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俺の腕、売ります。  作者: ももクリさんねんかきハチネン
第六章 変成と圧密、鍛錬する地層
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幕間「あなたのための汎用性」

 特別な何かでなくても


 日常に自然に寄り添い


 それぞれの歯車を噛み合わせて




 沖大地と竹島健司たけしまたけしは、赤銅騎士団の同僚である。

 また、二人は星環騎士と整備士の関係である。

 同時に、元はご近所さんの幼馴染である。

 大地は、小さい頃に世話になった竹島には頭が上がらない……はず?





 ある日の彼らの会話。


 大地は、いつでも唐突である。


 ねえねえ、たけちゃん。


 星環騎士戦トップリーグに昇格しようが、そのトップリーグで年度優勝しようが、自然体そのままである。

 騎士団の事務所で8年ぶりに再会した頃はまだ少年の名残があった幼馴染だいち

 大地も今ではいっぱしの社会人……のはず。

 下の名前で呼ぶにしても、健ちゃんはちょっと……いい大人なんだからさと竹島がこぼすがいつものように流される。


 汎用性って何?


「またどうした、藪から棒に?」


 応対する竹島も、慣れたもの。


 『赤銅鬼』ってさ、前に乗ってたやつね?

 汎用騎士艇って、スペック表に書いてあった気がするんだよ。

 星環騎士戦にしか使わないのにさ?

 その時は流してたんだけど、改めて何だったのかなって。


「……見る角度かな」


 正面からと後ろからとじゃ、違うのかい?


「混ぜっ返すなよ。

 ……いいよ。

 くどくなるだろうが、最初から行くか」


 たぶん、いつものように大地は途中で竹島の説明に飽きるだろう。

 ただ、理解が及ばなくても好奇心が止まらない大地は、竹島に飽きた後には必ず白石さんに説明の続きを求めている。

 説明の内容が物理的に正しくなかろうが、語り口がうまい白石さんに毎度毎度、締めというか、納得を持っていかれるのは、どうにも立つ瀬がない。

 今回は、兄貴分として大地に最後まで聞かせて感心させたいところ。


「汎用ってのは、小学校の先生、

 専用ってのは、大学の教授とか講師」


 いきなりだね。


「うるせえ。本当に一から説明してたら終わらないだろうが」


 飛躍しがち技術者の悪癖と自覚してはいるが、これを細かくやると、技術者だけに話が終わらない……


 うん、続けて。


「教えることが初歩であれば、一人でいくつかを抱えて、

 何でも聞きたがる小学生に教えられる。

 これが専門性が上がると、つまり大学講師になると、

 教えるにしても、相手の頭に最低限の専門用語が入ってないと、

 何を講義しても、伝わらねえ」


 大学の講義ってそんな難しいの?


「……知らんよ。

 俺は高専、高等専門学校で、

 大学には行ってねえ……大学はやめ。

 高専にするわ。

 俺も実体験だし説明しやすいや。

 高専も教授とか講師でな、まあ、専門用語なしでの……

 えーと、英単語知らずに高等英語の授業受けるようなもんだ。

 高専じゃ、質問が不要なくらいくそ丁寧には教えちゃくれねえ。

 予習や授業で感じた質問は別途でお願いするのが……

 普通、なのかな?」


 出来る限り汎用性の高い例えはないかと、竹島は探りながら続ける。


 つまり?


 こっちが言葉を選んで組み立ててるってのに、一言で返すんじゃないよ、と竹島は軽く大地をにらむ。

 もちろん、大地はどこ吹く風だ。

 竹島は深くため息をつくと、説明を続ける。


「汎用って言葉は、言葉そのままだが、

 これが汎用性ってなると、いろんな姿を見せ始める。

 いわゆる『人や場合によりけり』ってやつだ。

 勘違いするな。

 どう解釈してもいいって話じゃない。

 例として、たて場所よこの軸を定めたら、

 解の座標がわかるって話だ。

 始めにお前が気にしていたように、

 まずは『いろいろな場面とかいろいろな作業』に対応していること。

 専門性が高くなると、

 その道具を使うための知識や技術が前提になる……

 車がそうだし、

 お前が乗ってる騎士艇が、まさにそれだな」


 うん、わかるよ。続けて。


 さて、ここからだ、と竹島は膝を軽く叩いて気合を入れた。


「ややこしいが、

 これがある分野に限定した話題でも、汎用とか呼んだりするんだ。

 あー、ややこしいかもしれんが、さっき例に出した車がそうだ」


 え、えーと?


 大地の目が泳ぎ始めたのを見て、まだまだ予定通り、と歯を食いしばる竹島。

 ここで逃がしたら、いつもの通り。

 兄貴分の面目を今日は保たねば、と竹島は脳みそをフル稼働して踏ん張る。


「よし、復習するぞ?

 車を運転するには、

 当然、運転技術と交通法規がセットで必要だ。

 つまり、道具全体の話であれば、

 汎用性よりも専門性の方が高い」


 うん、さっき、言ってたね。


「ただ、車という分野の道具に限ると、

 乗用車、トラック、トレーラー、バス……

 いくらでも種類があって、

 その中では、乗用車ってのが汎用性が高い方になる。

 おい、もちろん、車に限った話だぞ」


 うんうん。


「その乗用車の中でも、特徴……

 車高や座席数なんかによって、汎用性の高さは変わってくる」


 なるほど?


「……面倒くさくなってきやがったな、お前。

 まあ、いい。

 そろそろ『赤銅鬼』に話を戻してやるから、

 そこに、ちゃんと座れ」


 大地の腰が少し浮いてきた。

 よくない兆候に気付いた竹島は、強引に話を進めることにした。

 竹島は端末を操作して『赤銅鬼』、

 CU95SN―5の紹介記事をいくつか表示した。


「今となれば業腹だが、

 こいつは実機でありながら、

 シミュレーターでもある。

 本来は、訓練校で使用することが前提の、練習用騎士艇だ」


 なあ、こいつに、トップリーグまで乗ってたぞ、俺。


「お前の変態戦法もあるが……

 それに付き合えたこいつの、

 異常なまでの汎用性の高さも助けてくれたってことだ。

 ベースになった『赤銅驥しゃくどうきぜろ』と

 その開発者の執念だな。

 ……あと、俺たち整備班もだ」


 その節は、お世話になりました。


「わかってりゃ、いいさ。

 汎用性の高さはその道具だけじゃなく、

 使う本人や整備・管理する周りが大変ってことだ。

 それだけたくさんの場面に対応しなきゃってことでもあるからな。

 なみいる専用機を相手にして、

 お前がこの汎用機で勝ち続けたってのは、

 誰が聞いても、普通は眉唾だって思うさ。

 ……お前は、それだけのことをやってのけたんだ」


 メーカーである承知工業から製品開発総合主任エンジニアリーダーがわざわざ『赤銅鬼』の現場運用の調査に来たくらいだ。

 その製品開発総合主任エンジニアリーダーにしても、『なぜ勝てるのか』『どうやって製品にフィードバックすればいいのか』を髪を掻きむしっていたのだ。


 改めて、お世話になりました。

 俺が五体満足なのも、健ちゃんたち整備班のお陰です。


「……納得できたみたいだな。

 つ―わけで、今日の晩飯は奢れよ、騎士様?

 スカジャンとコラボトレーニングウェア、あんなに売れたんだ。

 お前にの懐にも、相当入ったんだろ?」


 あの取分、違った……

 名義使用料マージンの振込は、来月なんだけどな……

 えーと、『岸えもん』の出入り禁止が解けたらしいので、

 そちらでよろしいでしょうか。


 出入り禁止だったのは、店内で黒崎健吾と立ち回りをした大地の二人だけである。

 同じ組み合わせの同じ理由での禁止が、都合2度。


 あのときの、大地のひよこリーグデビュー戦の祝勝会以降、赤銅騎士団の面々はときどきお世話になっている店だ。

 流石に、北斗の英雄を出入り禁止のままにはできんよな、と竹島は苦笑する。

 今日は、赤銅騎士団メインスポンサーの御曹司である黒崎健吾も居ないことだし、巻き添えを食うこともないだろう。


「あの回転寿司屋なら、

 寿司のほかにうどん、ピザ、アイスクリームまであるしな。

 希倫ちゃんの分もテイクアウトして、

 お前の家でゆっくり食べるのも悪くないな。

 ま、どうするかは、行ってから考えるか……」




 欠かせない主役もいいね


 欠かせない脇役もいいね


 あなたは縁の下の大黒様

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