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俺の腕、売ります。  作者: ももクリさんねんかきハチネン
第三章 地熱の胎動、堅牢なる盤石
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幕間「騎士改生(きしかいせい)」

絶望を乗り越え、死地から蘇る――


その名は――


 コントロールルームは静まり返っていた。

 トップリーグ関係者用の観戦室。

 壁一面のモニター群を、高瀬長門は無機質な眼差しで追っている。

 画面の中央には、さきほど敗れた鋼谷はがねやの機体が映っていた。

 推進を失い、姿勢も保てないまま、慣性に引かれて戦域の底へ沈んでいく。


「鋼谷……」


 その名に、感情はない。


「まがい物なりに、期待はしていたのだがな」


 わずかな間。


「残ったのは、さらに純度の高いまがい物か」


 それで終わりだった。

 高瀬は視線を外す。

 意識は、すでに次の光景へ向いている。





 炎城志朗――紫若しじゃく、不知火騎士団所属。

 騎士艇『轟焔騎ごうえんき

 鮮やかな黄色と暗い橙の装甲を持つ機体。

 本来、重盾を正面から破るのは愚策だ。

 受け止められれば勢いは死に、その瞬間に崩される。

 その『轟焔騎』が、爆ぜた。

 加速という言葉では追いつかない。

 『轟焔騎』が、推進光の尾を引きながら視界を横切る。

 次の刹那、炎城はすでに標的の懐へと潜り込んでいる。

 あったはずの距離が消えた。

 対峙する騎士が、反射的に重盾を掲げた。

 だが。

 炎城の『轟焔騎』が盾に触れた瞬間――

 受け止めた相手騎士の機体がわずかに沈み、衝撃を受け止めたように見える。


 止めた。


 そう見えたのは、一瞬だけだった。

 次の瞬間、『轟焔騎』がそのまま前へ出る。

 盾ごと、押し込む。

 受けている騎士の機体が後ろへ滑る。

 踏ん張る。だが、止まらない。

 盾の中央が歪む。

 フレームが軋み、装甲が裂ける。

 黄色と橙の機体が、押し切る。

 盾ごと騎士の機体を崩し、そのまま一直線に突き抜ける。

 ――遅れて、衝突音が炸裂した。


 爆音の余韻が消えた直後、ドームは静寂に包まれた。

 観客たちは、目の前で起きた現象を処理できず、ただモニターを凝視する。

 やがて、濁流のようなどよめきが溢れ出した。

「速すぎる……何が起きたんだ」

「盾で防いでただろ? なんで崩れるんだよ!」

「見えなかった。光ったと思ったら、もう終わってた……」

 声は乱れ、意味をなさない。

 賭けの行方も、技術的な理屈も、誰も追いつけない。

 ただ、観客たちの脳裏には、一つの光景だけが焼き付いていた。

 ――ねじ伏せるのみ。





 喧騒から隔絶された部屋の奥底で、高瀬は静かに目を伏せた。

 その唇が、薄く冷たい弧を描く。

 炎城は、完成している。


「炎城志朗……終生のライバル、というわけだな」


 その視線は、眼下の勝者には向いていない。


 沖大地――

 祝福されしまがいもの――


 高瀬は、わずかに笑った。


「君が戻る前に、潰しておこう」


 静寂が、再びルームを支配した。





 その日、赤銅騎士団の事務所は少し緊張した空気に包まれていた。

 今日から一人、増えるのだ。

 先日、敵として戦ったトップリーガーが。


「紹介するわ。

 今日からうちに入ることになった、鋼谷琢磨はがねやたくまさん。

 先日までトップリーグ所属、

 この間対戦したところだから、知ってるわよね。

 で、今日からうちのアドバイザーとして入ってもらうわ」


 白石はそう言うと、邪魔にならないよう立ち位置を変えた。

 鋼谷は一歩前に出て、周囲を一瞥し、頭を下げた。


「鋼谷です。

 本日付でアドバイザーとして入ります。

 よろしくお願いします」


 大地が待ちきれない犬のように身を乗り出してきた。

 勢いのまま、右手を差し出す。

 鋼谷はその手を一瞬だけ見て、握り返した。


「おう。よろしくな」





 鋼谷には気になることがあった。


「見たところ、大地しか騎士がいないようだが?」


 皆から離れたところで、声を落として白石に尋ねてみた。


「……来ないのよ」


 白石の返事はシンプルだった。

 鋼谷は天を仰いだ。


「当座は俺がサブで登録するとして……

 瑞穂は無理でも、北斗の中で、誰かいないのか?」


「あれを実際に見ると、みんな引いちゃうみたいで」


 白石の視線の先に、『赤銅鬼』のポスターがある。


「……トップリーグでサブなしは、きついな」


 少しの間を置いて、答えを絞り出した。


「俺も探す。

 ――居なけりゃ、育てるしかない」


 白石は、少し張っていた肩の力を抜いた。


 絶望を乗り越え、死地から蘇る――

 棄てる愚者あれば、拾う賢者あり。

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