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俺の腕、売ります。  作者: ももクリさんねんかきハチネン
第四章 地殻の変動、絶え間なき再編
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第36話「自策自演」

 これでもう、


 安易な手出しは、できないよね。


 泥棒猫さん――




北斗ほくと星環群、瑞穂みずほ(居住星環)】



 沖大地―記者会見会場。


『これより、

 赤銅騎士団所属、沖大地による記者会見を行います』


 白石美月しろいしみづきの司会を受けて、深く頭を下げる大地。

 顔を上げてスタンドマイクに向かう。


《本日は、急な集まりにお越しいただき、

 まことにありがとうございます》


 フラッシュが激しく焚かれた。


 まだ、何も言ってないんだけど。


《えー、まず最初に。

 一昨日おとといからSNSで拡散され、

 ニュースにも取り上げていただいた

 『僕の婚約』というトピックについて

 僕自身の口から説明したいと思います》


 再びフラッシュが激しく焚かれた。

 小声でコンヤク、と囁く記者たち。


 ……話を聞く気ねえのかよ。


《誤解のないように結論から、

 100%……いや、

 120%僕の勘違いも入り混じった誤解です。

 相手の方から、今現在も承諾を頂いておりません》


『ええええー?』


 大合唱が聞こえる。


 一緒に不満げな声出している、そこな白石しろいしさんよ。

 あんた、当事者だろうが。


《従いまして、僕が婚約した、という事実はありません》


《ただ、あの日の僕は完全に暴走していました。

 その結果、皆様に誤解を与え、

 相手の女性にまで多大なご迷惑をかけてしまいましたことを

 この場を借りて、深くお詫び申し上げます》


 大地はもう一度、深く頭を下げた。


 このまま、頭を上げたくねえな。


『それでは、ご質問のある方は挙手をお願いします。

 指名された方は、最初にご所属とお名前をお願いします。

 本日は時間の都合上、

 お一人様につき、1問で簡潔にお願いいたします』


 何人かが、手を挙げていた。

 前列中央の男が指名された。


『ミズホウドウ通信の、旗傍揺真はたはた・ゆうまと申します。

 婚約は誤解、というご説明でしたが、

 誤解の相手である女性とは、どのようなご関係でしょうか?』


 年上の上司にデートを口実に

 妹のデートの監視に引っ張り出されて、

 妹がらみで揶揄からかわれたので

 困らせるつもりでプロポーズしてやったぜ――


 ……誰が、信じるんだよ。


 当日の真相について、もっともらしく嘘をつかねばならない。


 大地は記者側に少し身を乗り出した。


《お相手は、僕が長年お世話になっている方で、

 憧れというか、高嶺の花というか……

 まあ、とにかく一般女性です》


 質問を終えた旗傍はたはたが着席した後も、大地は話し続けた。


《昨日の騒動、完全に僕の暴走でした。

 ちょっと……僕が舞い上がってしまって。

 日頃のお礼を言うつもりだったんですが、

、その、積もり積もった想いまで爆発して、

 あんな衆人環視の中で、ついプロポーズ……》


 若者の必死さが、居合わせた記者を微笑ませる。


 地元の英雄の恋バナ。


 一大トピックではあるが、成就してからでもいいだろ――


 質問されてもいないのに、大地の釈明は続く。


《彼女は、あまりの僕の支離滅裂な言動に呆れ果てて、

 まず落ち着きなさい、と僕の肩を掴んで抑えてくれたんです。

 でも、パニックになっていた僕は、

 抱きしめてくれたってことはOKなんだと、

 勝手に勘違いしてはしゃいでしまって……

 周囲の皆さんも『おめでとう』と祝ってもらえて

 さらに調子に乗って……

 今は、その、僕も落ち着きまして……

 あの、その、彼女にも、

 祝ってくれた方々にも、

 大変、申し訳なく、その……》


 収拾をつけられない大地を見かねて、

 着席していた旗傍はたはたがもう一度立ち上がり、

 もう充分です、と手で制するジェスチャーをした。


『それでは、他にご質問のある方は挙手をお願いします』


 記者たちは互いに顔を合わせた。


『……仕事じゃなきゃ、ここで帰るよな?』


『下手に騒いで、おジャンにしたら気の毒すぎる……』


『誰か、キャッチなそれっぽいのを引き出してよ。

 さっさと引き上げようぜ』


『ドーテイですかって、聞いてみるか?』


『顔に書いてあるもんを、聞くまでもあるか?』


『うーん、青春の暴走でも、十分じゃないすか?

 締めの言葉、私が貰いますね?』


 若手の記者が火中の栗を拾って挙手した。


『北斗配信協会瑞穂支局の、江野英恵えのひでよしと申します。

 今回の婚約騒動は誤解、というか、

 沖さんの早とちり、とのご説明でしたが、

 我々報道や、ファンの皆様に向けて

 何か、メッセージはございますか?』


 転がしても美味しいゴシップに化けそうもないネタだし、

 それなら見守ってハッピーなネタになるまで育ってほしい。

 記者側からの、敢えての助け舟である。


 大地が救いを求めて司会の白石の方を見ると、右手をちょんちょんと動かしているのが見えた。


 終わらせても、いいらしい。


 大地は深呼吸をして、息を整えた。


『では、一つだけ、お願いがあります。

 彼女は、普通の一般女性です。

 今回、僕の未熟な振る舞いのせいで、

 皆様に多大なご迷惑をおかけしてしまいました。

 僕を応援していただけることは、感謝をしています。

 ただ、僕と彼女のことについては、

 静かに、見守ってください。

 よろしくお願いします」


 大地は三度みたび、頭を下げた。


 何で、こんな羽目になったんだ?

 いや、俺が衆人環視の下でやらかしたせいだけども!

 自業自得ってほど、酷いことしたか?


『それでは、他にご質問もないようですので、

 記者会見を終了いたします』


 いつの間にか、大地のすぐ横に白石が寄り添っている。


 意味わかんねえ。


 何で並みいる記者のド真ん前で、俺の腕を組むの?


 普通に退場すれば、いいじゃん?


 ミズホウドウ通信の旗傍や

 北斗配信協会瑞穂支局の江野が、

 わかってます、

 配信もう切ってます、

 オフレコ徹底しますから、と口パクしていた。


 でも、今日一番のフラッシュの嵐が吹き荒れた。


 これ、本当に、オフレコになるんだろうな?




都並「これで、くだらない干渉も終わりだといいんだけどね」


白石「まだ介入を続けるなら、本気出しますよ」


都並「???」


白石「あの子に恋愛感情なんてないですけど、

   持っていかれるくらいなら、自分で囲います」


都並「……時々、君の割り切りが怖くなるよ」


白石「かわいい、とは思ってますよ」

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