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俺の腕、売ります。  作者: ももクリさんねんかきハチネン
第十章 反発する歪み、揺り戻すねじれ
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第124話「青い鳥」

 むかしむかし、あるところに、


 木こりのお父さん、お母さん、


 そして、かしこい兄と、かわいい妹が、


 くらしていたのです。



 『青い鳥』から抜粋し

 筆者が絵本風に翻訳したもの。

 原案:モーリス・メーテルリンク

 再構成:ジョルジェット・ルブラン

 英訳:アレクサンダー・テイシェイラ・デ・マトス

 底本:The Blue Bird for Children





 赤銅騎士団 会議室。


 やめてほしいよな、本当。

 試合直前にアドバイザーを呼びつけるのは。

 試合前の調整が出ちゃったんだろうけどさ。


 鋼谷は騎士運の北斗星環群に呼び出しを受けて、今日丸いっぱいは不在だ。

 大地は大量の礼文慎の試合と解析のデータを宿題代わりに眺めていた。

 鋼谷が編集した動画のうち、『礼文慎勝ち試合―年代順ピックアップ―』を見終わった大地は、『礼文慎敗戦集』の再生ボタンに手をかけた。


 この敗戦映像は、炎城志朗戦か。

 相討ちだったっけ?

 この負けって立会人の逆鱗に触れて試合中に介入されて、両者負けだったよな。


 他に今年度の負けは……ああ……

 大野間戦か。

 これは無理心中の片方が生き延びちゃった、みたいな変な試合だった。

 あいつの覚醒が俺とやった後で良かったな。

 最近の大野間の試合、隙だらけなのに隙間がない感じだ。


 今年度、礼文の負けは、もう他になかったかな。

 これ炎城戦での謹慎罰ペナルティがなければ、普通に総合優勝してたんじゃないか?

 こいつ、インタビューとか取材では冷静沈着クールを装ってるけど、やっぱりトップリーグの上位陣だな。

 きっちり、頭のネジがぶっ飛んでる。


 もっと前だと、礼文が大怪我した原因になった杉原何某戦か。

 これも無理心中に付き合わされた感じがする。

 機能不全50%に先に到達したから、礼文の負けだっけ。

 最終的に機能不全90%超えている杉原何某、何でこいつこれで命があったんだ?

 俺と最後にやったときも、騎士艇の上半身吹っ飛ぶくらいの爆発で『直前に脱出してました』じゃねえんだよ。

 シャボンシェルターの保護膜程度では、騎士艇の爆発に耐えられねえんだよ。

 こいつの方が炎城よりよっぽど鉄人……いや、今は礼文だ。


 大気中ほどに衝撃を伝播でんぱしない真空の宇宙でなければ、大地が感じたように、杉原行成は爆発の衝撃に巻き込まれて命を落としていただろう。


 一回、整理しようか。


 大地は天井を見つめて、大きく息を吐きだした。


 うん、こいつら、本物のバケモンだ。

 俺、よく杉原何某とか炎城に勝ってるな。


 胸につかえたことを吐き出すと、大地は大きく手を打ち鳴らした。


 ……はい、ダイチ君の感想は、ここまで。


 感情や感嘆だけでなく、感想さえも邪魔になる気がしたのだ。


 礼文が勝つときと負けるときの違いは、何だ?

 こいつの隙間はどこにある……





 大地は事務室から予備の端末を借り出して会議室に戻ってきた。

 大地から向かって左には『礼文慎勝ち試合―年代順ピックアップ―』、右には『礼文慎敗戦集』をセッティングして、それぞれ映像を再生し直した。

 大地の両目の焦点が、それぞれ忙しく走り回る。


 炎城志朗戦。

 止める。

 礼文慎が攻めているのか、攻めさせているのか。

 両者が迷わず吶喊している。

 半歩分だけ炎城の軌道をずらしてカウンター攻撃に移っている。


 ……なぜ、間に合っている?


 大地は眉間に皺を寄せる。

 そして動画を少し戻す。


「……わずかに、予備動作がある。

 これは、回避ミスでもない。

 こいつ、自分を餌にした、チョウチンアンコウだ」


 大地の左の視界では、延々と勝ち続ける礼文の姿が流れている。


 わかりきったことだけど……

 礼文は相手の攻撃を見て、それから対応しているんじゃない。

 この迷いのなさ。

 礼文が危険中毒バトルジャンキーでもなければ、相手の動きを限定させたと確信しているからじゃないかな。

 隙を見せているようで、そこに隙はない。

 鍛え込んだ相手ほど、そこを攻めたくなる。

 そして、そこは礼文の得意な形に持っていける場所なのだろう。

 ただ、お互いトップリーガーだ。

 負けるときは礼文の油断というより、そのまま餌ごと持っていかれることがあるということだろう。





 大野間戦。


 炎城戦と展開が全く違う。

 先に有利なポジションを礼文が獲っている。

 大野間の動きは、あまりに無防備過ぎる。

 結果を知り、本人から顛末てんまつを聞かされてもなお、自殺行為過ぎる。

 接近戦こそ、礼文の最も得意とする戦場だ。

 だからこそ、礼文は大野間の動きを限定できていない。

 正真正銘、捨て身の大野間に生き残るつもりがないからだ。

 安全性も回避も頭にない。

 それに気づいたのか、礼文は自分から勝ち筋を作ろうとしている。

 結果的に礼文の選択肢が、減らされている。

 大野間はまさに礼文慎の隙間を潜り抜けている。

 自分が正しいと確信させられて――いや、結果論だけど妄信の方かな。

 ときに礼文は判断が速過ぎることがある。

 だから、試合中に『この形で勝てる』と判断すると、それが実現する未来なのだと妄信する傾向がある。

 そしてその妄信を成立させるために、全精力を注ぎ込むようだ。

 本来、トップリーグはその妄信に飲み込まれるほど甘くない。

 だが、礼文はその妄信からさらに先まで踏み込む執念がある。

 杉原何某のように試合を組み立てて、プランが固まれば高瀬のように迫ってくる、といえばいいのか。





 大地は左の『礼文慎勝ち試合―年代順ピックアップ―』に注意を向けた。


 礼文が踏み込む。

 一時停止。


 相手が崩れる。

 一時停止。


 トドメの瞬間。

 一時停止。


 ――こいつに勝つには、狂気がいるのか。


 大地は背中を椅子に預けて、苦笑するほかなかった。


 まさに、天敵……俺にとっての。

 俺を潰すために特化していると言っても大袈裟じゃない。

 ……俺の方が後輩だから、それはおかしな評価なんだけどな。


 礼文慎の弱点は、技術面でも慢心でもない。

 礼文の勝ち筋の中にこそ、弱点がある。


 ――大野間、お前、本当に正解を引いてるじゃん。


 『トップリーグ最弱にして、最期まで諦めない』なんていう褒めてんだかけなしてんだかわからないキャッチフレーズが示しているように、それまでの大野間は、万年勝星配給係だった。

 口さがない連中には『大野間銀行、ごっつあんです』とまで揶揄やゆされていた。

 礼文からの勝利によって何かを掴んだらしい大野間は、それ以降は連勝街道を歩み続け、長らく応援してきたファンを大いに感激させているという。

 思い返せば、大地との試合中でも大野間は狂気の片鱗を見せてはいた。

 大野間曰く、その狂気のふたを開けたのは、大地らしい。


 ――ない種は、芽吹かねえんだ。

 俺のせいにすんなし。


 大地は頭を横に何度も振った。


 ――狂気……俺のどこにある?

 個人主義にして、現実主義の俺の、

 どこにそんな不要品ガラクタがあるんだ。


 狂気。

 礼文慎戦を控えた大地にとっての、青い鳥。





 青い鳥は、どこにいますか?




 どんなに大切なことを教わっても、

 自分でやってみなければ、本当のことはわかりません。

 世界中の知恵を伝えるのは、ほんのひととき。

 けれど、それを本当にわかるようになるには、

 一生かかっても足りないのです。

 なぜなら、

 私たちの道を照らしてくれるのは、

 自分で得た経験だけだからです。



 『青い鳥』から抜粋し

 筆者が絵本風に翻訳したもの。

 原案:モーリス・メーテルリンク

 再構成:ジョルジェット・ルブラン

 英訳:アレクサンダー・テイシェイラ・デ・マトス

 底本:The Blue Bird for Children

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