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俺の腕、売ります。  作者: ももクリさんねんかきハチネン
第三章 地熱の胎動、堅牢なる盤石
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第21話「身を捨てられてこそ、浮かぶ瀬もあれ」

 兵不血刃へいふけつじん


 不戦而屈人之兵ふせんじくつじんのへい


 智勇兼備でデブリを制す

鋼谷琢磨はがねやたくまが駆る『鎧土龍よろいもぐら

 VS 沖大地が駆る『赤銅鬼』、ただいま開始です》


 『鎧土龍』、黄銅色ベースの星環騎士艇。

 使用するのは刃の先端が扇のように広がった半月槍。

 何より、その『赤銅鬼』がせいぜいその肩くらいかという巨体。

 機体を活かした頑丈さと耐久力で戦う。

 接近戦でぶつかり合いながら、重装甲・大質量・半月槍で押し込む。


 近づきたくねえなあ……


 先方から通信が入った。


 開始前の顔合わせ、挨拶かな。

 単に始める前のひと言?

 これがトップリーグの、礼を尽くすってことかしら。


「先に謝罪しておく」


 前言撤回――


「バラバラにするつもりで行く」


 宣戦布告どころじゃない。

 挑発するまでもないくらいに、戦意高めですよ。

 どちらかと言えば落ち着いた印象の報道が多かったけど、俺のどこが気に障ったのかな。


 バラバラに?

 ちゃんと拾ってね?


「……」


 通信はブツンと音を立てて切れた。

 沸点がまったくわからない。


 調べた限りでは、冷静な人だと思っていたんだけどな。



 鋼谷の接近後の大回転は、頑丈さとトルク。

 最高速度はトップの中では速くない。

 質量があるだけあって、航続距離も短い方だ。


 機嫌が悪い時もあるか。人間だもの。


 足場がない以上、回転、即ちスラスターから生みだされる馬力だのみ。

 ヒット&アウェイではない。

 こちらはブラフ&アウェイ。

 近づけば、質量の差と大きいくせに速い回転が待っている。


 静かな立ち上がり、とはいかなかった。 

 罠を仕掛けていようが、『鎧土龍』は構わず『赤銅鬼』目掛けて吶喊してくる。

 予習した通り、躱すと回転しながら半月槍をぶん回してくる。

 いつもより長い鎖を周囲に配置。

 鎖を斬らせるなら端っこから。

 テンションで延びきった鎖は、静止状態になる――

 引いて、手繰り寄せる。

 地味に『赤銅鬼』の居る位置をずらしていく。


 落ち着いて。

 やることは決めてある。


 鎖は伸びきったところでテンションにより再び静止する。

 勢いで叩き斬っても、勢いは落ちる。

 半月槍は鎖を斬れずに弾く。

 何度も鎖を絡ませる。

 差し詰め歯車に詰まるゴミ。


 飛び散った鎖は、不可抗力ってことで。


 そうだ。

 騎士戦のルールをもってしても、デブリを出さずに戦闘行為など無理な話なのだ。

 だから、俺の鎖鎌や万力鎖の破片だけを目の敵にするのは、どうか勘弁願いたい。

 こちらの強みは、質量の少なさ。

 さっきからずっと燃費の悪い回避運動を繰り返して。

 それでも痩せっぽちだから、ひらひらと動いてもそれなりに燃料は持つんだな。

 電磁力誘導で、鎖を発射、そして引き戻す。

 時々、引き戻しきれない鎖を斬られる。弾かれる。

 この繰り返し。



 一週間前、赤銅騎士団 格納庫

 一見、斬り合いに持ち込んでタフガイコンテストみたいな戦いだけど、よくよく観察すると、負けるときは割とあっさりな印象だ、と大地は言った。


「あっさり?

 ずいぶん、悠長な感想だな。

 で、殴り合いに勝機があるのか?」


 削り合いには付き合わないよ。

 あっちの強みはトルクであって、スタミナじゃない。

 持久戦に弱みがあると見た。

 消耗戦、いや耐久戦に持ち込むのは、ブラフの気がする」


「……坊主、どうしたい?」


 わざと斬らせる。

 ああ、『赤銅鬼』じゃなくて、鎖をね。


「……続けな」


 槍は、吶喊して突く。

 推力を載せやすいから、まともに当たれば貫通できる。


「道理だ」


 刀や剣は、無重力では使いにくい。

 斬るためにはどうしたって加速がいる。

 重力環境下なら、大地を蹴ればいい。

 でも……

 宇宙には蹴るための地面がない。

 全部、スラスター、

 ……金属なり化学燃料なりがいる。


「……浪費させるために、どうしたい?」


 全部、使う。

 ただ、『赤銅鬼』には触らせない。

 これは絶対。

 加速は細かく速く。


「躱すだけじゃねえんだな?

 で、後は?」


 障害物、当てて鈍らせる。


「鎖鎌も万力鎖も、そんな強度はないぞ」


 ないから、いい。

 斬るから鈍る。

 斬らなくても、当たれば鈍る。


「……大地、

 斬られた鎖、デブリがストッパーになるって言いたいの?」


 竹島が顔をしかめた。

 デブリをまき散らすことには流石に抵抗がある。


 そう、躱すのも、回収するのも一緒にやる。


「回収?」


 どっちも前の職場で散々やった……





 使えるものはリサイクル。

 こちらはふわふわ動きながら、相手に斬られ弾かれ、デブリと化した鎖を、腕部の電磁石で丁寧に回収。


 無事な鎖は戻してリユース。

 フックが壊れて使えない鎖は、相手目掛けてキャッチ&リリース。


 このデブリだって、相手に当たれば、運動エネルギーを削ってくれる、大事な大事なリサイクル資源になるのですよ。


 それにしても、トップリーグって試合の指定区域が広いなあ。

 レーダーに端っこが全然出てきませんよ。


 斬られた鎖の分だけ、%ダメージに乗っているけど、そもそも万力鎖って槍とかに比べて5分の1もないからね。

 本体にさえダメージがなければ、そう怖がる数字じゃない。


 『鎧土龍』の吶喊、続く回転は相変わらずだけど、もはやコースが直線だ。

 回転時間も短くなってきたから、青息吐息ってところか。


 スタミナ切れを狙う戦法が、実はブラフだったんだけどな。


 最適解は、相手の戦法の裏側、回転の内側に入り込むことだ。

 でも、対戦相手にそう気づかせないための、半月槍なんだな。


 鎖で実感しているけど、

 無重力環境下で回転を武器とするのは、いかんせんコストが高すぎる。

 無重力環境下で回転を効果的に使うなら、貫通力を上げる正面衝突しかないんだ。


 横から当たれば、摩擦、斬撃、体当たり、

 いずれも力が分散する。


 凄まじいエネルギーを費やさないと一撃必殺にはしにくい。


 つまり、仕上げの時間です。


 回転を始める瞬間、半月槍を水平に持ち替えるそのタイムラグ。


 頭部周りが無防備になるのよね……





《「『鎧土龍』の騎士、鋼谷琢磨が降参したため、

 星環騎士戦規則の第3条第一項第2号に基づき、

 『赤銅鬼』の勝利です》





 何度目になるのか、

 『鎧土龍』の吶喊をふわりと交わした『赤銅鬼』。

 『赤銅鬼』が両腕から延びた鎖を『鎧土龍』の頸部に引っ掛ける格好でその懐に入り込んだ瞬間、『鎧土龍』のスラスターの炎が急に小さくなった。

 と思ったら、鋼谷、『鎧土龍』があっさりと降参してしまった。


《……摩訶不思議、不壊ふえの鉄人、ギブアップです。

 『赤銅鬼』、沖大地、何もしていないのに勝ってしまった。

 これは、やお……騎士運の調査が入るか?》





 唖然とする承知工業のエンジニアリーダー、承福鉄平しょうふくてっぺい

「攻撃してないのに、なぜ勝つんだ? どうやって次にフィードバックすればいいんだ?」





 観戦施設に詰めかけた観客からは、困惑の声が上がる。


「勝った方、何してたの?」


「勝ち騎士投票券、当てたけど、微妙……」


 施設の一角にいた希倫。

 理解が追い付くどころではない。

 兄がどんどん遠ざかっていく。


「もう、考えるのやめよう」


 次のプログラムはひいきの礼文慎だ。

 わかりやすく、強い前回王者。

 他の星環群代表だからって、大ぴらに応援できないのは悔しい。

 仲間が欲しい。


「……今のうちに、フライドポテトとジュース買ってこよう」





 通信回線が開いた。


「……気づいていたのか」


 えーとさ、使用者責任は認める。

 でも、散らかしたの、そっちだし、

 片付け、手伝ってくれない?


「推進剤もなにも、もうすっからかんだ。

 俺ごと片づけてくれ。

 もう動けん」


 潔くて、助かるよ。

 こんな大きなもの、

 廃棄星環のスラスターまで運ぶだけでも気が重いよ。


「……それは、散々、お前さんの編集Vで観た。

 ここはすでに棺桶に近いが、

 本当に棺桶にする気まではない」


 せっかくだし、片付けが済んだら、

 美味しい飯屋を教えてもらえません?


「……その手で黒崎を墜としたか」





「残念だよ、鋼谷くん」


「確かに俺は負けた。

 だが、この10年ずっと

 トップリーグで上位をキープしてきた自負はある」


「今回の負けは大きすぎる。

 28勝目、ただの28勝目じゃない。

 ひよこからずっと勝ち続けて、トップでも通じると、

 君が証明してしまった。

 自分で功績を貶めてしまったんだよ」


「炎城にも土をつけた、この俺を切るのか?」


「炎城は、今、セカンドリーグに王手だそうだ。

 今からやり直せば間に合うんじゃないかな?

 もちろん、炎城を見習って、

 今からでも他の星環群へ行けるというのなら、ね?」


 鋼谷は声を失った。


「個人的には、気の毒には思う。

 しかし我ら賁星ぶんしは、かつての大災害の借りがある。

 あると思わされている。

 星環連合すべてから誹謗中傷を受けたあの日々。

 鋼谷くんの台頭は、ずいぶん賁星を明るくしてくれた。

 私は、感謝は、している」


 10年以上も苦楽を共にした騎士団マネージャーは、振り返ることなく鋼谷を置いて去っていった。





 陰にいた副委員長は、敗者の鋼谷に接触することもなく立ち去った。


「期待した私が莫迦だったか……」





 立ち去る副委員長とすれ違う白石。

 そのまま鋼谷のところへ進む。


「鋼谷さん?」


「……」


「大地くん……

 うちの沖が、鋼谷さんにシンパシーを感じるって言い出して

 もう、聞かなくて。

 もし宜しかったら、この後の時間、空いてませんか?」


「……いつもより、空いてる。

 もちろん、構わない」


 白石は見事な営業スマイルを浮かべた。

 携帯端末を操る手が澱みない。


「それでは、善は急げと申します。

 お席を用意いたしますので、

 お荷物があれば、まとめておいていただけると助かります」

 主立会人 「……」(また、こいつかよ)

 副立会人1「これ、投射武装の疑いは……」

 副立会人2「早く帰ろう。こういう時のために騎士運の調査委員会があるんだ」

 主立会人 「沖は鎖を回収しようとしただけだ。デブリを武装とか、

       兄弟爆弾じゃないんだ。縁起でもない。終わり終わり」

 副立会人1「いや、エネルギー吸収を目的としているなら、さすがに……」

 主立会人 「私、1票」

 副立会人2「私0.6票、君は?」

 副立会人1「0.6票です……」

 主立会人 「合計1.6票の勝ち。判定は、帰宅!」

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