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俺の腕、売ります。  作者: ももクリさんねんかきハチネン
第三章 地熱の胎動、堅牢なる盤石
36/59

幕間「騒がしい凪、あるいは平穏に見えない平和」

 静寂を求めて耳を澄ませば――


 喧騒けんそうだけが聞こえる――



望澪もりの星環群、伏露ふくろ(居住星環)】


 望澪もりのの英雄が、デビューから28連勝を続けていたトップリーグの新参者を返り討ち。

 最近は勝ち星から遠ざかっていた高瀬の快勝ともなれば、伏露が湧かないわけはなかった。

 連日飲めや歌えやの大騒ぎが繰り広げられ、7日目に高瀬の戦勝パレードまでして、ようやく熱が収まったほどである。





 ……うるせえ。


 精一杯リクライニングしたシートにもたれかかった大地が、小声で不平を言った。

 パレードを横目に、これからベイエリアに向かうところだ。

 つい先週に心停止まで及んだことを思えば、望澪もりのの最新医療技術をもってしても奇蹟の類の回復であった。

 予後も、非常に安定していることから、退院許可が出たところである。


 せめて、白石さんがいてくれたらなあ。


 大地は知らないことであるが、意識が戻るまで、白石は付き添いをしていたのだ。

 その後は、医療スタッフに任せて事後処理のために帰郷してしまったのであった。

 滅多に来るところではないが、自分が命を落としかけた地でゆっくり観光する気にもならないので、さっさと帰りたい大地であった。


「大地、サバサンドの食い納めでもするか?」


 隣の鋼谷が大地を気遣う。

 大地は手を口元、それから胸元からわき腹に当てた。

 手には、服の生地越しにバストバンドで固定されたコルセットの感触。

 痛みはだいぶ引いたものの、負傷個所を中心に引っ張られるような違和感は残っている。


 食欲はあるはずだが、食べたくはない――


「……消化のいいものにしておくか。そこの角を曲がった先の店に」


 運転手に行き先を指示する鋼谷。

 真っ赤な看板とわかりやすいロゴの店だ。


「ここの、いちごカツカレーシェイクが絶品でな。あとは、おじやパイも合わせて買ってくる。待ってろ」


 なんだよ、そのゲテモノは。


 止める間もなく、鋼谷は車から出てその店に入ってしまった。


 腹が減っていたせいか、存外、いちごカツカレーシェイクは美味しかった。


 ……空腹ってやべえな。





【北斗星環群、和刻わこく(工業星環)】


 承知工業本社 開発区画。


 風鈴寺博士が、あらわれた。


「私が、来た!」


「いえ、あの、

 お忙しい身を煩わせるのも、アレなので、

 リモートで大丈夫ですと、申し上……」


 相変わらず、物凄い圧だ、承福鉄平は思った。

 久しぶりの恩師との邂逅ではあるが、5メートルは距離を置いていたい。

 十余年前、恩師の元から離れて実家に戻る際、寂しくはあるがほっとしたことを今更ながら思い出した。


「こんな面白いこと、

 現場に来ないわけにはいかんだろうが」


 同行されている奥方がこちらを睨んでいなければ、ここまで居心地が悪くもないのだが。


「……お久しぶりです。鉄平さん」


「お世話になります」


 こちらのホームなのに、何で気まずいんだ?


「まずは、開発チームと打ち合わせを……」


「まずは、こちらの社長さんに、でしょう。

 行きますよ」


「いや、裕次朗くんなら、この間挨拶したばかりで、

 ちょい、耳、耳は、なしっ」


 秘書の案内に従い、奥方は容赦なく博士の耳を捻って引っ張って行った。

 これもまた、鉄平には見慣れた光景であった。





【北斗星環群、山津やまつ(研究星環)】


 とある研究所。


 研究員Aが言った。


「ここらの資料まるごと、ロックかかってんだけど?」


 研究員Bは振り返らず答えた。


「あー、昨夜、風鈴寺センセーが来て、

 直々に色々な開発データに封禁かましてたぞ。

 これ、その封禁リスト」


 研究所員Bはそのリストを共有掲示板のページを開いて指し示した。


「げーっ、俺の研究テーマ、

 ほぼ被ってんじゃん」


「そりゃ、お気の毒」


 研究所員Bは、さして同情してる風もなく去って行った。


「やること、なくなっちまったなあ」


 仕事のなくなった研究所員Aは、とりあえず博士のいる和刻に行くことにした。


 この研究所員A。


 「軽量な機構」、


 「大きな出力」、


 「粘り強いトルク」、


 「柔軟な追従性」を併せ持つ、


 新型空気圧機動の開発主任である――





【北斗星環群、瑞穂(居住星環)】


 ナニ、これ?


 気圧調整室、検疫ブースをようやく抜けた俺を、100人を超える観衆が待っていた。


『沖ー、沖ー、こっち向いて―』


『大地さーーーん』


 最前列なんて、


『サイン、サインくれー!』


 誰のサインが欲しいのさ?


 後方じゃ、


『見えない、どいて。前の、どけってば』


 何を見たいんだよ。

 俺、ボロボロにされてきたんだぞ。


 よく見りゃ後ろの方には、


《お帰り、我らが瑞穂の誇り》


《不死身の男、沖大地》


 なかなか気持ちの悪い横断幕が張ってあった。


 俺が今、生きてるのは、

 医療スタッフのお陰ってことぐらい、わかってる。


 勝手に不死身にすんなし。


 鋼谷さんは、俺の荷物も受け取りに行ってるから、ここにはいない。


 つまり、俺を守る生命線は、俺の目の前でラグビーのスクラムみたいにがっちり肩を組んだ警備員が握ってるってわけ。


「下がってーっ。下がれ――」


 この人数で、よく観衆を押し返しているもんだ。


「大地、待たせたな、車は向こうにある。行くぞ」


 鋼谷さんって、やっぱ元トップリーガーの余裕かしら。


 これ見て平然としてるの、凄いね。


「お前の家に、

 この莫迦騒ぎを連れて行くわけにはいかん。

 しばらく、俺の家に泊まれ」


 お気遣い、恐れ入ります……


 沖だけに?



 開発コード:CU95S、

 仮称『赤銅气しゃくどうき

 凍結解除。


 正式運用名を『赤銅驥しゃくどうき』と命名する――


 搭乗者の登録をしてください。 <Y/N>


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