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俺の腕、売ります。  作者: ももクリさんねんかきハチネン
第四章 地殻の変動、絶え間なき再編
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幕間「寄因(よいん)」

 立ちはだかる難敵を、くだした。


 だが、スタートラインに立ったに過ぎない――




北斗ほくと星環群、瑞穂みずほ(居住星環)】


 勝利に懐疑的であった瑞穂住人の脳髄ごと、殴り飛ばすような圧勝劇。

 瑞穂は勝利に沸きかえり、美酒に酔った。

 大地の信奉者たちはこぞって、勝ち騎士投票券の儲けをそのまま吐き出し、大地のアンチにすら酒をおごり肩を組んで踊った。





 大網商事おおあみしょうじ第1会議室。


「……現金なものですね」


「いいじゃないか。情勢に酔えるのは彼らの特権でもある」


「今回ばかりは、投票できない規則を恨みました」


「……気持ちはわかるが、口にするな。

 どこに誰の耳があるか、わからんのだ」


 都並は唇に人差し指を当てた。


「情報操作される恐ろしさは、つい最近も味わっただろう?」





【北斗総督府(出雲いずも(政治星環))執務室】


「ま、よし。勝ち騎士投票券は無駄にならなかったわけだしな」


 大地の勝ちを確認した北斗総督の鈴来すずきは、壁面のモニターの映像をオフにした。


「……投票されてたのですか?」


 秘書は訝しんだ。

 目の前のこの男は、ずいぶん阿漕あこぎな手段で沖騎士の妨害をしていたのではなかったか。


「もちろんだよ」


 どちらに転んでも利があるように、鈴来すずき総督は苦笑しながら、そう答えた。


「高瀬に賭けていたというなら、モラルや八百長で責められるかもしれんが、自分の星環群の騎士団が勝つ方に賭けるのは、北斗総督としてはごく当然じゃないかね?」


 まったく食えない狸である。

 しかし、総督ともなれば『騎士団の管理、編成、契約又は指揮に関与する者』に該当しはしないか?


「……星環群代表に投票した総督を、いったい誰が裁くのかね? 拍手で迎えられると自負しているのだがね」


 まさにその言葉を裏付ける、外から聞こえてくる喧噪。

 政治星環の出雲ですらこれだ。

 わざとらしく肩をすくめる鈴来すずき

 秘書は聞かなかったことにした。


「それはそれとして、どれくらい投票なさったので?」


「私の、小遣いの範囲だ。

 妻に知られてもいい程度でね……」


 投票額を耳にした秘書は驚愕した。


 自分の年収の倍より多い金額……


「ああ、驚かせてしまったかな。

 小遣いと言っても、積み立てで残っていた額からだよ。

 忙しくて、ここ何年かろくに使えていなかったからね。

 お金は持っている者が使わないと、

 ただでさえ厳しい瑞穂経済が回らないだろう?」


 単なる勝敗結果から、成立した勝利条件、勝利時間まで、それぞれ分散しての投票だとは思うが、いずれにしても今回の沖騎士の勝利のオッズはとんでもなく高かったはずだ。


「どれくらい浮いたのかを、お伺いしても?」


 鈴来すずきは滅多に見せない、無邪気で自慢げな笑みを浮かべた。


「教えるのは、税務署にだけだ。

 でないと、いつの間にか妻の耳に入ってしまうからね」


 くわばら、くわばら。





【参考資料 星環騎士戦投票規則(星環歴159年第4号)より抜粋】


第29条(投票の制限)


1 次に掲げる者は、当該対戦に直接関与する場合に限り、当該対戦について勝ち騎士投票を行い、又はこれを他人に行わせてはならない。

(1)星環騎士

(2)当該対戦に参加する騎士団の構成員

(3)当該対戦に係る騎士艇の整備、開発、調整又は運用に従事する者

(4)当該対戦に係る騎士団の管理、編成、契約又は指揮に関与する者

(5)当該対戦の裁定、判定その他成立又は終了に関与する者

(6)当該対戦に係る投票の受付、集計、配当、配信又は関連情報の管理に関与する者


2 前項各号に掲げる者は、他人の投票意思に対し、当該対戦の結果に影響を及ぼす目的をもって介入してはならない。


3 前各項に掲げる者から、当該対戦に関する非公開情報の提供を受けた者は、当該情報に係る対戦について投票を行ってはならない。


4 星環騎士戦運営委員会は、投票の信頼性を確保するため必要があると認めるときは、前各項に準じて投票を制限することができる。





望澪もりの星環群、伏露ふくろ(居住星環)】


 ホテル古珀苑こはくえん


 大地たちの泊まる一室。


《本日、行われました伏露ふくろ知事の定例会見によりますと、第9区画エアロックが開放されたままになっていた事故があったことが公表されました》


 ベッドから転げ落ちた大地の視界に、垂れ流しのモニターのニュース配信が入ってきた。

 昨夜戻って、そのまま寝てしまっていたようだ。

 同室の竹島はというと、自分の方ではなく大地のベッドにもぐりこみ、今まさに寝床の主を追い出したところだった。


《現場の倉庫内に保管されていた宇宙服には持ち出しの形跡は確認されず、数にも変動はなかったということで、メンテナンス時の閉め忘れなど、人為的なミスの可能性について調査……》


 空いた酒瓶がいくつも散らかったままの部屋。

 昨夜の記憶が、大地の脳裏に断片的に浮かんだ。


 ……もう、こんな時間か。


 陽も明けない朝にしては、物々しいニュースだ。

 寝ぼけた頭で何か考えようとしたが、すぐにどうでもよくなった。

 主のいない、竹島のベッドを眺めた。


《続いてのニュースです……》


 明暗、じゃなくて名案。


 二度寝!





 誰かの夢の中。


 なぜなぜ科学相談室。


 研究所員Aがボードを運んできた。


『外装部の電磁力スラスター、あの火花は何だったのか?』


「研究所員Aです。

 大地さん、わかんないなーと思ったら、

 『電磁力は魔法です』と唱えて回れ右してください」


「電磁力スラスターって何?」


「様々な物理法則が絡んでいるですが、

 大雑把に、パスカルさんとモンローさんがわかれば、十分です。

 まず、パスカルさんは、

 『密閉された容器内の流体に加えられた圧力は、

 流体のすべての部分に等しく伝わる』、

 次に、モンローさんは、

 『密閉された容器の一か所に逃げ場がある時に、

 その逃げ場に向かって、

 容器内に充満した圧力が一気に噴出する』ですね。

 要は、ジェット噴射しますよってことですね」


「なるほど、ジェット噴射だね」


「物理スラスターにはどうしても限界があって、

 ノズルの長さを延ばすと質量が増えるし、

 バランスが悪くなって取り回しが面倒になる。

 それだけじゃなくって、発射時の反動は増えるし

 固定が不十分だとむしろ噴射の精度は悪化してしまう」


「騎士艇もだけど、

 デブリ除去作業船のスラスターノズルって短いけど、

 割と思い通りに動かせるよ」


「……君ぃ、天才だよ」


「えへへ」



 研究所員Aがボードを裏返した。


『電磁力を推力に利用って意味わかんない』


「一口に電磁力を推進にといっても、いろいろモデルがあるよ。

 愉快なものでは、キャタピラードライブってのがあるんだ。

 ただ、万力鎖くらいならいいんだけど、

 でかい質量を動かすにはパワーが足りないんだよね。

 でも、ロマン溢れる夢エンジンだから、

 より強力なキャタピラー研究は、いつも誰かがやっている感じ」


「へー、そうなんだ(結局どうやって進むんだろう)」


「考え方を変えればいい。

 さっきの話の続きになっちゃうけど、

 電磁力には、ノズルとして専念していただけばいい」


「???」


「そうするとね、

 スラスターに物理的な制約がほぼなくなるというか。

 銃と同じでね、

 スラスターノズルが長いほど機動が安定するし、

 噴射の精度も、上がる……」


「えーと?」


「レールガンの仕組みを、もっと極端にする。

 電磁力はノズルだけ。

 中で、えーと、

 例として、燃料を点火すると、

 モンロー効果で、

 とても長くて安定した電磁ノズルの中を走り抜ける。

 つまり軽くて頑丈なスラスター、一丁上りってわけ」


「……つまり、騎士艇の外側にスラスターが発生するってことでいい?」


「それで、いいよー」





 再び、大地たちの泊まる一室。


 大地は目をしょぼしょぼさせた。

 喉が異様に乾いている。


「……何か、余計疲れた」


 カーテンを閉めていなかった窓から差してくる陽光が、

 ずいぶん強い。

 きちんとカーテンを閉めてから二度寝するべきだったか。


 くう。


 お腹が、鳴った。



 ここは、夜の果て。


 朝が、来たよ――

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