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俺の腕、売ります。  作者: ももクリさんねんかきハチネン
第三章 地熱の胎動、堅牢なる盤石
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第22話「揺り戻しの胎動」

 そこは――

  お前の席じゃない――


望澪もりの星環群、伏露ふくろ(居住星環)】


 澪和航空みわこうくう本社――


 テーブルの端末には、『赤銅鬼』の紹介ページが映し出されていた。


「できれば次戦、沖大地、あの山猿と当たりたい。

 力を貸してください」


 高瀬長門たかせながとはメインスポンサーの一つ、澪和航空代表に深く頭を下げた。

 騎士団にも騎士運にも、それぞれ後ろ盾となるスポンサーがいる。

 さらに星環騎士戦では、試合ごとの冠スポンサーを立てることができる。

 冠試合の特典として、原則、冠スポンサーの本拠地または近隣星環群での開催権、および対戦騎士の優先指名権が付与される。


「……相手は問わない、誰とでもやってみせる。

 それが貴方の信条だと……」


 澪和航空代表はその職について6年余りになるが、高瀬がこのような頼みごとをしてきた記憶がなかった。

 頭を上げた高瀬。


(そうだ、誰が相手でも変わらなかった。

 だが、今だけは……)


 背の高い高瀬にその気がなくても、威圧が物凄い。

 澪和航空代表はせいぜい高瀬の肩までの高さしかない。

 澪和航空代表は高瀬にソファを勧めた。


「……炎城ほのおぎが、間もなく戻ってくる」


「ええ、場所を変えても、あの方はお元気なようです」


「炎城に、あの山猿が、火をつけた……」


「……弱い者いじめは、似合いませんよ?」


 高瀬は驚いたような表情を一瞬浮かべると、かぶりを振った。


「あれは、弱くない。

 場に順応して生き残るしぶとさがある。

 鋼谷はがねや戦を見ていないのか?

 だが、私なら、山猿を、

 あのふてぶてしさごとリーグから弾き出せる」


「……他でもない、貴方からの頼みです。

 幸い、次の試合の冠スポンサー申請はまだ日があります」


 代表はわざとらしく、腕時計を見た。


「高瀬さまの次の相手、沖大地。

 場所は、ここ、望澪もりの

 滅多にない、我がまま、まだまだお若い証拠として、喜んで応援いたしますよ」


 高瀬は再び深々と頭を下げた。





 2年ほど前――


「たかが一度、しかも初対戦じゃないか」


 高瀬は炎城の引退発表を聞いてすぐに連絡を取った。

 公式に出された以上、部外者の自分が口を出したところで撤回される話ではないのは分かっていた。


「……体力の限界……


 私はもう、3度の栄誉を手にした。

 年度優勝なら15連覇。

 いつまでも続くと信じていたが、時間は平等に過ぎていただけのことだ」

 高瀬は強敵しんゆうにかける言葉がなかった。





 1年近く前――


 大地がセカンドリーグを騒がせている頃。


「社長、機嫌がいいじゃないか」


 黒崎健吾が自身の戦勝報告に来た時だった。


「予想外に早かったのでな。見ろ」


 壮健は端末の一角に表示されたものを拡大して、健吾に見せた。


「これは、諸角もろずみ平柱べいちょう賁星ぶんし望澪もりのの運送事業免許……、

 今までのと合わせたら、星環連合ほぼ全域じゃないか。

 こっちは……商業航路使用許可?」


「そう、うちは今まで赤銅騎士団の星環群外の輸送について、

 事務代理契約を結んで、彼らを運んできた。

 これからは、黒崎運輸自身が堂々と彼らを運ぶことができるんだよ」


「……大地をダシにして、勢力を広げたってことか」


「人聞きの悪い。

 先行投資が思ったより早く

 回収できる見込みが立っただけのことじゃ。」


「地元と近辺くらいしか、

 運送事業許可ってなかなか出ないもんじゃないのか?」


「赤銅騎士団の大地くんは、セカンドリーグ所属。

 移動範囲は当然、星環群連合全域に及ぶ可能性がある。

 彼の戦いぶりは皆が知るところになってきたし、

 爆発的な火力や機動力で圧倒するタイプではない。

 大抵の騎士はこう考える。

 自分なら勝てる、そうじゃろ?」


「……連勝ストッパーを餌に、

 それぞれの地元の運送業がOKを出しやすくしたってことか」


「地元のエースが、連勝中のルーキーを堂々とぶちのめす好機。

 しかもルーキーは弱そう。

 これは地元開催したくなるじゃろう?」


「……移動手段が容易に確保できるなら、

 騎士運も離れた星環群での開催にGOサインを出すよな。」


「フフフ……」


「どこまで、狙ってた?

 どこまで、仕組んでた?」


「思ったより早く、さっき、そう言ったじゃろうが。

 狙い通りではない。

 いや、遠い目標ではあったが、

 あっさり届いてしまった、というのが本音じゃ」


「……仕込みはしていたんだな?」


「仕込みなど、ほぼしておらん。

 儂も含めて、それぞれがこうありたい、と考えた末に繋がっただけじゃ。

 健吾、随分過大に評価しておるようだが、

 儂一人でできるとこなど、一人前分でしかないぞ」


 健吾は化け物を見る目で祖父、壮健を見た。


「その一人前、10トンくらいあるだろ」


「儂が食えるのは、せいぜいチャーハンが丼1杯程度じゃぞ。

 ……ああ、健吾、車を出せ。

 久しぶりに倍陪ばいばいてい亭に行こう」


「俺、まだ自分の戦勝報告をしてないんだが」


「祖父と孫とで、何を堅苦しい。

 飯でも食いながら、儂に自慢しろ」


「……」


 騎士としての報告を望まれなかった健吾は、応接室の壁に目をやった。

 大型モニターには、『赤銅鬼』と沖大地を大きく並べた赤銅騎士団のポスターが映し出されている。

 そのポスターの下部には、他のスポンサーより大きな《黒崎運輸》の文字が誇らしげに――





 1ヶ月ほど前――


 沖大地をきっかけに復帰――


 高瀬はただ、好奇心で炎城に復帰の理由を尋ねただけだった。

 強敵しんゆうである自分を差し置いて、どういった心境の変化があったのか。

 高瀬がサードリーグの試合で望澪もりの(星環群)に訪れた炎城と顔を合わせたのは、ほんの偶然だった。

 炎城がひよこリーグから復帰するというニュースに、星環騎士戦界隈は色めき立った。

 絶対王者だった、あの炎城と戦える――

 腕試しに願ってもない――

 当初こそ、相手は引きも切らなかった。

 しかし、余りにも一方的で災害のような試合を続けたために、サードリーグでは炎城との組み合わせを避ける動きが顕著になり、酷い場合は対戦相手が違約金を厭わず棄権するほどだと。

 なんとか次のシーズンまでにセカンドリーグ昇格に間に合いそうだと、炎城は笑顔で言った。

 礼文、そして沖と戦うのが楽しみだ――

 聞いたときは穏やかだった。

 だが、日が経つにつれて焦燥にも似た苛立ちに包まれた。


 その席は――

  私のものだ――


 あなたがいない場所でも――


 世界は少しずつ動いている――

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