第35話「自業自爆」
交わる縁
解けぬ交差。
宿縁を導く、新たな対峙――
【北斗星環群、瑞穂(居住星環)】
『本当に誘ったの?』
あの後、竹島に報告すると、呆れられた。
相談するフリして、デートとかの話題になったら、
誘えって言ったの、健ちゃんじゃん。
『……白石さん、絶対に乗ってこないと思ったんだけどな。
まあ、お前にとっては僥倖じゃないか。
とにかく、思い切り攻めて、それで玉砕して来い。
終わったら、愚痴くらい聞いてやる』
とりあえず睡眠時間を削って、デートの内容を必死にリサーチした。
何せ、生まれてこのかた異性と二人きりで出かけたことなどない。
健ちゃんに助けを求めると、いっぺん自分でやってみな、と笑顔で拒否された。
だから――
やったことねえんだよ――
行き先。(見当もつかねえ)
交通機関。(車なんてろくに運転してねえし、
白石さんに運転するなって禁止されてる)
集合場所と時間。(まず行き先だろ)
ご飯。(白石さんが、何を好きかも知らねえ)
それから――
それでも無理やり6つのパターンに絞り込み、騎士団事務所で白石と二人になったタイミングを見計らい、というか、他のみんなに気を使ってもらって二人にしてもらい――
あ、あの、プラン、もってきま……
「大地くん、デートだけど、ちょうどいいコースがあってね」
あえなく玉砕。
手まで握られたら、俺、反対なんかできないじゃん。
しかも、これっていつものパターン……
瑞穂には珍しい、お洒落なカフェ。
大地はかなり大きめの遮光グラスで大人しめの変装。
服装は年相応にラフな格好。
白石の方は、相当に気合の入ったシャンパンドレス風のワンピース。
傍目には、アンバランスな男女の組み合わせ。
「大地くーん、はい、あーん」
指示に従い、口を開けるとほんのり甘い何かが口内に放り込まれる。
「おいしい?」
周りに恋人ぽく見えるように、大地が頷く。
……駄目だ。
顔の方は、どうにもなんねえ。
これ、デートなのか?
……監視じゃん。
そう、希倫と男が楽しそうに会話しているのを監視する役。
何だこれ。拷問か、何かか?
正面の白石さんにも、うっかり睨んでしまう。
「怖い顔、しないの。
希倫さん、とても頑張ってるんだから」
そうでしょうよ。
頑張っているのも。
デートしてるのも。
俺じゃなくて、希倫だけどな。
席は5メートルほど先だけど、希倫が、俺には絶対見せない、はにかんだ笑顔で、相手の男の話に楽しそうに相槌を打ってやがる。
……限界だ。
白石さんを連れ出して、楽しいところに行くか、
希倫の相手をぶん殴るか、
白石さんを連れ出して、楽しいところに行くか、
希倫の相手を蹴飛ばすか、
白石さんを連れ出して、楽しいところに行くか、
希倫の相手をパロスペシャルで……
「声に出てるわ。
少し、歩く?
あの二人が見える範囲に限るけど」
その笑顔、まんま、昔話のキツネだよね。
……腕を組まれちゃ、そりゃ、行きますよ……
柔らかい……
説明は、カフェに来た時に受けていた。
希倫のお相手は、礼文慎。
今では、子どもでも知っている星環騎士。
そして、トップリーグの現在1位。
よりにもよって、こいつなのかよ。
「あちらは、デートじゃないって、教えたでしょ?」
白石さんの頭が、俺の肩に……
「何で、礼文の公認ファンクラブ。
しかも、希倫が代表っ。おかしいだろ」
「まだ、公認じゃないし、
公認ファンクラブ代表でもないわよ」
白石さんの指が、俺の唇に……
静かにしろってことね。
なら、何で俺をここに来させたんだよ。
「んー、後から知るより、
今のうちに知ってもらう方がいいかなーと思って」
ひとしきり歩いた大地たちは元の席に腰かけた。
「前期シリーズ王者にして、今シリーズの年間優勝をすでに2度」
白石は大地の手を搦め取ってVの字の形にした。
知ってるよ。
あっちはトップ・オブ・トップ。
こっちはランカーと名乗るのもおこがましい順位。
白石はゆっくりと首を横に振る。
「年の近いトップリーガーで目ぼしいのは……」
搦めた手を放した白石は、大地を指した。
「若き正統派王者の対岸に立てる、
憎まれ役のライバル候補が、ほら、ここに……」
……憎まれ役は、わかる。
ライバル? 俺が?
「鈍感な騎士運でも、
あなたの価値に気づくのは、そう先じゃないわ」
大事なことは、と白石は前置きをした。
「礼文とあなたが戦うとき、
希倫は、あなたのそばにいないわよ」
そのことを、今からわかっておいてね、白石は無邪気にクスクス笑った。
こんなところで、希倫がらみで揶揄いやがって。
意趣返し。
大地は遮光グラスを大げさに外し、席を立ち上がると、わざと音を立ててテーブルに手を置いた。
周囲の注目が大地に集まる。
希倫や礼文もこっちを見ただろうか。
「白石美月さん、俺、沖大地と、け、け……結婚を前提にっ!」
その日の夕方、瑞穂に山火事のような大スクープが広がった。
赤銅騎士団格納庫。
「で、何を相談したいの? 惚気?」
ただ、困らせようと、しただけなんだよ。
「困ってるの、お前じゃん」
竹島はケタケタ笑った。
「へへへ、
俺より、唐突に、口説く気もなくプロポーズ、
ヘヘヘ……」
こらえきれず竹島が膝をついた。
「いいじゃないか、歳の差は……
俺が口出すことじゃないし。
お前くらいふわふわした奴は、
姐さん女房の方が落ち着くと思うよ?」
まだ笑いのおさまらない竹島は、涙を拭った。
【諸角星環群、丹鶴(居住星環)】
礼文家本宅の一室。
大地と白石の婚約騒動を耳にして、礼文・但馬・太陽は人目をはばからず笑い転げた。
「いやー、慎くんに、謝らないとね、ホント」
まだ笑いのおさまらない太陽は、涙を拭った。
「偶然か、こちらの動きを察してか、
大地くんをがっちり絡めとってきたよ。
それにしても、人間関係って、侮れないものだね」
大抵のトラブルは、
人に巻き込まれるより、
人を巻き込んだ結果である。




