第124話「青い鳥」
むかしむかし、あるところに、
木こりのお父さん、お母さん、
そして、かしこい兄と、かわいい妹が、
くらしていたのです。
『青い鳥』から抜粋し
筆者が絵本風に翻訳したもの。
原案:モーリス・メーテルリンク
再構成:ジョルジェット・ルブラン
英訳:アレクサンダー・テイシェイラ・デ・マトス
底本:The Blue Bird for Children
赤銅騎士団 会議室。
やめてほしいよな、本当。
試合直前にアドバイザーを呼びつけるのは。
試合前の調整が出ちゃったんだろうけどさ。
鋼谷は騎士運の北斗星環群に呼び出しを受けて、今日丸いっぱいは不在だ。
大地は大量の礼文慎の試合と解析のデータを宿題代わりに眺めていた。
鋼谷が編集した動画のうち、『礼文慎勝ち試合―年代順ピックアップ―』を見終わった大地は、『礼文慎敗戦集』の再生ボタンに手をかけた。
この敗戦映像は、炎城志朗戦か。
相討ちだったっけ?
この負けって立会人の逆鱗に触れて試合中に介入されて、両者負けだったよな。
他に今年度の負けは……ああ……
大野間戦か。
これは無理心中の片方が生き延びちゃった、みたいな変な試合だった。
あいつの覚醒が俺とやった後で良かったな。
最近の大野間の試合、隙だらけなのに隙間がない感じだ。
今年度、礼文の負けは、もう他になかったかな。
これ炎城戦での謹慎罰がなければ、普通に総合優勝してたんじゃないか?
こいつ、インタビューとか取材では冷静沈着を装ってるけど、やっぱりトップリーグの上位陣だな。
きっちり、頭のネジがぶっ飛んでる。
もっと前だと、礼文が大怪我した原因になった杉原何某戦か。
これも無理心中に付き合わされた感じがする。
機能不全50%に先に到達したから、礼文の負けだっけ。
最終的に機能不全90%超えている杉原何某、何でこいつこれで命があったんだ?
俺と最後にやったときも、騎士艇の上半身吹っ飛ぶくらいの爆発で『直前に脱出してました』じゃねえんだよ。
シャボンシェルターの保護膜程度では、騎士艇の爆発に耐えられねえんだよ。
こいつの方が炎城よりよっぽど鉄人……いや、今は礼文だ。
大気中ほどに衝撃を伝播しない真空の宇宙でなければ、大地が感じたように、杉原行成は爆発の衝撃に巻き込まれて命を落としていただろう。
一回、整理しようか。
大地は天井を見つめて、大きく息を吐きだした。
うん、こいつら、本物のバケモンだ。
俺、よく杉原何某とか炎城に勝ってるな。
胸につかえたことを吐き出すと、大地は大きく手を打ち鳴らした。
……はい、ダイチ君の感想は、ここまで。
感情や感嘆だけでなく、感想さえも邪魔になる気がしたのだ。
礼文が勝つときと負けるときの違いは、何だ?
こいつの隙間はどこにある……
大地は事務室から予備の端末を借り出して会議室に戻ってきた。
大地から向かって左には『礼文慎勝ち試合―年代順ピックアップ―』、右には『礼文慎敗戦集』をセッティングして、それぞれ映像を再生し直した。
大地の両目の焦点が、それぞれ忙しく走り回る。
炎城志朗戦。
止める。
礼文慎が攻めているのか、攻めさせているのか。
両者が迷わず吶喊している。
半歩分だけ炎城の軌道をずらしてカウンター攻撃に移っている。
……なぜ、間に合っている?
大地は眉間に皺を寄せる。
そして動画を少し戻す。
「……わずかに、予備動作がある。
これは、回避ミスでもない。
こいつ、自分を餌にした、チョウチンアンコウだ」
大地の左の視界では、延々と勝ち続ける礼文の姿が流れている。
わかりきったことだけど……
礼文は相手の攻撃を見て、それから対応しているんじゃない。
この迷いのなさ。
礼文が危険中毒でもなければ、相手の動きを限定させたと確信しているからじゃないかな。
隙を見せているようで、そこに隙はない。
鍛え込んだ相手ほど、そこを攻めたくなる。
そして、そこは礼文の得意な形に持っていける場所なのだろう。
ただ、お互いトップリーガーだ。
負けるときは礼文の油断というより、そのまま餌ごと持っていかれることがあるということだろう。
大野間戦。
炎城戦と展開が全く違う。
先に有利なポジションを礼文が獲っている。
大野間の動きは、あまりに無防備過ぎる。
結果を知り、本人から顛末を聞かされてもなお、自殺行為過ぎる。
接近戦こそ、礼文の最も得意とする戦場だ。
だからこそ、礼文は大野間の動きを限定できていない。
正真正銘、捨て身の大野間に生き残るつもりがないからだ。
安全性も回避も頭にない。
それに気づいたのか、礼文は自分から勝ち筋を作ろうとしている。
結果的に礼文の選択肢が、減らされている。
大野間はまさに礼文慎の隙間を潜り抜けている。
自分が正しいと確信させられて――いや、結果論だけど妄信の方かな。
ときに礼文は判断が速過ぎることがある。
だから、試合中に『この形で勝てる』と判断すると、それが実現する未来なのだと妄信する傾向がある。
そしてその妄信を成立させるために、全精力を注ぎ込むようだ。
本来、トップリーグはその妄信に飲み込まれるほど甘くない。
だが、礼文はその妄信からさらに先まで踏み込む執念がある。
杉原何某のように試合を組み立てて、プランが固まれば高瀬のように迫ってくる、といえばいいのか。
大地は左の『礼文慎勝ち試合―年代順ピックアップ―』に注意を向けた。
礼文が踏み込む。
一時停止。
相手が崩れる。
一時停止。
トドメの瞬間。
一時停止。
――こいつに勝つには、狂気がいるのか。
大地は背中を椅子に預けて、苦笑するほかなかった。
まさに、天敵……俺にとっての。
俺を潰すために特化していると言っても大袈裟じゃない。
……俺の方が後輩だから、それはおかしな評価なんだけどな。
礼文慎の弱点は、技術面でも慢心でもない。
礼文の勝ち筋の中にこそ、弱点がある。
――大野間、お前、本当に正解を引いてるじゃん。
『トップリーグ最弱にして、最期まで諦めない』なんていう褒めてんだか貶してんだかわからないキャッチフレーズが示しているように、それまでの大野間は、万年勝星配給係だった。
口さがない連中には『大野間銀行、ごっつあんです』とまで揶揄されていた。
礼文からの勝利によって何かを掴んだらしい大野間は、それ以降は連勝街道を歩み続け、長らく応援してきたファンを大いに感激させているという。
思い返せば、大地との試合中でも大野間は狂気の片鱗を見せてはいた。
大野間曰く、その狂気の蓋を開けたのは、大地らしい。
――ない種は、芽吹かねえんだ。
俺のせいにすんなし。
大地は頭を横に何度も振った。
――狂気……俺のどこにある?
個人主義にして、現実主義の俺の、
どこにそんな不要品があるんだ。
狂気。
礼文慎戦を控えた大地にとっての、青い鳥。
青い鳥は、どこにいますか?
どんなに大切なことを教わっても、
自分でやってみなければ、本当のことはわかりません。
世界中の知恵を伝えるのは、ほんのひととき。
けれど、それを本当にわかるようになるには、
一生かかっても足りないのです。
なぜなら、
私たちの道を照らしてくれるのは、
自分で得た経験だけだからです。
『青い鳥』から抜粋し
筆者が絵本風に翻訳したもの。
原案:モーリス・メーテルリンク
再構成:ジョルジェット・ルブラン
英訳:アレクサンダー・テイシェイラ・デ・マトス
底本:The Blue Bird for Children




