幕間「あなたのための汎用性」
特別な何かでなくても
日常に自然に寄り添い
それぞれの歯車を噛み合わせて
沖大地と竹島健司は、赤銅騎士団の同僚である。
また、二人は星環騎士と整備士の関係である。
同時に、元はご近所さんの幼馴染である。
大地は、小さい頃に世話になった竹島には頭が上がらない……はず?
ある日の彼らの会話。
大地は、いつでも唐突である。
ねえねえ、健ちゃん。
星環騎士戦トップリーグに昇格しようが、そのトップリーグで年度優勝しようが、自然体そのままである。
騎士団の事務所で8年ぶりに再会した頃はまだ少年の名残があった幼馴染。
大地も今ではいっぱしの社会人……のはず。
下の名前で呼ぶにしても、健ちゃんはちょっと……いい大人なんだからさと竹島がこぼすがいつものように流される。
汎用性って何?
「またどうした、藪から棒に?」
応対する竹島も、慣れたもの。
『赤銅鬼』ってさ、前に乗ってたやつね?
汎用騎士艇って、スペック表に書いてあった気がするんだよ。
星環騎士戦にしか使わないのにさ?
その時は流してたんだけど、改めて何だったのかなって。
「……見る角度かな」
正面からと後ろからとじゃ、違うのかい?
「混ぜっ返すなよ。
……いいよ。
くどくなるだろうが、最初から行くか」
たぶん、いつものように大地は途中で竹島の説明に飽きるだろう。
ただ、理解が及ばなくても好奇心が止まらない大地は、竹島に飽きた後には必ず白石さんに説明の続きを求めている。
説明の内容が物理的に正しくなかろうが、語り口がうまい白石さんに毎度毎度、締めというか、納得を持っていかれるのは、どうにも立つ瀬がない。
今回は、兄貴分として大地に最後まで聞かせて感心させたいところ。
「汎用ってのは、小学校の先生、
専用ってのは、大学の教授とか講師」
いきなりだね。
「うるせえ。本当に一から説明してたら終わらないだろうが」
飛躍しがち技術者の悪癖と自覚してはいるが、これを細かくやると、技術者だけに話が終わらない……
うん、続けて。
「教えることが初歩であれば、一人でいくつかを抱えて、
何でも聞きたがる小学生に教えられる。
これが専門性が上がると、つまり大学講師になると、
教えるにしても、相手の頭に最低限の専門用語が入ってないと、
何を講義しても、伝わらねえ」
大学の講義ってそんな難しいの?
「……知らんよ。
俺は高専、高等専門学校で、
大学には行ってねえ……大学はやめ。
高専にするわ。
俺も実体験だし説明しやすいや。
高専も教授とか講師でな、まあ、専門用語なしでの……
えーと、英単語知らずに高等英語の授業受けるようなもんだ。
高専じゃ、質問が不要なくらいくそ丁寧には教えちゃくれねえ。
予習や授業で感じた質問は別途でお願いするのが……
普通、なのかな?」
出来る限り汎用性の高い例えはないかと、竹島は探りながら続ける。
つまり?
こっちが言葉を選んで組み立ててるってのに、一言で返すんじゃないよ、と竹島は軽く大地をにらむ。
もちろん、大地はどこ吹く風だ。
竹島は深くため息をつくと、説明を続ける。
「汎用って言葉は、言葉そのままだが、
これが汎用性ってなると、いろんな姿を見せ始める。
いわゆる『人や場合によりけり』ってやつだ。
勘違いするな。
どう解釈してもいいって話じゃない。
例として、人と場所の軸を定めたら、
解の座標がわかるって話だ。
始めにお前が気にしていたように、
まずは『いろいろな場面とかいろいろな作業』に対応していること。
専門性が高くなると、
その道具を使うための知識や技術が前提になる……
車がそうだし、
お前が乗ってる騎士艇が、まさにそれだな」
うん、わかるよ。続けて。
さて、ここからだ、と竹島は膝を軽く叩いて気合を入れた。
「ややこしいが、
これがある分野に限定した話題でも、汎用とか呼んだりするんだ。
あー、ややこしいかもしれんが、さっき例に出した車がそうだ」
え、えーと?
大地の目が泳ぎ始めたのを見て、まだまだ予定通り、と歯を食いしばる竹島。
ここで逃がしたら、いつもの通り。
兄貴分の面目を今日は保たねば、と竹島は脳みそをフル稼働して踏ん張る。
「よし、復習するぞ?
車を運転するには、
当然、運転技術と交通法規がセットで必要だ。
つまり、道具全体の話であれば、
汎用性よりも専門性の方が高い」
うん、さっき、言ってたね。
「ただ、車という分野の道具に限ると、
乗用車、トラック、トレーラー、バス……
いくらでも種類があって、
その中では、乗用車ってのが汎用性が高い方になる。
おい、もちろん、車に限った話だぞ」
うんうん。
「その乗用車の中でも、特徴……
車高や座席数なんかによって、汎用性の高さは変わってくる」
なるほど?
「……面倒くさくなってきやがったな、お前。
まあ、いい。
そろそろ『赤銅鬼』に話を戻してやるから、
そこに、ちゃんと座れ」
大地の腰が少し浮いてきた。
よくない兆候に気付いた竹島は、強引に話を進めることにした。
竹島は端末を操作して『赤銅鬼』、
CU95SN―5の紹介記事をいくつか表示した。
「今となれば業腹だが、
こいつは実機でありながら、
シミュレーターでもある。
本来は、訓練校で使用することが前提の、練習用騎士艇だ」
なあ、こいつに、トップリーグまで乗ってたぞ、俺。
「お前の変態戦法もあるが……
それに付き合えたこいつの、
異常なまでの汎用性の高さも助けてくれたってことだ。
ベースになった『赤銅驥』と
その開発者の執念だな。
……あと、俺たち整備班もだ」
その節は、お世話になりました。
「わかってりゃ、いいさ。
汎用性の高さはその道具だけじゃなく、
使う本人や整備・管理する周りが大変ってことだ。
それだけたくさんの場面に対応しなきゃってことでもあるからな。
なみいる専用機を相手にして、
お前がこの汎用機で勝ち続けたってのは、
誰が聞いても、普通は眉唾だって思うさ。
……お前は、それだけのことをやってのけたんだ」
メーカーである承知工業から製品開発総合主任がわざわざ『赤銅鬼』の現場運用の調査に来たくらいだ。
その製品開発総合主任にしても、『なぜ勝てるのか』『どうやって製品にフィードバックすればいいのか』を髪を掻きむしっていたのだ。
改めて、お世話になりました。
俺が五体満足なのも、健ちゃんたち整備班のお陰です。
「……納得できたみたいだな。
つ―わけで、今日の晩飯は奢れよ、騎士様?
スカジャンとコラボトレーニングウェア、あんなに売れたんだ。
お前にの懐にも、相当入ったんだろ?」
あの取分、違った……
名義使用料の振込は、来月なんだけどな……
えーと、『岸えもん』の出入り禁止が解けたらしいので、
そちらでよろしいでしょうか。
出入り禁止だったのは、店内で黒崎健吾と立ち回りをした大地の二人だけである。
同じ組み合わせの同じ理由での禁止が、都合2度。
あのときの、大地のひよこリーグデビュー戦の祝勝会以降、赤銅騎士団の面々はときどきお世話になっている店だ。
流石に、北斗の英雄を出入り禁止のままにはできんよな、と竹島は苦笑する。
今日は、赤銅騎士団メインスポンサーの御曹司である黒崎健吾も居ないことだし、巻き添えを食うこともないだろう。
「あの回転寿司屋なら、
寿司のほかにうどん、ピザ、アイスクリームまであるしな。
希倫ちゃんの分もテイクアウトして、
お前の家でゆっくり食べるのも悪くないな。
ま、どうするかは、行ってから考えるか……」
欠かせない主役もいいね
欠かせない脇役もいいね
あなたは縁の下の大黒様




