赤銅鏡』の勝利とする」臨時的裁定を、暫定的に支持するものとする。
杉原行成による危険行為、すなわち爆発直前というあまりに絶妙なタイミングで自動脱出が作動していることから、意図的に星環騎士艇の自爆に近い状態を招いた疑いは残る。
ただし、当人は事故の後遺症により入院加療中であるため、現時点で詳細な聴取は行えていない。
当該の者については、健康状態の回復後に改めて聴取を行い、そのうえで正式な判断を下すこととして、本件を中間報告とする。
以上。
爆発事故の夜。
大地は母に甘える幼児のように
佐祐倫に抱かれて眠りについた。




