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俺の腕、売ります。  作者: ももクリさんねんかきハチネン
第四章 地殻の変動、絶え間なき再編
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第35話「自業自爆」

 交わるえにし


 解けぬ交差。


 宿縁を導く、新たな対峙――



北斗ほくと星環群、瑞穂みずほ(居住星環)】


『本当に誘ったの?』


 あの後、竹島に報告すると、呆れられた。


 相談するフリして、デートとかの話題になったら、

 誘えって言ったの、健ちゃんじゃん。


『……白石さん、絶対に乗ってこないと思ったんだけどな。

 まあ、お前にとっては僥倖ラッキーじゃないか。

 とにかく、思い切り攻めて、それで玉砕して来い。

 終わったら、愚痴くらい聞いてやる』


 とりあえず睡眠時間を削って、デートの内容を必死にリサーチした。

 何せ、生まれてこのかた異性と二人きりで出かけたことなどない。

 健ちゃんに助けを求めると、いっぺん自分でやってみな、と笑顔で拒否された。


 だから――


 やったことねえんだよ――


 行き先。(見当もつかねえ)


 交通機関。(車なんてろくに運転してねえし、

       白石さんに運転するなって禁止されてる)


 集合場所と時間。(まず行き先だろ)


 ご飯。(白石さんが、何を好きかも知らねえ)


 それから――





 それでも無理やり6つのパターンに絞り込み、騎士団事務所で白石と二人になったタイミングを見計らい、というか、他のみんなに気を使ってもらって二人にしてもらい――


 あ、あの、プラン、もってきま……


「大地くん、デートだけど、ちょうどいいコースがあってね」


 あえなく玉砕。


 手まで握られたら、俺、反対なんかできないじゃん。

 しかも、これっていつものパターン……





 瑞穂には珍しい、お洒落なカフェ。


 大地はかなり大きめの遮光グラスで大人しめの変装。

 服装は年相応にラフな格好。


 白石の方は、相当に気合の入ったシャンパンドレス風のワンピース。


 傍目には、アンバランスな男女の組み合わせ。


「大地くーん、はい、あーん」


 指示に従い、口を開けるとほんのり甘い何かが口内に放り込まれる。


「おいしい?」


 周りに恋人ぽく見えるように、大地が頷く。


 ……駄目だ。


 顔の方は、どうにもなんねえ。


 これ、デートなのか?


 ……監視じゃん。


 そう、希倫と男が楽しそうに会話デートしているのを監視する役。


 何だこれ。拷問か、何かか?


 正面の白石さんにも、うっかり睨んでしまう。


「怖い顔、しないの。

 希倫さん、とても頑張ってるんだから」


 そうでしょうよ。


 頑張っているのも。


 デートしてるのも。


 俺じゃなくて、希倫だけどな。


 席は5メートルほど先だけど、希倫が、俺には絶対見せない、はにかんだ笑顔で、相手の男の話に楽しそうに相槌を打ってやがる。


 ……限界だ。


 白石さんを連れ出して、楽しいところに行くか、

 希倫の相手をぶん殴るか、


 白石さんを連れ出して、楽しいところに行くか、

 希倫の相手を蹴飛ばすか、


 白石さんを連れ出して、楽しいところに行くか、

 希倫の相手をパロスペシャルで……


「声に出てるわ。

 少し、歩く?

 あの二人が見える範囲に限るけど」


 その笑顔、まんま、昔話のキツネだよね。


 ……腕を組まれちゃ、そりゃ、行きますよ……

 柔らかい……





 説明は、カフェに来た時に受けていた。


 希倫のお相手は、礼文慎。

 今では、子どもでも知っている星環騎士。

 そして、トップリーグの現在1位。


 よりにもよって、こいつなのかよ。


「あちらは、デートじゃないって、教えたでしょ?」


 白石さんの頭が、俺の肩に……


「何で、礼文の公認ファンクラブ。

 しかも、希倫が代表っ。おかしいだろ」


「まだ、公認じゃないし、

 公認ファンクラブ代表でもないわよ」


 白石さんの指が、俺の唇に……


 静かにしろってことね。

 なら、何で俺をここに来させたんだよ。


「んー、後から知るより、

 今のうちに知ってもらう方がいいかなーと思って」


 ひとしきり歩いた大地たちは元の席に腰かけた。


「前期シリーズ王者にして、今シリーズの年間優勝をすでに2度」


 白石は大地の手を搦め取ってVの字の形にした。


 知ってるよ。


 あっちはトップ・オブ・トップ。

 こっちはランカーと名乗るのもおこがましい順位。


 白石はゆっくりと首を横に振る。


「年の近いトップリーガーで目ぼしいのは……」


 搦めた手を放した白石は、大地を指した。


「若き正統派王者の対岸に立てる、

 憎まれ役のライバル候補が、ほら、ここに……」


 ……憎まれ役は、わかる。


 ライバル? 俺が?


「鈍感な騎士運でも、

 あなたの価値に気づくのは、そう先じゃないわ」


 大事なことは、と白石は前置きをした。


「礼文とあなたが戦うとき、

 希倫タリスマンは、あなたのそばにいないわよ」


 そのことを、今からわかっておいてね、白石は無邪気にクスクス笑った。


 こんなところで、希倫がらみで揶揄からかいやがって。


 意趣返し。


 大地は遮光グラスを大げさに外し、席を立ち上がると、わざと音を立ててテーブルに手を置いた。


 周囲の注目が大地に集まる。


 希倫や礼文もこっちを見ただろうか。


「白石美月さん、俺、沖大地と、け、け……結婚を前提にっ!」


 その日の夕方、瑞穂に山火事のような大スクープが広がった。





 赤銅騎士団格納庫。


「で、何を相談したいの? 惚気?」


 ただ、困らせようと、しただけなんだよ。


「困ってるの、お前じゃん」


 竹島はケタケタ笑った。


「へへへ、

 俺より、唐突に、口説く気もなくプロポーズ、

 ヘヘヘ……」


 こらえきれず竹島が膝をついた。


「いいじゃないか、歳の差は……

 俺が口出すことじゃないし。

 お前くらいふわふわした奴は、

 姐さん女房の方が落ち着くと思うよ?」


 まだ笑いのおさまらない竹島は、涙を拭った。





諸角もろずみ星環群、丹鶴にかく(居住星環)】


 礼文家本宅の一室。


 大地と白石の婚約騒動を耳にして、礼文・但馬・太陽は人目をはばからず笑い転げた。


「いやー、慎くんに、謝らないとね、ホント」


 まだ笑いのおさまらない太陽は、涙を拭った。


「偶然か、こちらの動きを察してか、

 大地くんをがっちり絡めとってきたよ。

 それにしても、人間関係って、侮れないものだね」



 大抵のトラブルは、


 人に巻き込まれるより、


 人を巻き込んだ結果である。

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