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俺の腕、売ります。  作者: ももクリさんねんかきハチネン
第二章 静かなる堆積、堅牢なる連峰
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第19話「逢魔が刻、宵の果て」

『Two go in. One comes out.』

 二人が決闘に向かうなら――


『Two go in. One comes out.』

 戻るのは一人だけ――

 瑞穂、歓楽街――


 街角のそこかしこで、先日の俺の勝ちを繰り返し流していた。


 携帯端末で観ている人を合わせたら、

 今日だけで、どれだけの回数が流されているんだろう。


「知ってっか?

 沖の黄金の左。

 KOの7割が、

 左から始まるコンビネーションか

 左のフィニッシュブローなんだぜ」


「……両腕使うなら、それ普通じゃね?」


「ここ、ここだよ。

 ここで右腕を囮に、ハマった瞬間に体を翻して、

 脚を使って相手を固定とか、やべえよ」


「よくよく見たら、騎馬じゃなくて人間の動きなんだよな。

 でも、無重力下環境で槍に刺された掌を起点に

 これ実行できるの、マジ神がかってる」


「うける。

 おめー、宇宙に出たことあんのかよ」


 紫外線対策グラス越しに、自分のファンたちが興奮して、互いに解説して、また興奮するさまをただ眺めていた。

 こちらに高揚感はない。

 彼らは俺に投票した風でもない。

 賭場のおっちゃんたちの喜び方とは、一味違うのは肌で感じる。

 それにしても、俺の勝ちで配当金を得たわけでもなさそうなのに、嬉しそうだ。


 勝った瞬間は、俺も嬉しかったよ。

 ただ、もう終わったことだし。


 余韻も冷めた俺には、目の前の彼らに共感できない。


 次は、優勝かかってますし、絶賛準備中ですよ。


 神が駆って、神が勝って……神懸かみがかった……

 いや神憑かみがかったの方かな。


 今回の勝ちばかりは神様頼みだったことは否めない。

 用意した策は裏目に出るか、潰された。

 20以上も勝ち続けていれば、そりゃ傾向も読まれて対策されて当然なんだ。

 準備した策がうまくハマらないのもこれが初めてって訳でもない。

 じゃんけんみたいなもので、勝ち続けてきたこれまでが豪運だった。


 ……今回もか。


 つくづく、飾りじゃないよな、脚は。

 宇宙空間を吶喊とっかん前提じゃ、脚がいらないって結論になったのはわかるんだけどさ。

 だけど、どこまでいっても人型なんだ、星環騎士艇は。

 遠距離や爆発が使えないなら、戦闘機のような空間機動のほかに、超接近戦では人の動きや脚が役に立つシーンもあるんだ。


 偉い人にはわからんのかな?

 しばらくは、俺と、滋野さん、健ちゃんたち整備チームがわかってりゃ、充分さ。

 なにせ、俺は負けたら即解雇の身なのでね。

 世間の理解まで欲しいわけじゃない。


『Two go in. One comes out.』


『Two go in. One comes out.』


 最近流行りだした、この観客主体の大唱和?


 好きじゃない。


 二人が戻らなきゃ、計算合わないだろ。


 俺が勝って勝って勝って、そのうちみんなが勝ちに飽きてくれたら。

 辞めよう、そのときは。


 お金は欲しくて欲しくて、今でも、もっと欲しい。

 そのお金で、美味しいもの一杯食べて。


 白石さんが喜んでると、なんだか俺も嬉しい。

 騎士団マネージャーとして頑張ってるの、ずっと見てる。


 もちろん、ほかの女の子にだって、かっこいいとこ見せたい。


 ……だからって、死んだりは、嫌だよね?


 俺は誰もいないはずのベンチに話しかけた。


《ご唱和ください。彼の名を―― 大地?》


『沖!』


《沖?》


『大地!』


《そう、沖大地! さあ、みんなで行こう。》


《見せてくれ。今夜も……瑞穂の奇跡を!》


 ……やめてくれ。こっぱずかしい。





 瑞穂、黒崎運輸――


 黒崎運輸の応接室が、黒崎健吾にとってはどうにも居心地が悪かくなってきた。

 柔らかすぎるソファも、分厚い絨毯も、どこかよそよそしくなった気がする。


「それで……」


 黒崎健吾は、背もたれにだらしなく寄りかかった。


「なんで今さら大地の話なんだよ」


 黒崎壮健は、カップを手に持ったまま少しだけ考えた。

 置く前に一度中身を見る癖は、若い頃から変わらない。


「祝勝会に、また顔を出すそうだね」


「……やっぱり、そっちの話か」


 健吾は少しだけ体を起こした。


「あれは、見た目と違って真っすぐだな。


 根っこが折れているせいで、結局は曲がって見えるんだが」


「それ、曲がっている、でよくない?」


「商売の話だ」


 壮健はカップを置いた。

 音が小さいのは、丁寧だからではなく癖だ。


「勝てるかどうかじゃない。生き残れるかどうかで動く口だな」


「まあ、それはそうだな」


「悪くない」


「人としてどうなんだよ」


「人としても悪くない」


 壮健は即答した。


「あの程度で性格が悪いなどと切り捨てるようでは、この先の黒崎運輸にお前の席はないぞ」


「……それは分かる気もする」


 健吾は腕を組んだ。


「商売の話は?」


「難しいことは、現場で覚えるのが、一番早い」


「また、それか。じいちゃんは、いつもそれだな」


 空調の音が静かに流れる。


「お前はどう見た」


「何を」


「沖大地だ」


 健吾は少しだけ考えた。


「……面白いよ」


「それは評価にならん」


「人としてな。

 あいつ、変に背負ってねえんだよ」


「背負わんから面白い。

 普通は背負わせてくれと頼みこんでくる」


 壮健は淡々と言った。


「ただし、無理に背負わせても、逃げる」


「それは分かってんだ」


「あの白石とかいうお嬢ちゃん、

 大地くんをうまく乗りこなしておる」


 健吾は黙った。


「……あいつ、人に使われるタイプじゃねえんだがな」


「見て、察して、覚えろ」


「またその話か」


「この先、一緒に働くかどうかでもある」


「それならまだ分かる」


 壮健はうなずいた。

 健吾はソファの背に頭を預けた。


「でも、人間関係ってそんな簡単に組み替えられねえだろ」


「組み替えるもんじゃない」


「じゃあ何だよ」


「増える」


「……は?」


「増えるんだよ、健吾」


「雑に、いい話っぽくまとめようとしてるだけだろ」


 壮健は小さく笑った。


「今は、それでいい」


「重いんだよ」


 少し沈黙が続く。


「で、俺に何させたいの?」


「付かず離れず。

 大地くんは言うなれば、マリンベルだ」


 雑な使い方だ、と健吾は思った。

 健吾は天井を仰いだ。


「ほんとに面倒な流れに入ったな」


 応接室の時計が、静かに時間を刻んでいた。





 丹鶴にかく、礼文家本宅の一室――


 応接室の空気は、整いすぎていた。

 温度も湿度も、声の反響すら計算されているような静けさだった。


「沖、大地くん……」


 礼文・但馬・太陽は、資料を映し出した端末に、指先で軽く揃えた。

 話題にした時点で、太陽の中ではすでに決まっている。


「セカンドでも連勝を続けている。

 評判は決して良くないが、礼文家が注目するに値する。

 これなら、礼文家に迎え入れるところまではいかなくても、

 諸角もろずみに抱え込むのであれは、十分アリだな。

 人格に少々癖はあるが、

 これくらいならば、許容範囲だ。

 調査した限りでは、妹を除いてコミュニティへの執着が極端に薄い。

 個人主義で現実主義。

 競技者としては、むしろ扱いやすい側面もある」


 内容は事務的だが、どこか浮かれた音程に聞こえる。


「懸念があるとすれば、

 大地くんをコントロールできる強力なパートナーシップかな?

 彼のような自由人は、本来、

 長期的で安定した関係を持続させにくいんだ」


 太陽は視線を正面のソファに座る慎へ移した。


「今の大地くんの上司、白石美月しろいしみづきくんなんだがね。

 実にうまくこの自由人の手綱を取っている。

 まとめて引っ張れたら申し分ないが、

 こちらは組織への帰属意識はそれなりに強そうだ。

 大地くんを引き当てるまで倒産寸前だった赤銅騎士団で

 踏ん張り続けた女傑だからね。

 いい人材だが、この程度なら、こちらにはいくらでもいる。

 代替は可能だ。

 それぞれを最適な位置に置けば機能するはずだよ」


 その一言に、慎の心の一部が反応した。


「……代替、可能?」


 声は低く、わずかに遅れて出た。

 問いというより、確認に近い。

 そうだよ、と太陽は頷いた。


「白石くんは、優秀な人材ではあるが、

 唯一無二と言えるほどではないよ。

 癖のある男を操縦できる人材は他にも存在するのは事実だ。

 礼文家としても、個人だけに依存しない形を整えるのも大事だ」


 沖大地は唯一無二かもしれないから囲い込む。

 ほかは、入れ替え可能……


「そうでしょうか?」


 言葉は短い。

 だが、そこには拒否ではなく前提の違いがあった。

 太陽は微笑を崩さない。


「感傷じゃない。

 組織の運営の話だ。

 人間それぞれに相性があるのは分かるが、絶対ではないだろう?」


 磨き上げられた机の上を指先でなぞる。


 言葉がどうにも通じない。


「人間の繋がりを、舐めないでください」


 太陽は軽く肩をすくめた。


「もちろんだ。

 だが礼文家として見れば、そう扱うしかない」


 太陽の視線の先には、沖大地の履歴を映し出すモニターがあった。

 新しいおもちゃを見つけた子供のような笑みだった。

 大地パートの元ネタについて、


 Two men enter, 

 one man leaves.

 映画「マッドマックス3/サンダードーム」

(原題:Mad Max Beyond Thunderdome)

 主人公たちがサンダードームに入場する際のあのコール。

 決闘場のサンダードームを上まで囲む観客、

 とても不気味な、あのシーン。

 街の首領役である大歌手・ティナ・ターナーの怪演も相まって、

 街でのストーリーは映画の半分もないのに、

 後味の悪さが半端ない。


 ご唱和ください、●の名を―

 ウルトラマン、ゼーーーッ●


 いつものように、他にも小ネタ多数。

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