第44話「仇同士」
かたや、師弟二代の仇敵なり。
かたや、義兄弟の仇なり。
各々方、
これぞ、隅々まで、
目ん玉、見開いてぇ~
見ぃ~おせぇ~ッ
【望澪星環群、澪安(研究星環)】
澪和騎士団事務所。
今日、復帰戦の相手が騎士運から知らされる。
行成はそう聞かされて、事務所に顔を出した。
マネージャーがお待ちです、と馴染みの受付から案内されて会議室に向かった。
まずは、復帰戦をきちんと飾ること。
杉原マネージャーからの厳命である。
確かにそうだ。
戦線に復帰した行成が星環騎士戦トップリーガーとして相応しい力を見せずに、より費用と手間のかかる冠試合を望んでも、澪和航空はじめどこのスポンサー企業も首を縦に振るまい。
「今年度に限っては、沖くんは、格上だ」
言わんとすることはわかる。
しかし、短期の戦績のみを拾って格を語るのは父といえど承服しかねる。
だが、試合の準備も格付も自分の範疇ではない……
ノイズだとして、流しておこう。
沖と戦うための一里塚。
「とはいえ、組み合わせを決定するのは騎士運だから、
いきなり沖くん、という場合もあり得る」
構いはしない。
誰とでも、どこであっても。
高瀬の口癖。
生粋のエンターテイナー。
有利か不利かではない。
楽しめるか楽しめないかだ。
まず自分。
そして観客。
求めるものは最高のショー。
高瀬長門は結局のところ、総合優勝はもちろん、年度優勝さえしていない。
今、思い返せば当然の帰結。
星環騎士道の集大成と称される炎城。
しかし、実のところ集大成と呼んでいいのは高瀬の方だ。
目の前の勝ち星より、人命救助を最優先。
ライバルとの対戦で激闘の挙句に勝利したかと思えば、礼文のような新鋭にあっさり土俵を割ったりもしていた。
今でも高い人気だが、沖とは違う意味で悪評はあった。
勝つ気はあるのか。
勝敗より危険域そのものを楽しんでいるのか。
称賛と批判、それらすべてを飲み込んで。
「送迎、入室します」
今年から総務課長となった送迎が会議室に現れた。
行成を一瞥してから、杉原の前で直立不動になる。
こころなしか、顔が青ざめている。
「星環騎士、杉原行成の復帰戦の相手は、沖大地。
場所は、北斗星環群、遊架とのこと、です」
杉原マネージャーが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
「うちの行成と礼文くんがいない今年、
賭場の売り上げが落ちているとは聞いていたが、
これは、騎士運のやることじゃないだろう……」
確たる証拠もなしに騎士運が賭場の言いなりとか口にするものではないでしょう、と行成は父を諫めた。
予定は早まったが、自分がすることは変わらない。
「高瀬の借り、沖大地で取り戻す」
行成自身の借りではないというのに。
そして、行成が発したこの言葉がどこから漏れたのか。
数日後、望澪星環群は、行成による高瀬の仇討ちに沸いた。
【北斗星環群、瑞穂(居住星環)】
赤銅騎士団事務所。
鋼谷が騎士運から知らされた対戦相手を発表した。
……誰だっけ? 聞いたことあるような?
大地にはいつものことなので、事務所にいた者たちは流した。
「去年度最終戦でニアミスしてた人だよ」
流石に希倫がフォローした。
……あっさりギブアップした人?
「そっちじゃなくて、同じホテルで泊まってた、礼文の対戦相手だよ」
礼文に大怪我させた奴か。
あれで、俺、巻き添え食わされたんだぞ。
思い出してきた。
逃げ込んだ喫茶店でも、店主とかウェイトレスとか……
「はい、脱線。黙れ」
……はい。
最近は忙しく飛び回る白石マネージャーに代わって大地を操縦する役目の希倫。
とにかく、トラブルに巻き込んでくれた礼は、返さないとな。
そこにちょうど、白石が事務所に戻ってきた。
「……? そこ、詳しく聞こうか」
オーナーやメインスポンサーの黒崎運輸とも相談してきたのだが、今回の星環騎士戦、ホーム開催だけあって売り文句、キャッチフレーズが欲しいところだが、良いものが出てこなかった。
だが、今、大地の口から、何やら杉原行成と因縁があるとか……
去年度最終戦、俺の試合の後で杉原何某が礼文を怪我させたっしょ?
天啓が降りてきた白石は、皆まで聞かずに右手を天に掲げた。
「これよ。新世代王者の借り! まさしく、これ!」
おいおい、俺、別に礼文と面識ないぞ?
……あ、婚約騒動の現場でお祝いの言葉をもらったっけか?
つっても、婚約自体、嘘っこだし。
えーと、そこな妹さん?
あなたが両手を上に挙げているのは、握り拳で降参のポーズ、で宜しいか?
【諸角星環群、丹鶴(居住星環)】
礼文慎が入院している病室。
礼文・但馬・太陽が、慎を見舞うのは初めてだった。
「まだ、動けないみたいだね」
慎は答えない。
焦りで自主的リハビリを敢行したところ、看護士を卒倒させ、今は拘束着で固めた上にベッドに身体拘束帯で張り付けられている。
「その状態って、何か、神秘の力にでも目覚めないかな?
不自由って、生物の進化の鍵でしょう?」
面白がる太陽に抗議の視線を向ける慎。
「ごめん、ごめん。
ああ、そうだ。新進気鋭の大地くんだけど、
どうやら、君のこと、義弟とでも思っているんじゃないかな?」
「?」
太陽の戯言はいつものことだが、慣れてきた自分でも慎には何のことやら、わからない。
太陽は端末を取り出して、沖大地VS杉原行成の煽りPVを流した。
《この二人、互いに怨敵!》
《新世代王者の借りを新生代旗手が獲る!》
《高瀬の借り、沖大地で取り戻す!》
《不倶戴天、北斗の地で、世代交代なるか!》
「……流行に置いて行かれないように、
一番早いやり方で復帰、待ってるよ」
「慌てるな、と言いたいのか、
早くしろ、と言いたいのか、どっちなんだ」
慎が吐き捨てるが、太陽は肩をすくめてサラリと躱した。
「前にも言ったけど、言ってなかったかな?
別に北斗が43期を取ってもいいんだよ。
権限がこちらに周るようには種を蒔いてある。
望澪にしたって一枚岩じゃない。
切り崩す手がまだ、ないわけじゃない」
太陽は心底楽しそうに笑った。
「これもいつも言っているが、ご老人たちの言うことを真に受けるな。
星環騎士がすべてを背負うことがおかしいんだ。
大人のことは、大人に任せなさい」
白石「……ハッ! 細工は~~
流々(りゅうりゅう)!
シッ、仕~~上げを~~
五郎次郎~~!!」
大地「何、やってんすか、白石さん?」




