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俺の腕、売ります。  作者: ももクリさんねんかきハチネン
第二章 静かなる堆積、堅牢なる連峰
21/59

幕間「理学の徒」

 巷には、


 情報で溢れかえっている。


 ほとんどのものが、


 どうでもいい内容である。



 風鈴寺ふうりんじはずみ――


 存命の人物でありながら、星環連合大統領からの表彰、実に2回。

 瑞穂が誇る、いや北斗、違う、全ての星環群が誇る稀代の数学博士である。

 その才は数学に収まらず、天文、物理、生物、地球科学、化学などの幅広い理学で功績を上げ続ける、生ける伝説の一人である。

 1日3時間も寝れば、寝過ごした、と舌打ちする風鈴寺博士は、自身が取得したパテント使用料だけでも1万年先まで生活できるともっぱらの噂である。

 もっとも研究、探求を人型にした風鈴寺博士は、その大方を趣味の研究に回してしまう。

 偉人であると同時に、人付き合いは無頓着で困った一面も持ち合わせていた。

 そんな彼をマネージメントする博士の妻を、周りの人はこう呼ぶ。


 博士の一番の通訳こもりやく――





 博士にとっては、ほんの気分転換のつもりだった。

 たまには、流行りのニュース配信や動画でも眺めて、ぼうっとするのもいいか。

 端末検索で「『瑞穂』 『北斗』 『流行り』 『ニュース』 『動画』」と打ち込んだのだった。

「騎士戦のニュース、一色だね。

 ちょうどいいのは、あるかな?」

 10本ほどのニュース編集シリーズが見つかったので、再生ボタンを押して、コーヒーを沸かした。

 博士はコーヒーを一口含み、その風味に満足げな笑みを浮かべながらソファにもたれかかった。


《何と言っても沖の適応能力が……》


《ひよこからの通算にはなるので参考記録ではありますが、25連勝、負けなしは史上初……》


《あの絶対王者だった炎城ですら、サード、セカンドのデビュー戦は躓いています。これは試合環境がそれぞれに異なった特徴が……》


《今年度の公式試合開催日26日のうち、残りはあと3日。

 直接対決になる2位とはすでに2勝差をつけており、

 仮に残りの2試合で2位が勝利しても、勝ち星が同数に並ぶ。

 その場合は直接対決の戦績で決まるため、

 この試合に勝てば沖の優勝が確定……》


《趣味が高じて、

 幻のひよこデビュー戦フル動画までかき集めてしまいました。

 みなさんには、一部だけ、編集したものを紹介しちゃう。

 僕と同じ熱量の人は、このチャンネルの、有料会員に登録してね。

 週一回、会員限定で『一緒にフル動画を鑑賞する配信』にぜひ、参加……》


 編集された大地の戦いを、つい、見てしまった。

 画面から、数式が躍り出ていた。

 その編集動画を、繰り返し繰り返し。

 博士の手は、止まらない。

 チャンネルの登録、有料会員参加のボタンを押す手にためらいがない。

 ただ、『一緒にフル動画を鑑賞する配信』は5日先の予定だった。


「……そんなに、待てないね」


 直接チャットでリクエストしようとしたその時、幸いにも『一緒にフル動画を鑑賞する配信』の過去アーカイブがいくつかあるのが目に入った。

 過去配信も鑑賞できるようになっていたのだ。

 博士は勢いよく再生ボタンを押した。

 途端に、より濃密な数式が溢れ出した。。


 これは、数式の洪水。

 カオスにしてフラクタル。

 どの数式も喜びを歌っている……


 コーヒーをこぼしても、博士はまるで気にも留めようともしない。

 博士は目を見開き、涎を垂らし、歓喜の唸りをあげ続けた……





 この世界に溢れる情報は、天を仰いで観られる星の数よりも、ずっと多い。

 ほとんどのものは、右から左へ、後に何も残さない、無味無臭。

 だが、たった一本の動画から、人生を変えられてしまうこともある。



 後日談、ではなく後時談。


 傍から見ていつも以上の奇行(いや危行?)に

 博士の妻が駆け寄った。

 博士は、その日から3日間、

 端末を取り上げられてしまった。

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