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俺の腕、売ります。  作者: ももクリさんねんかきハチネン
第五章 浸食と剥離、風化する幻像
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第40話「贈る問答(メッセージプレート)」

 才能――


 可能性の怪物モンスターか。


 冷酷な現実ハンターか。




 杉原行成すぎはらゆきなり、15歳。


 騎士候補生コースも最高学年になった。

 当初の予定通りに望澪もりの星環群、澪安みみずく(研究星環)に置かれた騎士候補生コースに入学した。

 澪安に実家があるにもかかわらず、行成は学生寮住まいを迷わず選択した。

 騎士候補生コースに入学してからも、行成はひた走るのを止められなかった。


 首席で入試を突破した行成は、入学式に新入生代表で宣誓をしたことで、騎士候補生コースでは一気に有名になった。

 澪和騎士団が運営する幼年コースでは、同世代がまったく見ることのなかった顔。

 幼年コースに入学するような少年たちは、それまでどこかで何かの形で顔を合わせるものだ。


 とにかく、経歴が特異だった。


 諸角もろずみ星環群の大騎士幼年舎に途中編入、留学、首席で卒業。


 大騎士候補生学校から受けた誘いを蹴って地元に戻り、騎士候補生コースに入学。


 噂では、父親が澪和航空みわこうくうの技術・整備本部長。


 学生寮での日常生活においても、偏執的なまでの勤勉さで騎士への道を突き進むストイックさ。


 『悲願の優勝を勝ち取るために厳選された澪和騎士団の秘蔵っ子なのでは』


 そんなまことしやかな噂まで流れたのだ。

 諸角もろずみ星環群では、侮蔑と疎外の対象。

 望澪もりの星環群では、尊敬と畏怖の対象。

 努力を続けて成果を実らせるほどに、行成は孤独を募らせていく。

 むしろ、より情熱を増し、寝る間すら惜しんで精進を続ける姿に、壊れることを心配した教師たちが行成と相談のうえで毎日の強制終了の合図を取り決めるまでだった。


 初心、忘るるべからず。

 初志貫徹。


 ただただ、高瀬長門になる。


 そのためだけに。

 歪みに歪んで壊れかけた、いや、すでに壊れていた行成に福音が訪れた。





「うちの卒業生、

 OBの高瀬長門くんが、講演に来てくれることになった」


 騒然とするクラスメイト達。

 飛び上がってガッツポーズをする者さえいる。

 声を上げたいのは行成も同じはず。

 だが、そんなカロリーは騎士になるには無意味な寄り道。

 少年らしからぬ割り切った様子に、やはりか、と眉を顰める担任教師。

 行成の父や母にも相談は受けているし、3年近い付き合いでも、間違いなく行成が高瀬に崇拝に近い信奉者であることはわかっている。

 ただ、高瀬に憧れる同世代の少年たちのように、高瀬や『翠銀刀すいぎんとう』のポスターを部屋に張りもしない。


 ただ騎士になるためだけの機械エーアイ――


 人として卒業を迎えてほしい。


 両親の声も、教師の声も、行成に届かない。


 では、高瀬なら?


 思い余った担任教師が、学生時代に同室だった縁で高瀬に相談してみると、高瀬はスケジュールを調整する、とこころよく返事したのだった。


 平身低頭する担任教師に高瀬は、


「私のためだよ。

 この原点回帰は、何か、自分のためになる。

 そんな予感が、あるんだ」


 むしろ礼を言う、と返答した高瀬の変わらぬ友情に担任教師は涙をこぼした。





 講演会の当日。


《本校OB、

 澪和騎士団所属、

 高瀬長門 氏 講演会》


 何といっても卒業生OBの中では最高の人気を誇るトップリーガー。

 学生だけでなく教師、事務員まで詰めかけた講堂。


 校長の長い前置きの後、礼祭用騎士服に身を固めた高瀬長門が上手かみてから登場した。

 壇上に立った高瀬は、騎士団での熾烈な経験を落ち着いた声で語り、聴衆の心を鮮やかに惹きつけていった。

 講演の締めくくりに、高瀬の側から質問はないかと投げかけた。

 次々と手が挙がる中、高瀬は一人ひとりと視線を合わせ、誠実かつ快活に答えてみせた。

 そして、最後の一人――

 手を挙げたのは、最前列、最高学年主席の行成。





 目の前に高瀬長門がいる。

 わかっていても、胸が熱い。


「杉原行成、です。質問があります――」





 講演を終えた高瀬は、最後に力強い眼差しで後輩たちを鼓舞し、万雷の拍手が鳴り響く中、端正な礼をして舞台を降りた。

 このときの高瀬と杉原の問答は、居合わせた学生たちの胸を打ち、卒業制作プレートに形を変えて、この2人がトップリーガーとなった今も講堂に展示され、語り継がれている。





《高瀬―杉原問答

 一部抜粋》


杉原行成

『僕の人生のすべてを捧げれば、

 あなたに、届きますか?』


高瀬長門

『私に届くのか、という問いに、

 私が普段感じていることを語るのは、

 答えではありませんが……


 私は、炎城志朗ライバルを何度も倒しています。

 トップリーグでは、優勝したことがありません。

 シーズン年間1位さえありません。

 現実は常に、私の目の前にあり、

 不可能もまた、そこにあります。


 負けることは確かに辛いし、

 試合前には、未だに恐怖を覚えます。

 一方で、情熱、決意、本能が、

 そして、私の細胞の一つ一つが、

 もっと先へと叫んでいる。


 限界が、存在するのかどうか。

 私は、まだわかりません。

 私が諦めない姿勢がもたらしているものは、

 限界が、まだ先にあるという確信です。


 質問をくれた君には申し訳ないが、

 私は、君の質問に対して、

 私からの質問でしか、返せない。


 君が魂の底から望んでいることは、何ですか?

 人生のすべてを懸けて挑みたいことは、何ですか?』



 努力モンスターが、

 天才ハンターたちを食い荒らす。

 ルールも、

 常識も、

 正論という名の散弾銃ショットガンも、

 すべてを飲み込んで


 正解に書き換える――

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