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俺の腕、売ります。  作者: ももクリさんねんかきハチネン
第四章 地殻の変動、絶え間なき再編
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第37話「断奏の合間」

 騒がしい日常の中の、


 穏やかな日々。



 大地の空振り婚約騒動が落ち着いた、ある日の出来事。


 久しぶりに自宅で2人きりで過ごす大地と希倫。

 沖家は、赤銅騎士団か沖大地の応援グッズに溢れ返る瑞穂において、大地仕様のスカジャン以外の応援グッズを一切置いていないという珍しい空間。

 週4回のペースで押しかける鋼谷宅を除けば、大地にとっては気を抜ける貴重な場所だ。


 礼文慎の応援グッズが希倫の生活スペースから少し漏れ出しているのは、まあ、ご愛嬌。

 そのくせ、希倫は婚約騒動からこっち、妙にベタベタしてくる気がする。

 いや、礼文とのデート後だからか?

 兄の俺で、礼文の練習台?


 休日のお昼どきに希倫が自宅にいるのも珍しい。

 なんでも、パン屋が繁盛しすぎて業務用焼釜オーブンがパンクしたらしい。

 店に合わせた受注品でもあり、電気容量を増やす工事も併せて行うとのことで、10日間ほど休業するらしい。


 そう言えば、希倫の職場に顔を出したことなかったな。

 新装開店のお祝いくらいは、兄としてしておいた方がいいのかしら。

 昔から売れ残りのパンにもずいぶんお世話になってるしね。


 希倫が自室から顔を出した。


「お兄ちゃん、お昼ごはん、何を買ってこようか?」


 腕に礼文カラーのシュシュを巻いているのは開き直りかね、希倫。

 そうだな、里芋とジャガイモ、まだあったよな?

 鋼谷さん直伝の煮っころがし作るぞ。


 大地はソファから立ち上がって、冷蔵庫を覗いた。


 うん、里芋とジャガイモ。

 玉ねぎ、

 トマト、

 ひよこ豆……


 まずは、トマトと豆をミネストローネ風にして、さっぱりと。


 煮っころがしの方は、里芋の方が火が通るのに時間がかかるから、時間差でジャガイモを投入して、バターでこってり甘辛く仕上げれば、食が進みそうだね。


 あと一品……


 大地の目に棚にあるサバ水煮缶が目に入った。


 サバをほぐして、スライス玉ねぎ、汁に黒酢を合わせて……


 主食、里芋とジャガイモの煮っころがし(炭水化物・エネルギー源)

 主菜、サバオニオンサラダ、ソースは水煮の汁と黒酢和え(たんぱく質・良質な脂質)

 副菜、トマトと豆のスープ(ビタミン・ミネラル・食物繊維)


 ……完璧じゃん。


 希倫、すぐにお昼にするから、居間で配信でも観て、待ってな。





 低く、落ち着いたトーンのナレーションが流れている。


《――我々が見上げる宇宙には、

 社会から断たれた星環がある。


 かつての戦火か、

 あるいは、禁じられた技術か、

 はたまた、人知を超えた災厄の爪痕か。

 機能を失い、

 文明のネットワークから切り離されたその巨大な残骸を、

 我々は畏怖を込めて、こう呼んでいる。


 廃棄星環――


 そこは、立ち入り禁止の危険地帯。

 しかし、

 その静寂の裏側に何が眠っているのか、

 正確に語る者は、意外に少ない》


 重厚なBGMが静かに流れ始める。


《あなたが、ひとたび船でその領域へ近づけば、

 船内には警告信号が大きく響き、

 航行システムは強制的にAIの介入を受ける。

 あたかも、

 その場所を見ること、

 触れることそのものが、

 許されざる禁忌であるかのように……》


 ナレーションのトーンが強くなる。


《だが、例外がある。


 それが、星環騎士戦。


 この禁忌の領域を、

 限定的に解放する特殊な時間。

 なぜ――

 この場所に若き騎士を送り込むのか――》





「ねえ、お兄ちゃん。

 星環騎士戦ってさ、

 なんであんな幽霊屋敷みたいな

 不気味な場所で戦ってるの?」


 希倫はソファの背もたれに顎を乗せ、画面に映る無機質な塊を指さした。

 大地は作ったばかりの料理を丁寧にテーブルに並べていく。


 ……あー、そもそも宇宙に出てないと、そのへんの実感ないか。

 廃棄星環あそこは、一般の船舶からすりゃ、

 近寄るだけで縁起が悪い場所なんだよ。


「だから?」


 そもそも、人の生活圏で代理戦争なんてやるもんじゃないだろ。

 だから、廃棄星環あそこが選ばれてる。

 けど、廃棄星環あそこはただの空き地じゃない。


 料理を配膳し終えた大地は、ダイニングテーブルにおいでと希倫に手招きした。


 一般の船が区域に近づくだけで、

 船内にけたたましいアラートが鳴り響いて、

 AIが操縦権を剥奪してくるんだ。


 大地はずいぶん前に読んだ操縦マニュアルに付随した注意事項を思い浮かべた。

 大地自身、廃棄星環で騎士戦を相当数経験しているものの、一般船舶で侵入した経験はない。


「え、どういうこと?」


 船が勝手に、事故のフリをし始めるんだよ。

 操縦者からコントロールを奪って、勝手にSOSまで出しやがる。


 希倫はテーブルに手をついて、身を乗り出した。


「えっ、自分の船なのに?」


『事故だからAIが緊急介入しました』っていう体裁だな。

 で、強制的にやってきた救助隊なり警察なりに、

 神妙な顔で『いやぁ、事故です、助けてください』って

 言わなきゃならない。


 希倫は少し視線を落とした。


「……もし、自分で入ったって言い張ったら?」


 大地は、自分の首筋に軽く手刀を当てて、引いた。


 チョン、だよ。

 事故なら、救助対象で済むけど、

 自分の意思で入ったって言った瞬間、扱いが変わる。

 大統領令で決めた禁止区域への侵入だからな。

 この世界のシステムへの宣戦布告なんだよ。

 国家反逆どころか、星環連合への反逆行為で、極刑だったかな?

 俺たちの騎士戦は、その例外としてあそこで戦ってるわけ。


 希倫は、兄の横顔をじっと見つめた。


「とんでもないことしてたんだね、お兄ちゃん」


 妹に褒められて(?)ちょっと誇らしくなった大地は、サバオニオンサラダを頬張りながら黙って頷いた。



 冬の静寂がその余韻を閉じ、


 春の旋律が零れ始める――

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