表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の腕、売ります。  作者: ももクリさんねんかきハチネン
第三章 地熱の胎動、堅牢なる盤石
32/60

第24話「望惹無尽」

 札勝負ポーカーだったら、降伏フォールド


 騎士戦だから、勝負コール――


 無機質な開始ブザーが、互いの操縦席内に響いた。

 だが、どちらも動かない。

 初動から『翠銀弓すいぎんきゅう』が最高加速で間合いを潰し、『赤銅鬼Ⅱ』を一撃圏内へ追い込むのだと、誰もがそういう展開になると考えていた。

 ところが、高瀬までもが動かない。


 やがて、『赤銅鬼Ⅱ』は細かく刻むように位置を変えた。

 推進は大きく吹かさない。

 姿勢制御もわずかに、微妙に直線ではない軌道で『翠銀弓』を誘う。

 しかし、『翠銀弓』は微動だにしない。





 大地は、わずかに息を吐いた。


 ……安易な誘いには、乗ってくれませんか。


 どの道、この広い無重力空間で、あの『翠銀弓』に打てる手は少ない。


 しょうがないなあ。


 大地は腹をくくって、サブモニターに目を向けた。

 視線の先は、廃棄星環、旭多あくた

 鈍色の外壁が、遠くに浮かんでいる。

 大地は、露骨に『赤銅鬼Ⅱ』の進路を旭多へ向けた。

 見え見えの誘い。

 しかしあえて、読み合いさえ捨てた。

 性能差があり過ぎて、こちらの起動を気にも留めていないなら、フェイントやフェイクに意味がない。


 乗ってこないなら、乗らざるを得なくなっていただきましょうか。


 『赤銅鬼Ⅱ』は『翠銀弓』を置き去りにして、一気に旭多に向かっていく。





「そう、旭多を使うしか、ないよな」


 高瀬は、モニター越しに『赤銅鬼Ⅱ』を見ていた。



「外壁を選ぶなら、そのまま墓場にしてやる」


 その口元が、わずかに歪む。


「ベイエリアなら、地獄を見せてやる」


 サードリーグ。

 文明の死骸と宇宙の境目における戦闘。

 そこを経験せずに、トップリーグへ上がった者はいない。

 高瀬は掌を開いては、操縦桿を何度も握りなおした。

 そして自分のタイミングを図りつつ、チラチラと計器に目をやった。


 低重力。


 壁面反射。


 狭隘空間。


 そのすべてを、高瀬は知っている。


「推力差は、宇宙よりも、

 低重力下でこそ、絶対だ」


 『翠銀弓』の推進系が、低く唸った。





 観戦室で、杉原行成が眉をひそめた。


「……相手の誘いに、わざわざ乗る?」


 旭多へ誘う『赤銅鬼Ⅱ』の狙いは明白だ。

 限定された空間であれば『翠銀弓』の脚は奪える。


 しかし――


「『翠銀弓』のスピードなら、簡単に撃ち抜けるのに……」


 まだ、高瀬は動かない。

 杉原は小さく首を振った。


「何をしてるんだ、高瀬さんっ」


 相手に合わせなくたって、いいだろう――





 大地の喉が鳴った。

 旭多のベイエリアはもう目の前だ。





「……待たせたな」


 高瀬がスロットルをいきなり全開にした。


 超加速。


 これこそが『翠銀弓』の本領発揮。

 加速開始のわずか数秒で最高速度到達。

 距離を空けた2体の差が見る見る縮まっていった。

 そして、吶喊とっかんの直撃をかわそうとした『赤銅鬼Ⅱ』を広げた腕で巻き込み、旭多の旧ベイエリア付近にもろともに突っ込んだ。





 ドームの観客が一斉に沸いた。


「来たー、高瀬の吶喊占い!」


「どうよ、どうよ、大吉か? 大凶か?」


 これがあるから、高瀬はやめられない。


『タカセ、タカセ、タカセ――』


 自然発生する高瀬コール。

 大画面には、伏した『赤銅鬼Ⅱ』と、ゆっくりと立ち上がる『翠銀弓』の姿が大写しになった。

 まだ勝負はついていない。

 だが、観客はガッツポーズで高瀬の勝利を確信している。

 高瀬の調子次第の吶喊占い――大当たりの予感だ。





「今日は、キレキレの方か。……最悪だ」

 関係者席の鋼谷が首を振った。

 鋼谷の脳裏に、昨夜の大地の言葉が蘇る。


 遅くまでの鋼谷との打ち合わせで、大地は珍しく言葉を濁していた。


「場外が駄目なら、

 廃棄星環を背にするしかなさそう……」


 大地はそこで小首をかしげた。


「……でも、それって、

 そのまま叩きつけられたら、冗談ごとじゃ済まない」


 鋼谷は黙ったまま、大地を見ていた。


「というか、

 さすがに廃棄星環まで突っ込んでくることはないよね。

 何を企んでいるか、見え見えだし」


 こちらが手も足も出ない最高加速、最高速度、場外際をものともしない技能。


「向こうの武器を、一つ奪う」


 なら、最高速度にさせない方向で。

 廃棄星環のコア部分、旧ベイエリア。


「ベイエリアでもいいけど、

 できれば、その先に行きたいなあ。

 乗ってくるかな?」


「高瀬は場外際をものともしない。

 だが、それだけじゃない。

 自分の戦いそのものをルーレットにおいて、

 得られるスリルを好んでいるふしがある。

 なにより、今回は高瀬側から仕掛けた冠試合。

 高瀬は、大地に勝って終わらなければならない。

 大地が引けば、追わざるを得ないはず」


 はず、だけで計略を組みたくないなあ……

 問題はベイエリア区画まで見逃してくれるかってことだよな……


 その嫌な予感が、今まさに目の前で現実になろうとしていた。


 高瀬が来る時は、こちらの想定を超える――


 画面では『翠銀弓』がショートスピアを盾に収納するところだった。

 大地の『赤銅鬼Ⅱ』はまだ動けない。

 鋼谷は何もできない自分に歯ぎしりをした。

 収納されたメイン兵装に代わり、近接兵装のレイピアが――





「感謝する。貴様が外壁を選んでいたなら、そのまま処刑執行であった」


 『翠銀弓』の近接兵装、レイピアが『赤銅鬼Ⅱ』の肩を貫いた。


 がぁぁぁっ!


 衝撃が操縦席の大地まで伝わる。

 観客のコールが鳴り響く操縦席で、高瀬は凄みのある笑みを浮かべた。


「ここなら……」


 決闘にしてやれる――


 望惹無尽ぼうじゃくぶじん――


 強く惹かれるものに、我を忘れて没頭せよ――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ